ステータス確認
晴れて冒険者になれた俺はすこし浮かれていた。
ギルドのお姉さんの話だとギルドに登録したことで自分のレベルやステータス、スキルを頭のなかで自分だけが確認できるみたいだ。
たしかに思い描くだけで感じ取ることができる。
うむ、これはすばらしい。
ステータスを確認してみるとどうも以前「コレクターズ」でプレイしていたときの能力値やスキルが引き継がれているようだ。
なつかしいステータスパネルが脳内に表示されて、見慣れた数値やスキル名称の数々が脳裏に描かれてくる。
ちなみにアイテムマスターのクラスについた祝福としてなのか、固有スキルの欄に《無限の宝庫》という表示がある。
そこを調べてみるとかつて「コレクターズ」で収集したアイテムの名前がズラリと並んでいた。
古代遺跡の最奥に眠っていた詩吟王の聖剣《天響の銀枝》。
不死者になってまで人を斬りつづけた狂血侯の魔剣《啜り泣く貴婦人》。
神樹の妖精たちが虹の元素で織り上げた軽外套《七雨の天衣》。
幽谷の巨人族に伝わる破邪の攻性篭手《不尽》《無尽》。
浄化の泉の女神が千年の間、魔力をこめつづけた祝福されし耳飾り《天使の落涙》。
水晶竜の血と火焔蜂の蜜を高濃度で合成した万能回復薬《九廻靭》。
他にもなつかしいアイテムの数々が並んでいる。
それらに混じって以前、「コレクターズ」を冒険していたときに装着していた装備品もいっしょに収納されていた。
驚きのあまり忘れていたが、この世界に来てから何も装備品を身に付けていなかった。
転生とはいえ、基本的にもろもろがリセットされているということなのだろう。
いま身に付けているのはただの平民の衣服のみ。
裸でなかっただけよかったと思おう。
アイテムが引き継がれているのはおそらく転生ボーナスというか、転生したときのクラスがアイテムマスターだったからこその引き継ぎ特典みたいなものなのだろう。
固有スキルもアイテムマスターとしてすべてのアイテムを収集するために亜空間にいくらでもアイテムを貯蔵しておける道具袋みたいなもののようだ。
ただし、残念ながら所持金だけは引き継がれていない。
このあたりはやはり初級冒険者として受け入れざるを得ないか。
何はともあれ、以前のステータスやスキル、とりわけ苦心して集めたアイテムの数々をそっくりそのまま引き継げているのはかなり幸運だ。
と、そこまで考えてふと思い至った。
アイテム類はすべて《無限の宝庫》に収納されているから問題ないだろうが、ステータスのパラメータやスキルは隠すことができない。
この世界では基本的に他人のステータスをのぞき見ることはできないのだろうが、万が一《状態目視》の魔法で調べられたら俺のレベルやステータス、スキルに興味を持つ、あるいは怪しむ者が現れてもおかしくない。
俺は脳裏でステータスやスキルの抑制を思い描いた。
するとレベル、ステータス、スキルの表示が黒く薄れてかき消えた。
それと入れ代わるようにレベル、ステータス、スキルの数字が、まさしく駆け出し冒険者にふさわしい低い数値で白く表示された。
なるほど、「リミッター」のシステムは生きているわけだ。
「リミッター」システムは基本的にメリットらしいメリットはない、制限システムだ。
ただ、やり込みを売りにしていた「コレクターズ」ではゲームを遊び尽くした上級者向けに自らに制限をかけて遊ぶ、俗にいう「縛りプレイ」がそこそこ流行っていた。
なので一見するとなんらメリットのないシステムである「リミッター」も何かと重宝されていた。
まさかこんな形で「リミッター」の世話になるとは思わなかった。
やり込みゲーならではのシステムに今は感謝しておこう。