威圧
三魔族の二体の正体がわかった段階で大勢はほぼ決したと言っていい。
仮面の男の正体はわからないが、俺たち全員でかかれば少なくとも負けるということはないだろう。
「……これで誠意を示せたクマか?」
「上々だ」
作戦の概要はみんなに話してある。
俺の思惑と姫様の思惑、俺がやろうとしていること。
そして、ここからの展開についても。
「……では、聞かせてもらおうクマ。……クマたちに利益をもたらす儲け話とやらを」
「その前に謝罪と忠告をしたい。一つは例の儲け話が成り立たなくなったことだ。すまないな」
俺はすぐにでも動けるよう全身に力を込めた。
「そしてもう一つ。うまい話には裏があるから気をつけろ、ってことだ」
ワイルドは警戒の態勢からゆっくりと攻撃のそれへ巨躯を動かした。
「……つまり、クマたちをだました、ということクマ?」
「物わかりがいいな。俺ははなから人身売買や麻薬の密売が気に食わなくてね。策を弄するのもめんどくさい。だから、こうして正面から直談判しようというわけだ」
俺は身勝手な要求を突き付けた。
「人身売買と麻薬の密売をやめろ。それと娼館も不当な運営を改めろ」
「……かってな言い草クマ」
「勝手は百も承知だ」
「……クマたちにはクマたちの事情があるクマ。……その要求は受け入れられないクマ」
リッチと仮面の男も態勢を警戒から攻撃のそれへと切り変えた。
やはりこんな一方的な要求に応えてはくれないか。しかたない。
「それならしょうがない。力ずくで悪の親玉をぶっ潰すしかなさそうだな。あの魔侯爵のときと同じように」
腰にさげた鞘から剣を抜き出し、身構えた。
だが、ワイルドベアは俺の言葉に驚いたように棒立ちになった。
隣のリッチはあごに手を当て、仮面の男は「ほう」とひと言漏らした。
魔侯爵を倒した、という俺の言葉に多少なりとも驚いてくれたなら重畳。
ついでに恐れをなして降参してくれるとなおありがたいのだが。
俺の背後の仲間たちも臨戦態勢に入った気配が伝わってくる。
戦闘前の殺意による威圧。
敵の意をくじく圧迫感が場を支配する。
悪逆の魔族を撃滅する。
俺は柄をにぎる手に力を込めた。




