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スピードを殺せ

「さあ、始めようではないか、ガルド・スワルド!」


「くっ!」


 エンネイ侯が叫び、ガルドに斬りかかったのを皮切りに手下のモンスターたちも動き出した。

 こちらに駆けようと姿勢を整えたシャドウ・アサシンを警戒しながら俺はネムリに声をかけ、手をつないだ。


「《聖なる領域・重セイクリッド・フィールド・デュアル》!」


 二人の魔力が螺旋状にかけあわされ、部屋全体に魔力によって生み出された金色の粒子が舞った。

 通常よりも効果の強い、上位の魔族弱体化魔法を室内全体に施した。


「小癪な真似を……!」


 ガルドに一撃を受け止められ、つばぜり合いをしているエンネイ侯が舌打ちをした。

 これで魔侯爵はもちろん、シャドウ・アサシンやロトン・バジリスクも弱体化するはずだ。

 そう思った矢先、前方のシャドウ・アサシンがこちらに向かって駆け出した。

 弱体化していてなおそのスピードは速い。

 肉眼で何とか動きを追えるくらいだ。


 俺は急いでベルナンディアに声をかけ、取り出したいくつもの煙幕玉を地面に投げつけた。

 勢いよく噴き出したネズミ色の煙が、たちまち俺たちパーティ全員を飲み込んだ。

 シュボッ、と煙の中にシャドウ・アサシンが突撃してきた音が聞こえる。

 直後、すぐ近くでケイウッドの声が響いた。


「《超加速オーバー・アクセラレーション》! 《知覚向上アッパー・センシズ》!」


 俺の体が途端に軽くなるのを感じる。

 それだけでなく、煙幕で閉ざされた視界の代わりに聴覚が鋭敏になり、自分の周囲にどれだけの人がどのような動きを取ろうとしているか、その気配の矛先まで手に取るようにわかった。

 そして、その中で俺と手をつないでいるネムリの後方から急速に距離を詰めてくる何者かの気配を感知し、


「そこか!」


 ネムリの手を引っぱり、俺の前方に隠すと同時に後方にアイアンシールドを向けた。

 直後、ガキィン、と金属音とともにシールドを持つ手に衝撃が伝わる。


「ケイウッド!」


 俺が叫び終わるが早いか、ビシャッ、と何か液体が飛び散る音が眼前の足もとから聞こえ、俺はネムリとともに水音の音源から距離を置いた。


「ベルナンディア!」


「《吹き抜ける疾風フォロー・ウインド》!」


 威力を抑えた自然魔法が風を生み、煙が晴れていく。

 俺たちがちょうど取り囲むような形で、孤立している黒い影が姿を現した。

 その足には黄土色の粘液が付着しており、シャドウ・アサシンの両脚と床とを接着していた。

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