買いものと装備改修
仲間たちに連絡を取り、イムネマで装備の新調と改修をしないかと話を持ちかけた。
女子組も王都観光に慣れてきたころだったようで快諾の返事があった。
俺は《転移門》の魔法で仲間たちを迎えに行き、イムネマまで案内した。
かなり大がかりな魔法に皆一様に驚いていたが、便利さもあって喜ばれた。
一応、魔法の使い方も説明し、ケイウッド以外は門を開くだけで移動できるようになった。
魔法適性の低いケイウッドだけは誰かといっしょに移動する、という具合だ。
イムネマでの買いものは市場や行きつけの「アイテムショップ グース」で事足りていたが、さすがにゴールドクラスの冒険者にもなった俺たちはそのレベルにふさわしい武具を身に着けるべきだろうとの俺の判断だった。
俺たちは高品質な武具専門店で有名な「ショップ ミスリル」へ足を運んだ。
店の外装だけでなく、内装もシックで落ち着いた色合いで高級感ただよう店だった。
武具もただ置いてあるというより、きっちり綺麗に飾られており、博物館にでもやってきたような気分だ。
「わ、わたしたち、場違いじゃないですよね?」
意外にもメルティエがそわそわした様子で不安げにたずねた。
ベルナンディアはいつもどおり堂々としており、元貴族だというケイウッドも案外、店の雰囲気に馴染んでいる。
「安心しろメルティエ。俺もめっちゃ場違いな気がしてる」
「ひえぇ……」
安心させるつもりで言ったのだが逆にメルティエを萎縮させてしまったみたいだ。
まああまり気にすることはないだろう。
なにせ金持ちやベテラン冒険者向けで客数自体はあまり多くない店にやってきた俺たちはそれだけで貴重な客なのだから。
「いらっしゃいませ、お客様。何かお探しでしょうか?」
品のいい女性店員さんが声をかけてきた。
さすが一流店は店員さんの態度も違うなぁ。
俺たちは主に魔法職であるネムリとメルティエ用の武具を見たい旨を伝えた。
ベルナンディアは故郷から持ち出してきた装備で十分といい、支援職のケイウッドもさほど武具の交換は必要ないとのことだった。
俺は一応、前衛でも戦っているし、武具も平凡なものを使っているので、そろそろ少し上のグレードのものを使ってみたい。
店員さんにネムリは防御を意識した武具を、メルティエは火力の底上げになる武器を見繕ってくれるようお願いした。
そうしたらあれやこれやと出てくるわ出てくるわ、高級な装備品が次から次へと紹介された。
さすがは一流店、品揃えも半端じゃない。
ネムリもメルティエも豊富なラインナップに頭を抱えていたが、とりあえずネムリは防御を重視することが目的なので効果が期待できる、お高い装備品を買うことにした。
メルティエは魔法の威力向上が目的のため、そこそこの値段のものを選んだようだ。
せっかくみんなでの買いものだし、俺は内職の収入もあって懐に余裕があったのでネムリだけでなく、メルティエの分も支払うことにした。
いつも助けてくれているお礼だ。
メルティエはひどく恐縮していたけれど感謝の気持ちだと言って無理やり受け取らせた。
俺は自分用の剣と盾も適当に上質なものを選んだ。
特別こだわりがあるわけではないが、斬れ味や軽さなど、いろんな面で使い勝手が良くなるものを選んだ。
懐に余裕ができるとこういうところでお金を気にしないで済むのがありがたい。
武具はいずれも自分たちの命を守るものである。
なるべく効果の高いものを身に着けておくに越したことはない。
買いものを終えた俺たちは宿屋に移動し、人数分のベッドが用意されたまともな部屋で武具の改修を行うことにした。
改修といっても大したことではない。
とりあえず武具の劣化を防ぎ、強度を向上させるのがねらいだ。
俺は鍛治職人のスキル《武具改修》でそれぞれの武具を改修していった。
本来は改修用の鍛治道具も揃えて行ったほうが効率はいいのだが、効果はそこまで変わらないので今回は割愛した。
スキルの黄色い光が武具を包み込み、しかし見た目には何が変わったようには見えない。
さしあたり剣は折れず、防具は壊れないように仕上がった。
これでだいぶ長く使えるようにはなっただろう。
それと俺は以前から気になっていたことを聞いた。
「ベルナンディア、お前の《巨人殺し》、ちょっと普通のとは違うよな?」
ベルナンディアは感心したような素振りで、
「ほう、気付いておったか」
「まあ伊達にアイテムマスター名乗ってないからな」
ベルナンディアから渡された《巨人殺し》を柄から刃までじっくり眺めていく。
鉄の表面のとおりの色合いなのだが、どこかウソくさい。
俺はなんとなく予想をつけてベルナンディアにたずねた。
「ベルナンディア、この武器、成長するタイプか?」
「やるのぅ、シュージ。さすがはアイテムマスターじゃ」
他人に言われるとなんとなくこそばゆいな、そのクラス名。
「これはドワーフ族に代々伝わる技術でクロッサンダイトを加工して仕上げた逸品なんじゃ」
「クロッサンダイト……?」
ケイウッドやネムリは頭上に疑問符を浮かべていたが、俺とメルティエはその名前に驚きを隠せなかった。
「クロッサンダイトって、あの……」
「たしか、すんごーく稀少な鉄鉱石だったよな?」
「うむ、中々採れんの」
平然と言ってのけるベルナンディアが怖くなった。
めったに採取できない鉄鉱石で、かつ加工が非常にむずかしいことで有名なものだった。
ドワーフ族だからこそ、こうして武器に仕上げることができたのだろう。
なるほど、今までベルナンディアが武器を変えず、刃こぼれ一つしない武器を使い続けてこられた理由がわかった。
俺は感心しながらも本題に移った。
「まあすごい武器だってことはわかったわけだが、こいつ、なんとなく殻を破りたそうというか、変化したそうに見えるんだが、手伝ってもいいか?」
「ほうほう、もうそんな時期か」
ベルナンディアはまるで小動物の毛の生え変わりみたいな軽い口調で言った。
「では頼もうかの。そやつは持ち主によって姿を変えると言われている斧なんじゃ」
なるほどね、だから見た目がどことなくよそよそしいというか、秘められた力に見合っていないような気がしたのか。
持ち主であるベルナンディアが成長したから装備品である《巨人殺し》も成長したがっていた、というところか。
俺は《巨人殺し》に指を置き、《真価顕正》のスキルを唱えた。
すると白色だった表面が徐々ににじむように赤くなり、最後はやや暗めの赤い色へと変化した。
「ほほう……」
姿を変えた自慢の得物を手に取り、ベルナンディアはためつすがめつ、つまびらかに様子を確認した。
「うむ、これは良いな! 力が漲ってきおる!」
よかった、とりあえず持ち主であるベルナンディアに気に入ってもらえてホッとした。
「シュージ、感謝するぞ! 今夜の酒はわしが奢るぞ!」
「いやいや、このくらいは普段の恩返しだよ」
子どものようにはしゃぐベルナンディアにメルティエが頬を紅潮させて微笑んでいた。
うん、見なかったことにしよう。
武具の改修もひと段落した俺たちは、冒険者どもで活気あふれるギルドの酒場に晩メシを食べに出かけた。




