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非愛転生〜カタオモイ〜  作者: オサム フトシ
第4章 転生そして転移
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50話 迷宮攻略 開始

 


 ──迷宮攻略1日目。


 洞窟に侵入して数時間が経った。


 ダンジョンといえばなんだろうか?

 よくあるRPGではトラップやモンスターが(ひし)めき合い、ドロップ品を入手し精錬素材にしたり売却したりと、そして醍醐味(だいごみ)といえば金銀財宝が宝箱に眠るロマンを追い求めたりするだろうか。


 異世界で魔物の住処である洞窟へ殴り込みに行くんだ。何かがあると普通は思うだろう。


 しかし、現実は悲しかった。



「ねえレイラ。魔物って何もドロップしないんだね」


「何を言っているのですか?当たり前じゃないですか。あ、リル様はそのような世界から来たのですか?」


「いや、そういう訳じゃないけど……」


 私が瞬殺した祈願のトロールは、かなづちも極上カビも落とさなかった。

 ……まあ、そりゃそうか。ん?あれは……っ!?


「レイラ!岩が動いてる!ばくだ〇いわ!?……いや、まって!赤いよ!もしかして……メガザ〇ロック!!?いや、色違いのイシツ〇テかもしれない……」


「……リル様、魔物を見つける度に無駄に感動するのはやめてください」


 レイラがすっごい呆れ顔で言ってくる。まあ、これでも油断はしてない。していたらもっと怒られてるだろう。


「ほら、リル様来ましたよ」


 目を向けると梅干し(赤い岩)が転がってくる。それは勢いを増し、おかしな程に回転力が上がっている。


 よし、集中……


 目を細め、愛剣を抜刀する。魔力の込められた脚で地をずらし、男梅(赤い岩)を空中へと跳ね上げる。その下に潜り込むように身体を流し、回転の乱れに反り合わせ力を使わずに真っ二つに斬り裂いた。


 なんだ……さすがにメガ〇テは使って来なかったか。命の石くらい落とせばいいのにね。


「リル様、今のはお見事です。技量が益々上がってますね」


「うん、ありがとう。やっぱり実戦だと掴めるものが違うね」



 洞窟に入ってから、騎士7名のひとグループが最前線で戦い、そのはぐれ者を私が狩るようにやっていた。もうひとつのグループ7名は後方で待機している。


 しかし、すぐに物足りなく感じ、修行にも試練にもならなかったので騎士達を下げて私が先頭を行くことにしたのだ。それを許されたのは私の実力をみんなが認めてくれたからだろう。油断したら駄目だとレイラにずっと言われているしね。


 もちろん隣にはレイラが護衛してくれている。レイラに教わったことを忘れずに剣を振るっているので未だに敵無しだ。剣を持った魔物もそうそういないため打ち合いにすらなっていない。

 あ、そういえばまだ出会ってないヤツがいる。


「ねえレイラ。スライムっていないの?」


「スライムですか?いるとは思いますがそもそもスライムとは魔物であって敵ではないですよ」


「えっ?」


 どうやらこの世界ではスライムは魔物だが害はないと言われているそうだ。そりゃあんなに可愛いもん。気持ちいいし。


 でもその理由を聞くとスライムの凄さに驚いた。

 まず、スライムはなんでも消化する。たとえゴミでもだ。

 洞窟が魔物の死骸で汚くないのもスライムのおかげらしい。スライムはもちろん食用にも向いておらず、殺す事も困難であるのだ。

 故に殺す価値無し、関わる必要無しらしい。


 私の表情の変化をみたレイラはふっと笑うと


「多分リル様じゃスライムは倒せませんよ」


 と言ってきた。


 おっと、これは宣戦布告だね?いいだろう。スライムを見つけ次第、倒してやる!

 リアルでドロップのスライムゼリーを触りたいんだ!



