女神ってなんだっけ
「赤松さんは、死んだらどうなるとおもいます?」
「天国か地獄に行くんじゃないのかえ。」
それこそ恭蔵は病院で親類に囲まれながら、安らかに衰弱死で、日本ではありきたり死に方で人生を終えたはずだったのだ。
そして目覚めたら、真っ白な場所に1人で当然かのようにその場所に立っていた。想像していた天国とは違うがここが天国なのだろうとウロウロしていたところ、白い爆乳ねーちゃんが現れ、グロい映像見せられ、世界をうんたらかんたら、と言われたらジジイでもなくとも驚くというものだ。
「まず、人生の行いで良い事悪い事の比率がどちらが多いか赤松さんの世界でいう、神様と私を含めた部下たちが天国行きか、地獄行きか判断します。」
その考え方はワシと一緒じゃのうの、と思いふけ、どうせ地獄に行くんならもっと下着盗めば良かったと、神様舐めてるとしか思えないことを心の中でそっと呟くのだった。
「ですが、天国と地獄行きの他にもう一つ選択肢があるのです。」
そのせいで今起こっている問題の原因なんですけどねと、手のひらをおでこに持っていき盛大な溜息をつく。
「亡くなった人の処置が各5000000人を更新したら、その中から神様達が会議して選出し、与えられた役割を達成してもらうのですが、手間がかかるという訳でルーレットで一人選出し、元の世界と異なる世界に行ける選択権が貰えます。」
「幾ら何でも適当過ぎるじゃろ神様……」
仮にも神様で、コイツらのことを信仰している元の世界の人々に少しばかり同情してしまう。
「ま、その適当な選出をしてしまったせいで、私達が苦労してしまってるわけですが」
イブは孫達がみたら一瞬で泣き出してしまう般若の形相をしていた。恭蔵は自分より早く天へ旅立ってしまった、妻の顔を思い出す。
「選ばれた人は異世界で新しい人生を築くのですが、ここ数年で選ばれた人達は人格が破綻してまってる人や、自分の意志が弱い人で、本来の役割を果たす前に逃げ出したり、亡くなっている人が増えてきています」
そこで、とイブは付け足し恭蔵の方に指を指して拒否は認めないという意志を表して。
「赤松さんには先程見せた世界などに行って、元の形の世界を正してもらいます。」
正直な話、恭蔵はイブが話した内容の5割も理解していなかった。それどころかその場所にあった、ブランコで、少年時代を懐かしむかのように遊びまくっている。
「聞いてんのかクソジジイ……」
「取り敢えず、ワシがヘンテコな世界に行けばいいんじゃろ!」
ブランコから飛び降り、着地して自分の体の調子を確かめるように独自に編み出した健康体操をする。
「今のワシなら米軍相手に無双出来る気がずるぞい!」
「その米軍相手にボコボコにされたのはあなたの国でしょうに」
そんな自身に満ち溢れた恭蔵の若き少年の頃はアメリカ人にガムやチョコをねだる糞ガキなのは心の片隅にしまっておく。
「ちなみにあなたを異世界に送り、私が与えた役割を果たさなければ、赤松さんの頭部が更地になることでしょう」
また髪を失う恐怖と戦うのは嫌すぎる。現在若返って1番歓喜した頭部の復活だったのにまたもや毛根とおさらばするのは悲しすぎる。
「流石にそれは冗談としても、役割を果たせなかった時は五臓六腑ぶちまけて死んでもらい、天国にも地獄にも行けず意識のないまま空間に漂ってもらいます。」
恭蔵は目の前にいる神と名乗った女の言ったことが理解できずポカンと口を開けた。冗談と言ったことのほうがキツイ内容だとは恭蔵はまだ孫のほうが上手に日本語を使えるぞと心の中で思う。
イブは履いているヒールで地面を軽く叩くと何もなかった空間から突如真っ白に染められた椅子が現れ、その椅子に座り足を組みながら恭三に説明を続ける。
「今までの神様が甘かった結果、本来終わるべきでなかった並行世界が次々に能無しの転生者によって壊されてきました。
そこで私が新しく転生者の管理者となったわけですので失敗は許されません。今まで散々私をこき下ろしたくせに自分たちは結果も出さずに踏ん反りかえっていた糞どもと一緒にされたくないので...」
イブは太ももの上に置いた拳を握りしめ悔しそうにうつむいた。
自分より能力も劣る相手が自分より上の立場におり、その状況下で真面目に自分の仕事に取り組んでたのにも関わらず、そいつらは適当に行いギャンブルや女との遊びを優先していたなど人間の世界にはいくらでもあり、恭蔵は長い人生経験の中でそんな人間などいくらでも見ている。所詮人間も神様もそんなに変わらないのではないかと思わずこの神に同情を感じた。
「まあ、その無能どもは誰かにそのことを報告されてこの世界から追放されてどこかに漂っているらしいですけどね」
いやその報告したの絶対お前じゃろと心の中でツッコミを入れたが先ほどと同じように心の中を読まれるとハラワタを抉り出されかねないので、邪悪な微笑みを浮かべているイブに話を修正すべく話しかける。
「つまりはワシが色んな世界に旅してとにかく良くしていけばいいんじゃろ」
「私の苦労話を全部聞き流しやがったよこのジジイ・・・。まあ大まかにいうとそんな感じです。」
イブは座っていた椅子から立ち上がりながら手を二回ほど叩く。すると恭蔵とイブの周りに日本刀、対物戦車ライフル、弓、槍などといったありきたりな武器から、もはや武器と呼んでも良いのか分からないほどの不可思議な物まで多種多様なものが宙に唐突に表れる。
「なんじゃあ、これは・・・?」
