二段構え
飛び込んできた男は案の定、剣で突いてきた。
斬り合いになれば自然、剣と剣で打ち合いになる。
そうなれば武器を融解できる俺に分がある。
刺突なら盾で防ぐか、回避するしかない。
俺にもっと剣の技量があれば刺突すら剣で捌けていたのかもしれないが、今の仮面の男との実力差を考えればそれは不可能というものだ。
俺はしかたなく刺突を盾で弾き、返しに剣を下から斬りあげた。
男は見切っていたかのように悠然とかわし、ふたたび剣を構えて刺突攻撃をくり出してきた。
これは俺も盾で受け流しながら前進、横薙ぎに剣をふり抜く。
当たったかと思いきや、体をくの字に折り曲げてギリギリで避けられた。
間合いの捉え方が卓越している。
攻撃をかわされた無防備な俺に、男は容赦のない鋭い袈裟斬りを加えた。
ねらい、どおり……!
男の剣が俺の体に接触する間際、ガキィンと硬質な音とともに青い光が瞬いた。
「なっ……!」
俺は男の攻撃を気にも止めず、全力で返しの剣撃を放った。
男は驚きつつも素早い動きで剣をもどし、俺の攻撃を受け止めた。
瞬時に俺から距離を取り、何が起こったのかを理解しようとしているようだった。
「いまの一撃を受け止めるって、あんたどんだけ強いんだ?」
「……先ほどの青い光、魔法ですか?」
「半分あたりで半分はずれだな」
俺は身にまとっていたぼろ布を広げてみせた。
その内側には何枚ものスクロールが貼り付けられている。
「《魔法防御壁》のスクロール……」
「俺はアイテムを使う、としか言ってないぜ」
エンチャントのポーションを取り出したときに仕込んでおいたギミックだった。
男の攻撃が当たる寸前に脳裏でスクロールの使用を念じ、《魔法防御壁》を発動させた。
ネタばらしをすれば何てことはない。
ただの言葉遊びに過ぎないが、戦局を変えるには十分すぎる一手だった。
事実、高温の一撃はやつの刀身を半分以上、溶かすことに成功した。
これではもう闘うことはできない。
「あなた、とんだ食わせ者ですね」
「悪く思わないでくれ。こうでもしなけりゃ勝ち目がなかった」
仮面の男は大きくため息をつき、剣を下ろした。
「負けを認めましょう。久々に楽しめました」
「それはよかった」
「いずれ、一振りの剣のみで互角に闘える日が来ることを期待していますよ」
「せいぜい修行に励むとするよ」
俺も剣と盾を下ろし、司会が俺の勝利を叫んで試合は終わった。
疲れた。
こんな闘いは当分したくないなと俺はため息をついた。




