剣は腕のごとく
俺は盾に力を込めて男を押し退けた。
力に押されるがまま、男は後方へ下がり、ふたたび剣を構えた。
まったく動きが見えなかった。
気配は感じられたからこそ、眼前に迫る一撃を反射的に盾で受け止めることができただけだ。
レベルが高いとかそういう類いではない。
この男の剣は生きている。
卓越した剣士がたどり着く領域。
剣が道具ではなく、腕の延長として機能している。
それはまるで杖が腕の延長となるように、あるいは義足が本物同様の脚となるように。
男の剣は腕の延長として自在にうごめき、人を殺める部位の一つとなっていた。
いったいどれだけ研鑽を積めばここまでの実力を身に付けられるのか。
気が遠くなるほどの修練と生来の才能、どちらが欠けていてもたどり着けない領域に達している。
こいつは思った以上にまずいな。
俺はどうすれば仮面の男に勝てるか、あるいは負けないか思考をめぐらせた。
だがそんな暇を与えてくれるほど敵も寛大ではなく、
「グッ……!」
踏み込んできた男の一太刀を盾で受け止めるのが精一杯だ。
続く下からの一撃にこちらは盾で受け止めよう……とした瞬間に男の剣筋が大きく円を描いて変わり、下からの一撃が斜め上からの袈裟斬りに変化した。
なんとか反応して剣で受ける。
硬質な音が響き、だが尚も男の攻撃は止まない。
上、斜め下、体を回転させてからの横薙ぎ、突きに至ってはすんでのところで首をひねり、兜にかすり傷を作るだけでギリギリ回避した。
恐ろしい速さによって紡がれる連撃。
縦、横、斜め、点とあらゆる角度から剣撃がくり出される。
一つ一つの攻撃がなめらかに連結されることでこちらは防戦を余儀なくされる。
強者の剣技はここまで苛烈なものなのか。
剣の腕前だけなら俺なんか足もとにも及ばない強さだった。




