先入観を捨てて
「ワイルド、お前はどうなんだ? 人身売買をやめる意志はあるのか?」
ワイルドベアはもじもじと両手の指をからませ、おずおずと声を発した。
「……奴隷を、こどもたちを売らなくてすむなら、これ以上うれしいことはないクマ」
え、それはもしかして人身売買をしていたことがそもそも嫌だったってことか?
「……あたりまえクマ。……いきものを、ものみたいに売り買いするなんて、ひどいことクマ」
このワイルドベア、見た目に似合わず、じつはめちゃくちゃいいやつなのではないか?
何だか調子が狂うな。
しかし、思い返してみれば奴隷オークションで競り落とされた奴隷を大切に扱うように言っていたか。
あのときは違和感を覚えたが、単純にワイルドの心根が魔族らしからぬ慈愛に満ちたものだったと考えれば合点がいく。
とても奇妙に感じるが、たしかにリッチや仮面の男も魔族だからといって必ずしも人間に害を加えることを目的に活動しているわけではなさそうだ。
人間にも善良なやつと悪辣なやつがいるように、魔族にもいろんなやつがいるというわけか。
低級のモンスターは別として、一定以上の知性を有する魔族は、魔侯爵みたく平然と人間に敵対する者ばかりだと決めつけるのは偏見なのだと認識を改めなければならないな。
要するに見た目や種族で相手を判断するなってことだな。
「……奴隷オークションをやめられるなら、クマはこころからうれしいクマ」
「まあ、その、なんだ……。じゃあ、お前たちは全員、商売から手を引く、ないしは運営方法を改めるということで問題ないんだな?」
俺が確認するとふたたびリッチが残りの二人とうなずきあって、
「それで良かろう」
あっさりと俺の要求は受け入れられてしまった。




