覚醒
目が覚めると仲間たちが俺の顔をのぞき込んでいた。
どうやら俺は倒れているらしい。
「シュージ!」
「シュー!」
ケイウッドやネムリは目に涙まで浮かべている。
心配させてしまったな。すまない。
だが、俺はすぐに別の感情に突き動かされ、ゆっくり体を起こした。
「ちょっと待っててくれ」
周囲を見回し、状況を確認した。
エンネイ侯、いや、グレーター・デーモンは圧倒的な力で殴り蹴り、ガルドをいたぶっていた。
その光景を受け止める氷のような冷静さがある一方で、溶岩のように煮えたぎる怒りが込み上げてきた。
そして怒りとともに体力とも魔力ともつかない、生命力の奔流が体の内側からわき上がってくる。
全身が青白い光に覆われ、腹に空いていた穴もふさがり、身体中に獣毛が生えていくのがわかった。
俺の体からあふれ出る力に、グレーター・デーモンもロトン・バジリスクも気が付いたようだ。
「なんだ、貴様は……。ありえん……確かに殺したはずだ……」
攻撃の手が止まったことを不審に思ったのか、血だらけのガルドもこちらを向いた。
だが、重傷を負っているせいか、上半身が狼と化した俺が誰なのか理解が及ばないようだった。
そのままガルドは倒れ込み、気を失った。
驚き戸惑うグレーター・デーモンとは違い、敵性魔力発生源に対して、本能のままにロトン・バジリスクが威嚇しながら向かってきた。
大きく息を吸い込み、腐った口腔から腐蝕のブレスを吐き出す。
俺は冷静に呪文を唱え、
「《天使の息吹・重》」
白いまばゆい光のカーテンが邪悪な吐息を完全に浄化した。
力がわき上がって仕方がない。
俺は続けて腐った四足獣を焼き尽くす魔法を唱えた。
「《炎の監獄・二重》」
立方体の炎の檻がロトン・バジリスクを包み込んだ。
高温に焼かれてギャアギャアわめくも、通常より二段階強化された檻から逃れることは叶わなかった。
ロトン・バジリスクはしだいに暴れる力も失い、静かに灰になり、朽ち果てた。
「馬鹿げている……! たかが人間がワーウルフに変化するなど、ありえるものか……!」
目の前で起こっている事実を認められないデーモンは独り言をくり返した。
俺はただ冷静に、静かな怒りを抱きながらデーモンのほうへ向き直った。
かつての「コレクターズ」を愛し、そしてこの世界をも好きになりかけている俺を殺そうとした悪しき魔族。
魔族の軍勢を用いて人間に害をなす悪しき魔族。
滅ぼさなければならない、そう思った。




