みんなで買いもの
俺の提案でケイウッドとベルナンディアの装備を新調しにいくことになった。
前回の買いものではそのままの装備で問題ないと主張していた二人だが、今は状況が変わった。
魔族三体を相手にやり取りをしようというのだから最悪の場合、戦闘に発展することもありえる。
ワイルドの様子からすると魔侯爵ほどの戦闘能力を持つ者はいないと思われるが警戒を怠るべきではないだろう。
ネムリやメルティエは前回の買いものでそれなりの装備を揃えたので今回は付き添いだ。
《転移門》でイムネマに移動し、前にも利用した「ショップ ミスリル」に足を運ぶ。
あいかわらずメルティエは落ち着かない様子で、高級感あふれる店内を見回していた。
俺は叙勲式やらに比べれば自分が客なのだと思い込むことでさほど緊張しなくなっていた。
経験は積み重ねが大事だな。
「いらっしゃいませ」
例によって品のいい女性店員が丁寧に頭を下げ、俺たちを迎えてくれた。
今回はケイウッドとベルナンディアの武具購入がメインだ。
ベルナンディアは故郷から持ち出してきた《巨人殺し》があるから防具のみになるか。
基本的に本人たちが気に入ったものを選べばいいと思うが、選定の基準はやはり強敵と戦う際に戦闘を補助してくれる性能を有する武具、魔法の加護が備わっているかどうかが判断の分かれ目になるだろう。
前回、ネムリが購入した武具は物理攻撃と魔法攻撃のそれぞれに耐性を持つ装備だった。
ベルナンディアはパーティの盾として前衛に立つし、ケイウッドも前衛にまわることがある。
二人とも特に物理攻撃耐性に優れた防具を意識して選ぶと良いだろう。
店には剣、斧、盾、杖、篭手、鎧など、様々な武具が飾られている。
特に魔法の加護が付与されている武具はうっすらと魔法の光を浮かべており、独特の存在感を放っている。
俺は店員に魔導師用の防具を見繕ってくれるよう頼んだ。
予算の上限はなし。
店内のアイテムをおっかなびっくり眺めていたメルティエを呼び寄せ、店員がかき集めてきた防具を着せ替え人形よろしく試着させた。
「シュージ、これはどういうことです?」
「メルティエは前回、魔力向上の武具しか買わなかったからな。防御力も上げておいたほうがいいだろうさ」
「で、ですが、このお店の商品は……」
申し訳なさそうな表情からすぐに察しがついた。
「支払いなら任せろ。俺はこう見えてもう貴族様なんだ。ちょっとやそっとの出費はあれだ、必要経費ってやつだ」
なるべく豪胆なふりをして、しぶしぶながらもメルティエを納得させた。
今更ではあるが、俺がマジックポーションや魔法のスクロールの内職で稼いでいることは仲間たちに伝えていなかったかもしれない。
特別、隠したつもりはないがあえて言う必要もなかったのでみんな俺の金の出どころについて不思議に思っているかもしれないな。
だがケイウッドやベルナンディアが何も言ってこないのは俺を信用してるというか、俺のことだから抜け目なく何らかの手段で金儲けをしていると察しているのだろう。
そのあたりの物わかりの良さというか適当さは俺にとっては気楽で助かる。
メルティエは物理攻撃に一定の耐性障壁を発生させるピアスと、魔法攻撃に耐性を持つマジックローブを購入することになった。
メルティエの装備を取っかえ引っ変えしている間にケイウッドやベルナンディアも手頃な品を見つけたらしい。
ケイウッドはナイフとショートソードを魔法の加護が備わったものへ変更、初級レベルの収納魔法《魔穴》が使えるようになったので後で市場で追加の矢を購入することになった。
防具もただのレザーアーマーからより軽量でかつ物理攻撃耐性を持つ盗賊・レンジャー向けの装束へと買い替えることにしたようだ。
ベルナンディアは胸部に鉄板、スカート内部に高硬度の特殊な鎖かたびらを仕込んだ、魔法の加護を受けたチェインドレスを買うことになった。
二人は前衛役ということで物理攻撃に強い武具を選んでいるが魔法攻撃にも耐性を持っていて困ることはないだろう。
魔法攻撃の威力を軽減するマジックアイテムの腕輪も追加でプレゼントすることにした。
「何から何まで悪いのう、シュージ」
「いいってことよ。貴族にもなったんだ。経済面は俺に任せろ」
「さすがシュージ、オレが見込んだ男だね! よっ、大貴族!」
「これ、ケイウッド。ヌシはもう少し謙虚にならんか」
ベルナンディアが半眼でケイウッドの尻をバシンとはたいた。
地味に嗚咽を漏らすケイウッドにすこし同情する。
「まあまあ。アイテムマスターのスキルを生かして内職で稼いでる金もあるから懐には余裕があるんだ。無駄遣いでもないし、みんなの命を守るためなら安い出費だよ」
仲間の命を守るための出費ならいくら散財しても惜しくない。
命を預ける仲間であり、馬鹿話をしながら酒を煽る気のいいやつらだ。
アイテムマスターを自称する俺でも、こうしたかけがえのない友に比肩する至高のアイテムを知らない。
どれだけアイテムを収集しても、それはどこまでいっても自己満足に過ぎない。
酒に酔いながら友と交わす、たわいない会話、時間こそ、この上なく俺のこころを潤してくれる。
偽りのない財宝、というと少し気恥ずかしいか。
「さあて、みんな買うもの持ったか! ぜんぶ俺のおごりだ。大散財するぞ!」
ケイウッドやベルナンディアはもちろん、買うもののないネムリやエルスラまでノリに乗って「おーッ!」と拳を突き上げた。




