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君、編集者になりたいの?  作者: まーるの住人
1/1

君に必要なこと

あ、そっか。君も就職活動をする時期になったんだね。

何になりたいの?


え、編集者? ふーん。編集者になりたい…?


だいぶいばらの道だと思うけど。

本気でやるつもりがあるなら現職者としてちょっとは教えてあげるよ。ただ、それを知ったからといって君が必ず編集者になれるわけじゃない。

でも、嘘を本当にする気持ちがあれば…もしかしたらね?





■まず、初めにね…


出版社に入っても編集になれるわけじゃないよ。配属されないとなれない。希望者は多いだろうから一度ルートから外れるとちょっと厳しいかな。会社にもよるけどね。

編集プロダクションに入るという手もあるけど、新卒はまず無理。そもそも基本的に採用は中途採用だね。未経験で入れるかどうか…。それに、好きな本をつくれるわけじゃなく、外注先から受注した本の編集をする感じだね。丸投げしてくれると好きなようにつくれるけど、そんなことはまずないし、だいたい苦労するね。

フリーでやるのは経験と人脈がめちゃくちゃないと無理だね! 自分たちで編集集団を立ち上げる、という手のほうがまだ無難だけど、それもどうだろうねー。誰が依頼してくれるだろうね。そういうことだよ。


というわけで、君が新卒なら事実上、出版社に入るしかないね!

なお、出版社はほぼ99%が東京にある。あとは大阪と京都に少数だ。地方学生にはかなり厳しい門だね。


さて。編集者って言ってもいろいろとあってね。

おっきくは、書籍と雑誌に分かれてる。また、それぞれで分野…たとえば、文芸とか漫画とか科学とか教育とか、そういう専門で分かれてる。わたしが何かって? まあいいじゃない、そんなこと。

書籍と雑誌の大きなちがいはね、広告があるかどうかなんだ。書籍は本を売ることだけが収入なんだけど、雑誌は広告収入が別にある。いや、むしろ雑誌は広告で成り立ってるんだ。広告収入だけで成り立ってる無料配布の雑誌なんてのもある。ああ…ちなみにさ、雑誌が値段をつけて売っているのはもちろん収入目的ってのもあるけど、「無料だと誰でも持っていくが、有料ならその雑誌に関心のある層だけにリーチする」からなんだよ。なんでって? それはね、広告の効果を高めるためなんだ。その雑誌がどの層をターゲットにしているかは、表4…裏表紙の広告と、表2見開き…表紙をあけてすぐの見開きの広告を見ればわかる。広告料は表4がページ単価でもっとも高いけど、合計では表2見開きのほうが大きいね。つまり、その雑誌が無視できない広告主だね。

というわけで、雑誌は広告が命ってわけ。「週刊金曜日」ぐらいだよ、雑誌なのに広告がないのは。だからね、雑誌の編集者と書籍の編集者は感覚がだいぶちがう。これは覚えておいたほうがいいね。

(注:わたしは両方経験していますけど、本当に全然ちがいます。)


で、君はどんな編集者を目指しているの?


え? 書籍で文芸?


へえー。やっぱそうなの? いや、それってさ、なりたいやつがめちゃ多い分野なんだよね。自己アピールに「ぼくは本が大好きで」とか書くでしょ? 漫画も多いよね。

書籍で教育とか、そういうマニアックなほうがさ、実は編集者になるなら狙い目なんだよね。科学とか、理系の連中あんまり来ないから相当狙い目だと思うよ。「文系だからわからない気持ちがわかります!」とか大見得を切っちゃえ! …あとは自分でなんとかしてね。んー。でも、大ヒットを飛ばす…ってのはないかなー。

あ。ちなみに、分野での採用ってあんまりないよ。専門書を出している出版社って基本、中途採用なんだ。残念だね。でも、無理やり探してそこを受けてみるって手もあるよ。

なーに。後から転職するって手もあるんだしさ!




■編集者に一番求められる能力ってなーんだ?


よし。じゃあ本題に入ろっか。

ここから先はとりあえず書籍の話をするよ。

ね、出版社は何を売っているの? そうだね、本だよね。本を書くのは誰? 編集者? うん…まぁわたしは印税ほしいくらいめっちゃ仕事で原稿を書いているけど…。でも、本当はちがうよね。著者だよね。じゃあね、著者って誰が見つけてくるの?

(注:編集者が文章を書くことは確かにあるのですが、それは本来の仕事ではなく、上のように自慢げに話すようなことではありません。その理由はこの後の話で理解できると思います。)


そう。編集者なんだよ!

ということはさ。何が大切かおのずと分かるんじゃないかな?


その答えを言う前に。

ちょっと考えてほしいんだ。「著者」って一口に言うけどね、誰でもなれるわけじゃないよね。いや、なりたい人はゴマンといるよ。でもね、なんとかいけるかな?って思える人は絶対数が限られてるんだよ。しかも、売れる本を書ける著者はさらに限られていて、その上、たいてい、どこかがおさえちゃってる。となると、編集者は何を考えたらいいかな?

