形勢を覆すためのアイテム
剣と盾を駆使して男の剣撃を防ぐのがやっとだった。
とても攻撃を仕掛ける隙がない。
それは俺と仮面の男の実力差を如実に表していた。
このままでは負けることはないかもしれないが勝つことはできない。
そしておそらく、こんな一方的な闘いはこの男の望むものではない。
そこに攻撃に転じるための可能性があった。
連撃からの大振りの一太刀を盾で押し退け、距離を取った。
「あんた、強いな。このままじゃ負けてしまいそうだ」
「ならば勝つための工夫をしてください」
「そのためにちょっとばかしアイテムを使いたいんだが、いいかい?」
男は束の間、考えると剣を下ろした。はやく準備しろということだろう。
俺はぼろ布の下で《無限の宝庫》からゴソゴソとアイテムを取り出した。
男に見えるようにポーションを掲げ、ロングソードに塗布していく。
その真っ赤な液体はロングソードに付着すると激しく燃えさかる炎を噴き上げた。火属性のエンチャントのポーションだ。
「待たせたな。これであんたを楽しませることができる」
「それは楽しみです」
俺は刀身全体に炎をまとったロングソードを前方に突き出して構えた。
わざわざポーションを視認できる形で使用し、スキルや魔法を使わなかったのは男の動きを封じるための行動だった。
もしもスキルや魔法を使えば、警戒されて相手も同じ土俵に乗ってこないとも限らない。
それではこちらの勝機が薄れる。
あくまでアイテムを補助的に使いましたよ、というポーズが大事だったのだ。
俺はじりじりと男との距離を詰め、今度はこちらから斬りかかっていった。
スピードを意識した重みのない一撃を、思ったとおり男はロングソードで軽々と受け止めた。
俺は兜の下でニヤリとほくそ笑んだ。
剣に力を込めると男との距離がわずかに縮んだ。
「……ッ!」
男は咄嗟に剣を押し返して俺から離れた。
そして自身のロングソードに視線を落とす。
俺の攻撃を受け止めた刀身に融解した跡ができ、溝となって赤みを帯びていた。
「……これはただの《火属性付与》ではありませんね?」
「アイテムってのは便利だろう?」
俺がロングソードに塗布したのは通常の《火属性付与》のポーションではない。
二段階も威力を高めた《火属性付与・二重》の魔法を込めた強力なエンチャント・ポーションだった。
そのねらいはもちろん男を燃やすためなどではなく、男が剣で攻撃を捌くたびに刀身を融解させる武器破壊の効果だった。
つまり、これで男は俺の攻撃を完全に回避せざるを得なくなったということだ。
「……楽しくなってきましたよ」
「それはありがたい。俺としてはさっさと満足して勝ちを譲ってもらいたいからな」
男が剣を構え、俺も盾ではなく剣を構えた。
剣と剣の打ち合いになれば、やつの剣は高熱によって溶けていく。
防御だけでなく、攻撃さえも俺の体に直接、当てなければいけない制約ができた。
これだけのハンデがあれば男の動きを相当に制限することができる。
男は慎重に距離を詰め、飛び込んできた。




