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非愛転生〜カタオモイ〜  作者: オサム フトシ
第2章 異世界アスティルカ
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5話 今度は……異世界か

 


 ──剣と魔法の世界 《アスティルカ》──



 そこは木々が広がる深緑の大地。鳥が飛び交い、開けた水辺には小動物が群がる。


 自然と平和に溢れていた。


 大陸アスティルカの北東に位置する深いの森の中、一人の少女が駆けていた。

 太陽の光は木々に覆われて所々地面にスポットライトができる。

 少女はその光を器用に避けながら風を切って行く。

 彼女の名前はクリス・ホーゼン。この森の傍にある、ホーゼン村の村長のひとり娘で今日17歳になる。


(急いで仕留めて夜の祝いまでには帰らないとっ)


 今夜はクリスの誕生祭の予定だ。この世界では17で成人となる。もう子供ではないと、その証明としてサプライズに熊かイノシシを捕えようとしていた。


(それにみんなが私のためにいろいろ準備してくれてるのは知ってるけど、その主役の私が何もやらないってわけにはいかないもんね!)


 こうした人柄の良さが皆に好かれる理由かもしれない。

 クリスの母親が、クリスの脱走を見越して自宅で大人しくさせとくようにと幼なじみのルナ・アゼルに頼んだ。

 ルナは魔力探知を使い、クリスを見張っていたのだ。


(ルナの見張りを撒くのは一苦労だったなぁ。早く帰らないとルナに怒られちゃう)


 ルナの魔力探知は非常に高度で、それを掻い潜るのは至難の業だったのだ。


(ルナも協力してくれても良かったのに……

 大きなイノシシでも仕留めて驚かせてやろう! )


 動物が沢山いるであろう水辺近くの場所に罠を張ることにした。

 魔力を軽く練り、地魔法を使い幅一メートル程の穴を掘った。その上に薄く崩れる地の蓋を作り、落ち葉で落口を隠した。

 それを眺める為、罠の上にある7m程の高さの木に登った。


(後は餌をまくだけだ!)


 クリスは持参したルナが調合で作ったキノコの匂いが充満する煙玉を少し離れた地面に叩きつけた。


「【ウィンド・ダンス(風よ舞え)】ッ!」


 クリスの風魔法によって良い感じに広がったキノコの香りは次第に周囲の動物を呼び寄せた。

 この世界には魔物も存在するが、どれも血肉を求める為に効果が無かったりする。


「お、イノシシ発見っと【ウィンド・ピック(風の針)】!」


 クリスの魔法はイノシシの尻に軽く刺さった。

 イノシシは攻撃された方向へ向いてきたのでクリスは足元に途中で拾ったキノコを罠の上に落とした。

 案の定、イノシシだけがそれに気が付き寄ってきた。

 かなりスムーズにイノシシは罠にかかり無事捕獲に成功した。


(やった!傷無し……後は連れ帰るだけねっと)


 魔力を練り、体内に循環させる。すると身体能力が向上し、軽々とイノシシを片手で持ち上げた。

 クリスは生まれつき魔力が多く、魔力を込める程効果が上がる【魔力・身体強化】とはかなりの相性があった。

 クリスは村に向けて意気揚々と走り出した。



 ───


 嫌な予感がしてきたので、クリスは急いで村に向かった。

 村につくとご立腹なルナが待ち構えていた。


「ル、ルナ!」

「ク・リ・ス〜?」


 ルナは腰に手を当て、迫ってくる。その威圧感にクリスはやられた。


「ひぃ! あ、いや、ちが」

「へぇ 、 私の監視をわざわざ魔力の偽装まで使って逃げといて違うの?」


 ルナの手がそっとクリスの頬を撫でた。


「いや、そうじゃなくて……ひいいいいい!!

『ズンッ』ひゃあああああああ 」



 ルナの魔法【魔力吸収(マナドレイン)】が発動した。

 その妙な馴れない感覚にクリスは何かが抜けていくような声を出した。実際に魔力が抜けていっているのだが。

 だが先にルナがクリスの底無しの魔力に折れた。


「まったく、相変わらず馬鹿でかい魔力量。

 これ以上吸ったら私がパンクするよ」


「ふぉぉおおおおお!!鳥肌やっばいよおおおおおおお!! その技やめてって言ったじゃん! ゾクってするんだよ!!」


 ルナはクリスの発言にジト目で答えた。


「ゾクってするだけで済む貴方はおかしいわよ……

  クリスだって脱走禁止って言いつけ守らなかったよね?」


「うぅ〜だってぇ!」


 その愛くるしい姿にそっとため息を吐いたルナは優しげに微笑んだ。


「もう……心配かけないでよね?

