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オークションの支配者

 突然の高額入札にざわめきが起こった。

 人身売買の相場はわからないが、銀貨1枚単位で競り合っていた様子を鑑みるにさほど高い値がつくものではないのだろう。

 それをいきなり銀貨100枚で落札した。

 注目を浴びないはずがなかった。


 その後も「商品」とよばれた幼い子どもたちは仮面の女に銀貨100枚で次々に落札されていった。

 他の参加者など意に介さず、オークションという形式すら無視するかのように堂々と「商品」を買い占めていく。

 その場にいる誰も彼女に逆らうことができなかった。

 絶対的な力で他者を圧倒し、会場の空気を支配していく。


 これは何かある。俺の直感が告げていた。

 この女はただの好事家ではない。

 何らかの目的があって買い占めている。

 ならば、その意図に絡んでみようじゃないか。

 異端には人と事件が集まる。

 思わぬところで魔族につながる手がかりが手に入るかもしれない。


「さ、さて、いよいよオークションも終わりが近づいてきました。最後の商品はこちらです!」


 店員の男がステージに手をかざすと、ステージ横から薄汚い服をまとった金髪の少女が連れてこられた。

 その少女の耳に誰もが注意を向けた。


「最後の商品は目玉も目玉! なんと正真正銘、エルフの女です! こちら銀貨20枚から始めてください!」


 今まで人間の少年少女が売りに出されていたが、ここに来て亜人種の少女が現れたことで参加者の誰もが色めき立った。

「コレクターズ」はヒト種が最大の人数を誇る世界であり、亜人種は基本的に少数民族だった。

 そのため彼らは仲間意識が強く、結束力は人間よりも強い。

 他種族に攻められないように同種族で固まり、助け合うのが常だ。

 なのでこんな形で亜人種が人身売買の「商品」にされることは非常にめずらしい。

 参加者らは我がものにしようと口々に値段を叫んだ。

「40枚!」「50枚!」とつり上がっていく値段に、だがやはり例の女が鋭いひと声をあげた。


「銀貨300枚!」


 跳ね上がった値段にふたたび会場にざわめきがあふれた。

 ざわめきは熱気を呼び、会場が沸き立つ。

 だが今回は俺も女に絡んでいく。

 こんな場所で子どもを買い占める怪しい人物に、何の思惑もないはずがない。


 俺は女に負けじと大きな声をあげた。


「銀貨500枚!」


 どよめきと共に声のした俺のほうをふり向くやつらがいた。

 連中の仮面の下には驚きの顔が貼り付いていることだろう。

 それはどうやら仮面の女も同じだったようで、俺のほうをふり返って、すぐに前へ向き直り、


「銀貨700枚!」


 さらに値段をつり上げた。

 意地でも負けないとでも言うかのような気迫が声にこもっている。

 俺は女の手持ちを探るために入札値段を刻む作戦に出た。


「750枚!」


「800枚!」と女。


「820枚!」


「900枚!」と突き放してくる。


 これはかなりの資産家か、あるいは相当に位の高い貴族のお嬢様か。

 俺はなおも追撃をかける。


「920枚!」


「950枚!」と、ここにきて女もさすがに数値を細かく刻んできた。

 おそらく銀貨1000枚前後が予算の限界なのだろう。

 すでに二十人ちかくの子どもたちを落札している。

 そう考えると今日の有り金は合計して銀貨3000枚ほどということか。

 とんでもない金持ちだな。


 俺がなおも入札するか迷っていると、仮面の女がふり返って俺を見据えてきた。

 それは何かを訴えたいようでもあり、睨みつけているようでもある。

 仮面越しの視線の思惑を知ることはできないが、俺にはどうにも彼女が悪事を働こうとしているようには思えなかった。

 オークションで子どもをありったけ落札して何をするのかはわからない。

 だが逆に言えば、そんなことをして何の得になるのかもわからなかった。


 金はあるから落札はできるだろう。

 しかし仮面の女の思惑を阻止することが俺にとって有益か否か、それが問題だった。

 つながりあう視線と視線。

 わかり合えない思惑と思惑。

 ただ俺が彼女の人間性を信じるか信じないかだけ。


「そちらのお客様、いかがなさいますか?」


 時間がない。

 俺は自分の直感を信じることにした。


 店員の男に向かって手をふり、入札しない意志を伝えた。


「おめでとうございます! なんと銀貨950枚という前代未聞の金額で見事、落札されました!」


 男がハンマーを叩き、仮面の女の落札を声高に告げた。

 会場の参加者たちはすべての奴隷を買い占めた仮面の女に盛大な拍手を送った。


 奴隷オークションを完全に制覇した女は、しかし少しも喜ぶ素振りを見せず、落ち着いた様子で周囲の喧騒に埋もれていた。

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