会食する貴族たち
叙勲式が終わったら広間で立食式の歓談の場がもたれた。
主役は俺ということになっているが、まわりを見るとひさしぶりに会う貴族同士の情報交換の場にもなっていた。
やはり平民出身の俺が貴族、それも王国四大貴族の一人になるということに納得していない者も多いのだろう。
俺が貴族になったことより優先されると考えているわけだ。まあそれはいい。
俺は話しかけてくれる貴族たちに今まで経験してきた冒険の話などを面白おかしく話して聞かせた。
聞こえのいいおべっかが得意でないのもある。
それに同行してきた仲間たちは王侯貴族がふるまう豪華な食事にむしゃぶりついていたから俺が相手をするしかなかった。
仲間たちにはあまり粗相はしてくれるなよ、と心配していたが幸いにも杞憂に終わりそうだ。
元貴族のケイウッドは作法をわきまえているし、酒さえ入らなければ品のあるベルナンディアやお行儀のいいネムリは貴族の若いお嬢様方、夫人方に可愛がられていた。
常識人のメルティエも時と場所を考えたふるまいで貴族の男たちを相手してくれている。
エルスラは適度に食事をしながら俺に降りかかる火の粉がないか警戒していた。
基本的に多量の酒さえ絡まなければ面倒を起こさない仲間たちに感謝した。
俺は話しかけてくれる貴族たち、そして周囲で歓談しているすべての貴族たちを念の為、《状態目視》で確認していた。
叙勲式の際に行ったので王族もその対象だ。
結果は魔侯爵の言葉どおり、みんな人間で少なくとも存在そのものが邪悪な輩はいないようだ。
だが、俺との会話で素直に俺の活躍を褒め称える者もいれば、逆に慇懃無礼にさり気なく平民の出をけなす者、あるいは俺の実力を疑う者など様々な者がいた。
どこの馬の骨ともわからない若造がいきなり貴族、それも四大貴族の位に座するとなれば怪しみもするし、妬みもする。
各々が各々のやり方で俺との関係を築こうとしていた。
俺はたくさんいる貴族のなかでも、とりわけ俺以外の四大貴族の動向について気を張っていた。
四大貴族には王派閥の貴族が二人、貴族派閥の者が二人いた。
王派閥が先の事件の首謀者でもあったエンネイ侯、そして穏健で善政を敷いていると評判らしい若手のゴールドウィン子爵。
貴族派閥は軍部とのつながりが強い、古株の頑固者だというダングスト侯爵、そしてそのダングスト侯の腰巾着とも揶揄される中年のアル中貴族、コルケス男爵だ。
ダングスト侯とコルケス男爵は同派閥の貴族たちと歓談、というよりは軍議でもしているかのようにいかめしい表情で話し合っていた。
王派閥で平民上がりの俺なんか眼中にないらしい。
「お初にお目にかかる、レンドル南方伯」
金髪の青年が俺を取り囲む人垣を割って声をかけてきた。
整った顔立ちにやわらかな声質。
う、なんて爽やかなイケメンオーラ……。
彼の周囲だけキラキラと瞬く星が散りばめられているようだ。
「ゴールドウィン子爵、でよろしかったですか?」
「ははは、アレクセイで構いませんよ」
「では、アレクセイ子爵」
「呼び捨てで構いません。私たちは年も近いですし、同じ四大貴族で王派閥という、いわば運命共同体です。貴殿とは身分の垣根を越えて付き合えたら私も嬉しい」
貴族なのになんてフランクでいいやつなんだ。
見た目も中身もイケメンだなんて反則すぎるだろう。
「じゃあ遠慮なく…………よろしく、アレクセイ」
「私もシュージ、と呼ばせてもらうよ」
アレクセイは手を差し出し、俺は応えて握手を交わした。
その状態でアレクセイは俺に肉薄して、小さい声でささやいた。
「シュージ、貴族の権力闘争もまた戦争だ。気をつけたまえよ」
サッと身を引いて何事もなかったかのようにニコニコと微笑むアレクセイは貴族として、為政者としての仮面を顔に貼り付けていた。
そこには柔和で人懐っこい青年の雰囲気しかない。
なるほどな、貴族たちの世界というのもまた戦場というわけか。
そして、それをわざわざ忠告してくれるアレクセイは少なくとも悪いやつではなさそうだ。
同年代の貴族として、そして四至宝を持つかもしれない貴族として仲良くやっていきたい相手だった。




