奴隷オークション
地下からもどるとエルスラが待っていた。
「どうだった? 観客のなかに不審な輩はいたか?」
エルスラはゆっくりと首をふり、
「いえ、それらしい者は」
そうか……。
そうすると魔族は闘技大会そのものには関心を持っていないという線も考えられるか。
破壊や死を喜ぶようなやつなら、ああいった場にかならず顔を出すだろうと踏んだのだが、見当が違っていたようだ。
それならこれから始まる本命の催しに賭けるしかない。
「皆様、お待たせしました。準備が整いましたので、どうぞ奥の間までお越しください」
店員の誘導に従い、俺とエルスラは他の客に混ざって奥の部屋へと入っていった。
そこは前方にステージのような壇があり、そのステージを囲むようにイスが整然と並べられていた。
俺たちは部屋全体を見渡せるように後方のイスに腰掛けた。
すべての客が席につき、ステージ横の台に店員がつくとすぐにオークションが開始された。
「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。それでは早速、最初の商品からご紹介しましょう!」
人を「商品」扱いか……。
わかってはいたが、いざ目にすると不快な気分になるな。
店員が合図すると、ステージ横から両脇を男たちに挟まれて幼い少女が連れてこられた。
おそらくネムリと同じくらいの年頃か。
簡素な貫頭衣を着せられ、浮かない表情をしている。
「さあ皆様! まずはこちらの人間の女、銀貨1枚から始めていただきます!」
店員が言い終わるや否や、客席から「2枚!」「4枚!」だのと手と声が上がった。
人が、それもおそらく身寄りもない幼い子どもが物のように扱われ、売られていく。
こんな光景は見たくない。
「コレクターズ」にそっくりなこの愛すべき世界で、こんなことが行われているなんて俺は認めたくなかった。
俺には目の前で行われているゲスな行為を止めたいという思いがある。
でも、この場で暴れまわるだけでは根本的な解決には至らない。
歯がゆい思いに唇を噛んでいると、凛とした声が会場に響きわたった。
「銀貨100枚!」
前方で仮面を付けている、金髪のおそらく若い女。
彼女が細い手をあげ、小競り合っていた競りの声を断ち切るようにひと声で少女を落札した。




