強者の気配
その後も力自慢の男、魔法を使う男、毒を用いる男を軽くひねって勝利を重ねた。
予想したとおり、あまり強い者はいないみたいだ。
そして次はいよいよ決勝戦。
これで優勝できればこの店の支配人とコネクションをつくれるかもしれない。
俺は最後の試合に臨むべく、闘技場に足を踏み入れた。
その瞬間、場の空気が一変した。
正面に立っている白髪混じりで中肉中背、少し背の高い仮面の男。
その男から発せられる気配が場の空気を凍りつかせていた。
こいつはまずいな。
ただロングソードを手に持ち、突っ立っているだけなのにまるで隙を感じさせない。
この緊張感、あるいは魔侯爵のとき以来か。
これは、かなりの手練れだ。
「さて、闘技大会もいよいよ決勝戦を迎えますが、いったい誰がこんな結果を予想できたでしょう。飛び入りで参加し、剣と盾で相手を圧倒してきたメゾッカ選手。こちらも初参加となります、一本の剣のみで一度もダメージを受けることなく勝利してきたソード選手。これほどの強者が対峙し、最後まで立っていられるのは果たしてどちらなのか!」
俺はソードとかいう仮面の男を観察した。
中肉中背だが、全身に適量の筋肉もついている。
パワー重視の戦士ではなく、スピードを生かした攻撃も仕掛けてくるバランス型だ。
俺自身もその部類に属するが、こういったタイプはどういう戦術で攻めてくるかの見極めがむずかしい。
実際に剣を交えてみないとわからないところが厄介といえば厄介だ。
司会の言葉によれば一度もダメージを受けず、とのことだからすべての攻撃を回避するか、剣で捌くかのどちらかで勝ち上がってきたと推測できる。
どちらにせよ卓抜した技能の持ち主であることは間違いない。
「それでは両者構えて、はじめッ!」
予断を許さない試合が始まった。




