交渉にもならない対話
試合が始まり、俺は手始めに仮面の男に声をかけてみた。
「あんた、今まで闘ってきた相手は殺したのか?」
仮面の男は俺の真意をさぐるように言葉を選んだ。
「……殺していません。ですが、それがあなたを殺してしまわない理由にはならない」
この男、頭が回る。
俺も対戦相手は殺さずにここまで勝ち上がってきた。
だからもしお互いに人を殺さない主義であるのなら、それを前提にクリーンな試合をしたかったところだが、先手を打たれた。
積極的に殺すつもりはない。だが殺さなければならない僅差の実力であったなら容赦はしない、と。
俺はもう一つ男にたずねた。
「あんたは何が目的でこの試合に出場している?」
男はすこし間を置いてから、
「強き者と闘うためです。その意味であなたは私を満足させてくれそうだ」
戦闘狂か?
それにしては高揚がない。
強くなりすぎた者の悲哀、に近いか。
「俺はこの試合に勝って優勝したい。あんたが満足してくれたら俺に勝ちを譲ってくれないか?」
ふざけた提案だと思う。
だが殺し合わなくて済むならそれに越したことはない。
「それはあなた次第です。まずはその剣で私と闘ってください」
さもありなん。
仮面の男が剣を前に突き出して構えた。
俺も剣を引き、盾を突き出して攻撃に備えた。
交渉とも呼べない会話は決裂。
あまり気乗りはしないが、この男を満足させるまで剣を交えるしかない。
俺と男はじりじりと距離を詰めながら間合いを測った。
男が剣先を下げ、
「そちらから来ないなら私から行かせてもらいます」
動いた、と認識した次の瞬間には姿が消えていた。
俺はとっさに身を引き、盾を持つ手に力を込めた。
直後、ガギィン、と剣と盾がぶつかった音が響いた。