  みんな待ってるわよ、行きましょ!」


「うん!」



 ───


 主役が遅れることも無く、無事に宴が始まった。

 王都から馬車で5日ほどの距離に位置する小さなこの村は100名もいない程だ。だが、村全体での企画なのでかなりの規模になる。


「クリスちゃん誕生日おめでとう」


「おめでとうございます!クリスさん」


「あんなにちっちゃかったのによぉ……全くよぉ」


「クリスちゃん!魔法を魅せてくれ〜」


 宴が始まるとクリスのまわりにいつも良くしてくれているご近所さん達が祝いの言葉を投げかけてくれた。



「みんなありがとう!!私この村に生まれて幸せだよ!おじちゃん泣かないで!毎年同じ事言ってんじゃん!」


「だってよぉう……俺の可愛いクリスがぁ」


「おじちゃんのじゃないから〜。あ、魔法は後でね!」


「え、今なんて?」


「やっほぅ!みんな!クリスが魔法だって!」


「「「よっしゃああああああああ」」」


 ひとりおじさんを除いて皆が喜びの声をあげた。

 魔法とは才が無い者は使えないのだ。


「え今なん「毎年この日はみんなが私のためにお祝いしてくれるから今回は私がみんなにプレゼントです! イノシシ狩ってきました!!!」


「「「おおお〜〜」」」


 このタイミングでクリスは2メートルないくらいのイノシシを掲げた。

 それを目にした村人達は大いに驚いた。


「あの年でイノシシをか……さすがクリスちゃんだな」


 農家の人の良さそうな顔立ちのおじさんはクリスの狩ったイノシシを見て微笑んだ。

 その娘が疑問を問いかける。


「しかもあのイノシシ傷がないよ!? ねえお父さんなら1人で傷なしのイノシシ狩れる?」


「大人3人程でなんとかだな。傷をつけないで狩るとなると……」


「クリスさんすごい!!」


 娘は尊敬の眼差しでクリスを見つめた。クリスとルナは子供達にも人気なのだ。


「鍋にでもしてみんなで食べましょ〜!!」


「「「ぉぉおおお!!!」」」



 宴はとても大いに盛り上がった。

 クリスは今がとっても幸せで、充実しているとおもった。

 だが、この時から何かが足りないと……そんな気がしていた。



 ───


 あの誕生祭から半年が過ぎた。

 何事もなくただ平穏な日々が続いていた。


 現在クリスとルナはいつもの森の遊び場に居る。

 2人はここを『森の家』と呼んでいる。他の人は誰も知らない秘密の場所なのだ。

 木々の隙間をすき抜ける風と、葉や枝がつくりだす木陰が心地良い。

 中央にそびえる一際大きい巨木が、まるで2人を守るかのように佇んでいる。


 あれからクリスは何かに急かされる、そんな奇妙な何かを感じていた。


(このままでいいのかしら…… って何を考えてるのよ!……私ってもしかして欲求不満なの?)


 このモヤモヤをルナにぶつけてみる事にした。



「ねぇルナ」


「どしたの?クリス」


「私……刺激が足りないのかも」


「……え?」


「だからさ!魔法勝負しよう!」


 急に何を言い出したのかと目を見開いたルナだが、軽くため息をついて顔を(しか)めた。


「……純粋な魔法じゃクリスに勝ち目なんてないよ」


「じゃあ槍を使ってもいいよ」


「……本気で言ってる?」


 純粋な魔力を使った魔法はクリスにかなうわけがないとルナは考えている。しかし、接近戦も可能というのなら話は違う。

 魔法で守りに徹して接近戦で槍を使うなら勝てるかもしれない。



「うん!全力をぶつけたいの!」


「そう、仕方ないから相手してあげる」


 クリスは圧倒的火力と無尽蔵の魔力、ルナは槍を使った魔法戦が得意なのだ。


 2人は見晴らしの良い草原に移動した。

 ここなら誰もいないし、危険な事もないだろう。



「じゃあ行くよ!」


「でも久しぶりだね、本気の勝負は」


 クリスが合図を送るとルナがそんなことを言った。


 今までたくさんの真剣勝負を繰り返してきた。2人共負けず嫌いで勝ちを譲らなく、魔法戦のみならず様々な勝負を引き分けになるまで続けたのだ。 ちなみにその戦歴は『森の家』にびっちりと記載されてある。

