上位悪魔
「シュージ! そいつは危険だ! オレたちも手を貸すよ!」
ケイウッドと仲間たちの声がする。
おそらく今の状態なら一人でも互角以上にデーモンと渡りあえるとは思うが念を入れるに越したことはない。
「ああ」
そうだな、と言いかけたところで視界が真っ黒に塗りつぶされた。
魔力の気配からそれが魔法によるものだと瞬時に察した。
おそらくは空間ごと切り取って亜空間に閉じ込める《時空小箱》、シルバークラスの魔法だろう。
「貴様の存在は許されない……許されないのだ……」
ふり向くと両手で頭を抱えたデーモンがぶつぶつ独り言をつぶやいていた。
その姿を見ているとなぜかしだいに怒りも治まり、冷静さをもって対峙することができた。
「なんでこんな魔法を使った? 一対一で戦ってもどうせお前に勝ち目はないだろう?」
魔力の量はさして差がないかもしれない。
だが、体力や腕力ではデーモンのやつよりワーウルフの俺のほうに分があった。
いまさら仲間の助力を絶たれたところで俺の勝利はまず揺るがない。
デーモンは俺の言葉にぷつりと独り言をやめ、改まった態度で言った。
「私が貴様に勝てない、そう言ったか?」
「ああ言った。人狼化したことで俺の力はお前と同等かそれ以上になった」
デーモンは落ち着きを取り戻して答えた。
「確かこう聞いたな? なぜこんな魔法を使ったのか、と」
「ああ、聞いた」
外界と隔絶された、俺にとってこの上なく都合のいい場所に閉じ込められたことで俺はとても冷静に受け答えをした。
デーモンは口の端を持ち上げ、はじめて会ったときのような傲慢さのただよう笑みを浮かべた。
「私はこれで紳士だからな。下等な貴様の質問にも答えてやろう」
デーモンはそれだけ言うと両手で拳をつくり、全身に力を込め始めた。
やつの全身から黒い魔力がにじみ出し、だんだんと邪悪な魔力がふくれあがっていくのを感じた。
俺は頭の片隅でいつでも「リミッター」の解除を行えるよう意識しておいた。
「はあああ……!」
力を込め続けるやつの体に変化が見られた。
頭の角や尻尾はより長く、太くなり、背中の翼も大きく、体そのものも二まわりは大きくなった。
そして何より、全身に帯びていた邪悪な魔力の量も質も大幅に強化された。
「さて、待たせたな。これが私の真の姿だ」
自信に満ちた声で俺の目を真っ向から見つめてくる。
その目にはどうだ、恐ろしいだろう、とでも言わんばかりの、自分の勝利を信じて疑わない高慢さがチラついていた。
俺はやつの意のままに、
「なんて、ことだ……」
驚き、恐れおののく芝居を打つことに決めた。
なるほど、たしかにやつが傲慢になるのもわかる。
さっきまでのグレーター・デーモンの状態でも通常より強力だった。
レベルで言うなら80前後はあっただろう。
そして今のこいつは真の姿、グレーター・デーモンの中でも一部の者しかたどり着けない上位種、グレーター・デーモン・イビルとなった。
レベルで言えば120前後だろうか。
野生でここまで強力なモンスターは中々いない。
だが、ワーウルフと化した俺はおそらく今のこいつに迫る強さだったのだろう。
だから、そのわずかな力の差を仲間の補助によって埋められることを恐れ、こうして一対一の場所に閉じ込めた、という寸法か。
「驚くのも無理はない。たっぷりと恐れ、苦悶し、後悔しながら死なせてやる」
油断しているやつほど隙が大きい。
俺はやつの懐に潜り込むことにした。