ほほう、引き抜き? なーるほど。それもある…。けどねえ、それはあんまりいい方法じゃないんだな。いまは契約で法的におさえられるし、わたしたちがそれをできる著者は、言ってみればわたしたちに対してもそれをしてくる可能性があるでしょう? 結局、著者の奪い合いでサツバツとした関係になっちゃうんだ。誰にとってもよくないよ。


じゃあ、編集者に必要な能力ってなーんだ?

コミュニケーション能力? うん…。まぁそうだ。君さ、言葉を扱う職業に行くんならもっと具体的に言いたくないかい? どんなコミュニケーション能力だと思う?

たとえばさ…:


・相手に敬意を払い、能力を認め、適切なアドバイスを適切な表現を用いて行えること

・仮に相手が自身と異なる考えを持っていてもその考え方を尊重し、自身や他者との相互作用によって新しい価値観を作り出せること

・初めて出会う人間であっても、礼儀正しく接し、相手に好感を持たれるように配慮すること(アタリマエ!)


編集者やりたがる子ってさ、たまに「自分はめっちゃモノ知ってて文章も書けます」的な態度の子がいるけど、あれ最悪だからね。じゃああんたが書いたらええやん?って思われる…というか、わたしはいつもそう思ってる。そうじゃないんだ、わかってねーな、ってね。ごめんね。つい口に出ちゃった。


つまりね、コーチングができる人間なんだよ。編集者って。


文芸だと新人賞とかあるよね、あれなんかは人材発掘の観点が中心だもんね。そう! 育てていくんだよ、著者をそこから見つけて。なんか作家さん的にあそこが終着点みたいなときあるけどさ、編集者的にはそこがスタート地点なんだよね。わたしの分野はちょっとちがうから、詳しくはよくわからないけど。

(注:科学なら学会発表に出席して著者を探したりします。当然、面識はありません。飛び込み営業です。座ってて著者が増えるなどと思うなら、編集者を目指さないほうがよいでしょう。)

だからさ、著者を育てることができないと編集者としては失格なんだ。あるいは、育てる価値のある著者を見つけてくる、見つけられるのが編集者なんだよ。

(注:そして、育とうとしない創作者は編集者から見捨てられます。)


たまに企画の話をする子がいるんだけどね。企画には著者を探さないといけない。そもそも君が「いま」持っているその企画って一本だけなんだったら、採用するほどの意味はない。いや、十本でもね。そう、君が継続的に企画を出すためには著者との関係性と人脈が重要だってことなんだ。だとすれば、どうかな? やっぱり著者を育てる、あるいは人脈をつくるってのは編集者にとって、とーっても重要な能力だと思わない?


もっと言うとね…。

切実な問題として、創造性のある人は口下手だったり性格が極端だったりな人が多いんだよ。もちろん、性格的によくて社交的な人もいる。でも、そういう人はいろんなつながりを持っているから、君に到達する前に別の編集者がかっさらっていくことが多いんだ。

(注:創造性のある創作者はやはりコミュニケーション能力を伸ばしたほうがいいのですよ。そのほうが選択肢が増えますから。免罪符ではないのです。編集者はあなたを、悪く言えば買い叩こうとしているのですからね。)

だから、君は相手が口下手でもつきあえないといけない。むしろ、それがふつうなんだよ。これは本当にしんどいことなんだ。相手の心をひらいていく作業なんだから。でもね、きっとその奥には宝石が詰まっている。ま、その宝石も原石だけどね? さあ、それを磨き上げていこうよ、著者と君の共同作業で!


どう? いままで言ったことから編集者が何をやるか、だいたい飲み込めてきたかな?




■え? じゃあ、専門知識とか必要ないの?


専門知識ねえ…。知識はもちろん必要だよ。ただね、ぶっちゃけ20代の若者がどれほど知識と経験を持っているかなんてさ、たかが知れていると思わない? いや、もちろんさ、君が数学関係の出版社に行くのに「数学知りません」だとすると、すげーヤツ来たわって語り草になるけど。いや、入社しないとならないなw ま、君が目指すのがそういうニッチ分野じゃないんだったら、そこまで専門知識が武器になることはない。ああ、君にとっては結構恐ろしい話だよね、これって。それでの一点突破は不可能なんだからね。

だからね、知識ではなく「学ぶ意欲があり、学び方を知っている」ことが重要なんだよ。学歴がすべてだとは思わない(わたしなんて地方大学の出身だよ)けど、高学歴者が優遇される傾向があるのは知識ではなく「学ぶための訓練がどれほど行われたか」なんだよね。

まぁ、ここらへんは君には言わなくてもわかるかな。とゆーか、別に編集者じゃなくても必要なスキルだよね! つねに学び続けることが重要なんだよ。

(注:だが、それができない編集者が多いのも事実です。あなたはきっとこの業界に来たら驚くでしょうね。そして、あなたがもし夢をかなえても、そうならないでくださいね。)


それでさ。知識って点だからね。点なんかいくつあっても点だからね。それをネット状に張り巡らせて構造化して、発想を豊かにしないとダメなんだ。「知ってる」じゃダメ。「ひらめいた」なんだよ。そして、それを相手に与えるんだよ。

上にもあったよね。「新しい価値観を作り出せる」って。それはね、「あ、そんな考え方があるんだ…でも、待てよ。それはこの知識や考え方と結びつけたらどうだろう?」というように、相手の考えと自分の考えを結びつけて考えるんだよ。そして、相手の考えを否定することなく提案するんだ。「なるほど。おもしろいです。それを聞いて、ちょっと思ったんですけどね…」みたいにね。相手の考えがどれほど常識ハズレで、どれほど非道徳的で、どれほど無価値と思えても、君はそれをくみ上げないといけないよ。あ…でも、個人的には科学的にまちがってるやつはダメだぞ?