このヘンテコな場所に呼び出されてからから驚いでばかりで、また天に召されて愛しい妻に再開するのではないかと思う恭蔵だが、いちいち反応してたらキリがないとばかりイブは恭蔵を無視して話を進める。
「先ほど恭蔵さんに言いましたように、今までの異世界転生者は失敗を繰り返していました。
もうぶっちゃけちゃいますと次の転生者が失敗しますと恭蔵さんたちの世界にも悪影響を及ぼします。」
「そりゃあ、どういうことじゃ?」
「私が見せた映像の世界と恭蔵さんが住んでいた世界は大きく異なりますが、大きく括れば同じものなんですよ。いくら平行な世界線といえど数千、数万と数えきれない世界が消滅すると少なからず恭蔵さんたちが住んでいた世界にも影響を及ぼし、このまま進むと恭蔵さんたちの世界が消えていった世界と同じことが起こってしまいます。」
恭蔵の頭に浮かんできたのは何十年と過ごしてきた妻や娘との記憶、こんなボケたジジイと嫌がらずに何度も遊びに来てくれた孫、曾孫といった今では懐かしい記憶。お世話をしてくれた看護師のねーちゃんの尻や女医さんの白衣の上からでもわかる爆乳など。途中から邪念が入ったような気がしたが仕方ない。入院している6割の高齢者はスケベしかいないから仕方ない。
生きてきた人生の中で楽あり苦も数えきれないほどあったが、それでも生きてきて良かったと思えた人生だったのだ。その人生を色づけてきた世界を壊されるのは癪に障る。何よりこれから生きていくであろう娘や孫、曾孫の人生を訳も分からない転生者という馬鹿者どもに理由もなく壊されるのは我慢しろというのも無理な話だ。
「しかしだな、いぶさんよ。いくらワシが住んでいた世界が異常が起こっていても滅ぶなんてことはなかろう?」
確かに恭蔵が住んでいた世界はまだ元気に仕事に勤しんでいた頃に比べると異常気象だけではなく、紛争地域が増えていたり、戦争の下準備を進めているなど少しばかり物騒なニュースばかり流れているのも確かだが、それでも他の異世界が滅ぶとこの世界まで影響してくることにはならないような気がする。
「警戒心があるのは良いことですが、先入観にとらわれてはいけませんよ♪」
イブが微笑み、軽快に指を鳴らすと宙に二つの映像が流される。一方は恭蔵が住んでいた世界と思われる憎きアメリカンな街が映される。その映像の隣にはイタリアンな街風景が映されるが明らかに恭蔵が知っている風景と違うものが目に映る。
堂々と二足歩行している2メートル強ある蜥蜴や人間と思われる顔の造形をしているが髪がピンクや水色、銀色に染められ、耳と思われる部分が異様に長いなど普通では考えられないものが目に入った。
現実では考えられないような映像が映り、イブのほうに目を向けると先ほどと同じように指を鳴らす。
するとファンタジーめいた世界が映された映像に突如凄まじい爆発とともに轟音が鳴り響いた。映像にはノイズが走り映りが悪くなるが一定の時間が経ち、画面を凝視するとそこにあったのは賑やかで活気づいていたであろう街がまるで元々なかったかのように人々が消失していた。しかし明らかに外的要因が働いたのがわかるくらいに街の中心にはとてつもなく大きなクレーターが出来上がっていた。
あまりの光景に目を逸らすかのように自分が住んでいた世界の風景に目を向けると、煌びやかに輝いていた景色は人々の叫び声や泣き声、ビルやホテルなどの建物は半壊しており、街を飲み込むかのように炎が蠢いていた。
「ご理解いただけましたか♪」
「いぶさん、それがあんたの本性かい?」
恭蔵の頭によぎるのは日本が大戦をしていた時代。空から焼夷弾の雨とともに銃弾が地面に注がれ、泣き声、響き渡るサイレンに、辺りには死体の山が築き上げられ、あってないような防空壕に逃げ込む日々だった少年時代を呼び起こすような光景に吐き気を催してきた。
「普通の精神なんかあったら女神なんかしていませんって」
もしこの性悪女神のいう事が本当になるのならば、あの悲劇が繰り返され、それを自分の家族たちが味わうことになろうものなら考えるのも嫌気がさす。
ならばこのような惨劇を起こした本人に従うのは正直拒絶反応を起こすレベルだが仕方がないと決意する。
「ワシが異世界とやらに行けば、ワシの住んでいた世界は助かるんじゃな?」
「やっと、その気になりましたか!」
「まぁ、話しは分かったが、ここにいる耄碌ジジイに何が出来るというのじゃ?」
「そこは安心してください。私が選んだ人材です。失敗するわけないでしょう?」
さっきまで女神に相応しい笑顔を浮かべていたが女神の背後には魑魅魍魎のおぞましいものが薄っすらと見えていた。錯覚であってほしいと願うばかりであった恭蔵だがここまで来てしまったのだ。もう引き下がれないと思い、開き直るしかなかろう。
「分かった、降参じゃ。じゃが一つ言わせてもらうぞ言わせてもらうぞい」
「ワシは家族のためこの仕事をやらせてもらう。」
恭蔵が異世界に行くのは自分の血生臭い世界を色づかせてくれた家族のため。世界を救う何ぞ人間一人に出来る訳がない。しかし自分が居なくなった場所にこれから生きていくであろう娘や孫、曾孫たちの人生が訳の分からん若造共のせいで壊されるのはどうしても許せる訳がなかった。
「ええ、承知しております♪今まで自分の役割があると知っていることにも関わらず、逃避していった畜生共とは違いますからね」
えらく物分かりが良過ぎる気もするが気にしたら負けなのであろうと恭蔵は深いため息をついた。




