ケイウッドの提案
「プハーッ! うめえ!」
運ばれてきたエールをゴクリとノドを鳴らして飲むと盗賊の男、ケイウッドは満面の笑みを浮かべた。
いい気なもんだ。
俺はケイウッドの飲みっぷりをうらめしそうに眺めながら、ウェイトレスに頼んだ水をちびちびと口に含んだ。
悔しくなんかないが手持ちの金がないのだからしかたない。本当に悔しくなんてない。
「おいアンタ、シュージっていったっけ?」
鶏肉のトマト炒めを頬張りながらケイウッドが話しかけてきた。
なんとなく腹が立つのでケイウッドのチキンサラダをフォークでちびちびつまんでやった。
そういうところは大雑把というか心が広いのか、あまり気にしない様子でケイウッドは話を続けた。
「なあシュージ、アンタ率直にいって金に困ってるだろ?」
「困ってなければお前のサラダをつまみ食いなんてするもんか」
「だと思ったぜ。冒険者ギルドで登録したての初心者っぽかったからな」
話はともかく、そのうまそうな鶏肉を食べながらしゃべるのやめてくれないか。
無性にフォークで盗み食いしたくなってくるから。
「とはいえ、初心者だからって無一文とは思わなかったぜ」
そう言うとケイウッドは半分ほど残った鶏肉の皿を俺のほうに差し出した。
「女神アエラの恵みかな?」
「残念。イケメン盗賊ケイウッド様の施しだ」
イケメンは言いすぎだと思う。
よくて二枚目半ってところだ。
「言っておくが感謝はしないぞ。お前のイカサマに巻き込まれた代償ってことでいただくだけだ」
「そういう見栄はヨダレを垂らさないで言うとカッコイイぞ。ケイウッド様のアドバイスだ」
いちいち癇に障るやつだが鶏肉のトマト炒めはうまかった。
ああ、認めるよ。おいしいぞちきしょー!
さっきの唐揚げとあわせて、ひとまず腹は膨れた。
ふぅ……。
どんなに手強いモンスターより空腹は最大の敵だな。
俺が食べ終わってひと段落したのを見計らったケイウッドは、
「で、さっそく儲け話なんだが」
「おいこら、お前、俺を餌付けしたつもりかコンチキショー。完全に罠じゃないか」
「あれあれ、オレは何もタダでメシを食わせてやるなんて一言もいってないよな?」
ケイウッドがやれやれというふうにわざとらしく肩をすくめてみせた。
くっそ腹立つんだが!
「いまのメシはイカサマ巻き添えの代償で貸し借りはナシだ。それならその儲け話を聞くだけ聞いてやってもいいぞ」
あくまで貸し借りはナシ。
人に借りを作ると大抵ろくなことにならないからな。
「ま、オレは寛大だからそういうことにしておいてやるよ」
「はいはい、寛大なケイウッドさんよ。さっさとその儲け話とやらを聞かせてくれ」
なーんか状況に巻き込まれていってる気がするのが気になるが、今はとにかくまとまった金がほしい。
軽薄な盗賊ほどうさんくさくてかかわり合いになりたくないやつはいないが選り好みはしてられない。
俺は半分あきらめながらケイウッドの儲け話とやらに耳を傾けることにした。