(注:創作者としてのあなたならば、実力を編集者に認めさせない限り、編集者はこんな親切な態度をなかなか取りません。そして、編集者も時間や能力に限界があるから、認めさせるための能力の閾値は高めです。編集者が基本的に辛口なのはここに起因します。)



いい? 君が漫画の編集者でさ、作家が持ち込んできた漫画が「巨人が人をバラバラにして頭から食い殺す」内容だったらどう? 編集長に「すごいのが来ました」って言える? 「進撃の巨人」がない時代に言えるとしたらすごいよ。先を読んだともいえるけど、そうじゃないんだ。この作品をどうしたら「化ける」作品にできるかを考えたんだよ。

コロンブスの卵を見つけるんだよ、君が! できるかな? わたしもまだまだ未熟だけどね!


それができないとね…。まず、君は著者を育てることができないし、力を持った著者からは飽きられてしまう。言ったよね? 著者と君との共同作業だって。そして、力を持った著者は限られているって。その人はさ、自分にあてがわれる編集者の力量が不足してたら、どんなふうに思うかな? よく言えば「あれ…大切にされてないのかな?」かな。悪く言えば「この出版社の編集者の力量も落ちたなー。別の会社から声かかんないかな?」だろうね!

大御所は知らないよ? そもそもそんな人の担当になるのはあと何十年も先だもんね、使い走りならいざしらず。


ああ…ちなみに…編集者からその人を切らないといけないこともある。時間をかけても目が出ないときはね。その非情さ、見切りの力も必要だよ。君の能力と時間も有限なんだからね。





■まぁ当然だけど、言葉は大切にしないとねぇ…。


「全然、文章のこと出てきてないけど!」と思ったかな? そうだね。君が文章をいじれるようになるのは仮に入社していつぐらいかわからないけど、生半可な気持ちで文章に向かったら痛い目にあうからね。そこは注意してね。

そう…。この「校閲とかやってみたいです」的なのを編集部長あたりがいる場でアピールするのは本当に怖いね。そばにいてドキドキする。この子、勝手に文章いじったり、著者にいらん注意をしたりしないかなんてね。文章をいじるのは著者と信頼関係があった上で許可を求めないと不可能だよ。それをキモに命じること。くれぐれも言うけど、出版社にとっては著者こそが金のなる木なんだからね!


ん? 誤字脱字のチェック? 君の目指す出版社に校閲部がなく、かつ外注しないならその能力は必要かもね。わたし? わたしはもちろんしてる…ないもん、校閲部とか。あるわけねーです。じゃあ、その能力、いるじゃんって? うん、そーだね! でもね、それ、わざわざ言うほどのことじゃあないんだぞ? 「編集してます。誤字チェックなら任せてください」とか自信満々で言う編集者がいたら、わたしどんな顔したらいいかわかんないよ。そんなこたぁ外注してもできる。外注じゃできないことをするのが編集者、なんだよ!


編集者が見ないといけないのはね、全体構造の整合性だとか、文章の論理だとか、検証・考証が正確かどうか、っていうところだね。校正という言葉から想像する、一般的なイメージからはちょっとちがうことをするんだよ。

もちろん、専門的なこと…たとえば、16世紀オスマン帝国宮廷における愛憎劇について考証を確認するときは、そういう専門的な人材に考証をお願いすればいい。おや。ここにも人のつながりが必要になる話が出てきたね? そんな人、どうやって見つけるの?

うん、文芸の編集部なら協力者名簿とかがきっとあるけどね。君自身で人材を見つけておくことも重要なんだよ。いざというときに頼りになる人とつながっておくんだ。そもそも君が頼る協力者名簿もそうやってできたんだからね。そして、君のそのつながりはきっと新しい創造や価値を生み出すんだよ。

だからさ、わたし、最初に言ったよね。編集者には何が大切か、って。



え? だから、わたしが創作界隈でうろうろしているのかって?

いや、それはちがうね。わたしは遊びでやっているよ。あと、ちょっとボランティア。アカウントのページを日々見てたらそんな感じじゃん。きまぐれだし、享楽的だしね!

(注:遊びってのは楽しみでやってるぐらいにとってもらえるとありがたいです。)





とりあえず、ここまでにするね。

何かまだ聞きたいこと、ある? あったら…質問してくれたら時間があれば答えるよ。

じゃあね。がんばってね。


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