 2人共ニヤリと微笑んだ。


 そして今度は合図なく始まった……



「はぁっ!」


 クリスが魔力を身体中に巡らしルナへ突っ込んだ。

 ほぼ同時にルナも魔法を使う。


「【思考加速】【六連物理結界】ッ!!」


 ルナは魔力を操り思考を加速させ、結界を張った。

 その結界にクリスが突っ込んだ。



「纏え!【ヴァィアラント(荒れ狂う)ウィンド()】ッ!」


 クリスの拳に纏った暴風は、次々にルナの結界を壊していった。

 だが、それを待っていたかのようにルナは槍を構えていた。


「【武纏・フラッシュ・ノイズ(雷鳴の突き)】ッ!」


「!?【アップワード(上昇する)ウィンド()】ッ!!」



 ルナの魔法をくらう直前に、瞬時にクリスは魔法を繰り出した。

 だが、しっかりと魔力を練る時間はなく、中途半端な魔法になってしまった。だがクリスの魔法には魔力がかなり込められている為、かなりの威力を持っている。

 そして相打ちになった。


「ぐああああ」 「ぐはっ!!?」




 ルナの雷魔法を風を纏いながらもまともに受けたクリスは自身の魔力を放出し覆う事でダメージを減らした。

 また、クリスの風魔法は地面から大きな拳で殴り上げられたかのようなもので、ルナは直前に自身の体に結界を張ったがかなりの衝撃を受けた。


「はははっ、さっすがルナやるね」


「クリスこそ瞬発的な魔法にしては威力高すぎない?」


「「………」」



 魔法戦が始まった。


「【リフト・ブレス(風の裂け目)】!!」


「【アイス・クリスタル(氷の結晶)】!」



 ルナの連なる氷をクリスの風が砕き割いた。

 氷の礫がその風に乗り周囲が幻想的な光に満ちる。

 次々に魔力を練る。


「【ウィンド・ブァレット(風の弾丸)・セット(の集合)】!」


「くっ!【ボルト()アクション()】!」


 ルナはクリスの風属性へ有利となる雷魔法でそれをかき消した。

 このまま均衡が続けば魔力の消費量を考えるとクリスが確実に勝てるのだがそれではつまらないとクリスは一気に勝負に出た。



「【ウィンド・ボム(風の爆弾)】【フレイム・ボム(炎の爆弾)】相乗結合ッ!」


「っ!【至高結界】【樹木生成】

ボルト・アーマー(雷の鎧)】」



 クリスは一つで半径10mの大穴を作るほどの2つの魔法を一つにした 相乗効果の魔法が出来上がる。それは爆発する爆炎の塊。


 ルナは樹木で体を固定し自身の放つ魔法とクリスの魔法に耐えるべく守りを生成し、槍に魔力を込め掲げた。



「焼き飛ばせ!【ボルテックス(荒れ狂い)・フレイム(渦巻く爆炎)】ッ!!」


「貫け!【アグレージ・サンダー(唸り轟く雷鳴)】ッ!!」


 2人の魔法は正面からぶつかり……轟音と共に見事なクレーターを作った。



 ───


 2人はボロボロで仰向けに寝転がり、肩で息をしている。

 お互い魔法のダメージを負っていた。


「あははっ、楽しかったぁ〜

  そして超疲れたあぁぁぁ」


「本当だよ…… すっごいつかれた。

 まあ、楽しかったけど」



  そして万遍の笑みを交わし合う。

 周囲を見渡すと、酷い自然破壊をしていた。


「またすっごいクレーター作っちゃったね」


「ここはまた数日経てば直るから大丈夫だよ」



 二人共知らないことなのだが、二人が消費した魔力が残留し、巡りに巡って土地を直していたのだ。


「そういえばさ、そんなに槍使わなかったよね」


「最初に風のダメージ負っちゃったからね」


「あ、そういう事ね」


 相打ちになった時、体にダメージを負った為に思う存分槍を使えないと判断したルナは、結局魔法戦に持ち込んだのだ。

 ルナがクリスに魔力を求めた。



「ね〜クリス 貴方まだ魔力あるでしょ?吸わせて」


「わかったよ、そして私も癒して」


「クリスは体に魔力纏えば傷くらい治るでしょ?」


「お願いだよ〜」


「はいはい……」


 ルナは治癒魔法も使える。

 クリスの莫大な魔力をルナに分け、その魔力を使いお互いの傷を治した。


 その後、2人の反省点やら改善点を話し合いながら『森の家』に戦歴を残し、村へ帰った。




 ───


 村に帰りルナと大浴場へ向かった。

 主婦は夕食を作り始める時間であり、ほぼ貸し切り状態だった。


 水魔法の応用でお湯を浮かせてルナにぶつけたりして遊んだ

 もちろん怒られた。超怖かった。


 湯に浸かりゆっくりと疲れを癒した。

 明日は森の家に集合して一緒に狩りに行く予定だ。


 ルナと別れお互い自宅へ帰った。



 大浴場からの帰り道にたまたま村長の父親とその補佐をしている母親に会ったので合流した。

 二人は別館で村の仕事をしていたのだ。

 久々に親子三人で帰宅した。



 その夜……


 深い深海から目が覚め、初めて浮力を感じたように、なんの前触れもなく……




 《私》が覚醒した(目覚めた)


 そして気がつく。


 ……そっか、彼とはまだ会ってないのか。


 私は……《私》だ。


 記憶が絡み合った。



 (クリス)は今の生活が幸せだ。



 でも……彼に会いたい。


 決めた……



 彼を探す。


 今なら何とかなる気がする。

 私は力を手に入れた。


 優菜の転生の力。

 エレーナの優れた記憶処理能力。

 綾の様々な瞬間的暗算力。

 クリスの魔力と魔法。


 あぁ……貴方は今、どこにいるの?


 私の貴方は……



 ……どこ?



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