 その後とくに飽きる事もなく、退屈という訳もなく、順調に目に見える魔物を狩り尽くし地下一階を制覇することに成功した。


 攻略方法は確立してきたので、焦ることはせず今日は拠点へ戻る事にした。





 ──迷宮攻略2日目。


 一同は地下一階の奥地に来ていた。地下二階への道が無いのだ。もちろん階段なんぞあるわけもなく、行き止まりの下に穴が空いているのだ。ここを降りろということなのか。


 迷宮といったがそんなに分かれ道は無く、あったとしても片方が行き止まりなので迷うこと無く進めている。もちろんトラップといった罠の類いは存在しなく、凸凹の道の岩を踏まないように歩いた時はレイラに謎めいた目で見られた。少しショック。


「リル様、帝国の記録にてこの洞窟を地下へと降るには勇気が必要だの書いてあり、まさかと思いましたがこういう事だったとは……」


 レイラが呆れた様子で手元の資料を見ている。その資料の作者は前々騎士団長らしい。

 適当かよ。


 穴の底は暗くて見えないが、立ち止まる訳にもいかないのでその穴へ落ちることにした。


「レイラ、先行ってるねっと!」


「あ、リル様!」


 レイラの返事を待たずに飛び下りた。

 10メートル程だろうか。大した衝撃もなく着地することができた。


「ね、レイラ。大丈夫だったよ」


「護衛より先に行くとは何事ですか!」


 と言いつつちゃっかり私とほぼ同時に飛び下りたくせに。

 しかし、辺りは酷いことになってる。


「これは……あれだ。モンスターハウスだ!」


「なんで嬉しそうに興奮してるんですか。さっさと片付けますよ」


 俊敏に動く巨大なワニと、甲羅がとても大きな亀。ヨダレをだらだらと垂らした虎のような魔物や角張った骨が皮膚から飛び出している巨大なコウモリ。みんな目が赤く輝いている。

 なんだろう。魔物ってみんな目が赤いのかな?それにどれも巨大だし。


 そんなことを考えていると、ヨダレを垂らした虎が爪を立てて勢いよく飛びかかってきた。


「おっ来たな。……ふっ!」


 素早く抜刀し、懐に入る。真下から胴体を割ってやった。

 すると真上から虎諸共全てを潰すかのように巨大な亀が降ってくる。


「これは、コンビネーションって言えないよ」


 味方を潰してまで相手を殺す事はコンビネーションとは思えない。いや、そもそも魔物同士って味方なのかな?そういう考えがないのかもしれない。


 甲羅の腹の落下に合わせて左腕を真上へ打ち出した。


 ──ボンッ!!──


 見るからに硬そうな亀の甲羅が粉砕し、破裂した。いや、爆発した。


 硬そうだから思いっきり殴ってみたが、正直ここまでの威力が出るとは思わなかった。


「……リル様ってそんな事もできるんですか。でも、美しくないですね」


 レイラは巨大なコウモリに絡まれているけど、腕を組みながらその攻撃をずっと交わし続けて私に指摘してくる。偶に顔を蹴るため、コウモリは怒り心頭である。

 随分余裕そうだ。


「できるかなって思ったんだよ。まあ、次からは剣を使うよ」


 次に襲ってきたのはワニだ。いきなり後ろから丸呑みしようとしてきた。

 地を蹴りバク宙を行いその攻撃を凌ぐと、もう1匹のワニが口を広げて待っていた。

 体のひねりを利用して白銀の剣を振り下ろす。するとワニの顎は簡単に割かれ、大量の血を吹き出して死んだ。

 さすがガルさんの剣だ。毎度思うけど斬れ味が良すぎるんだなぁ。


 再び2匹の虎が爪を立てて襲ってくる。

 その前足のひと振りはコンクリートの壁をも簡単に壊す程の威力だが、それを剣で上手く受け流していく。

 硬い爪と白銀の刀身が交差し合い、金属音のような甲高い音が続く。


 打ち合いのバランスを崩すかのように一瞬強く、弱く剣で爪を撫でる。そこに出来た隙に剣を通した。


「ギュアアアアア!!」


 気がついたら虎の前足は消えており、その次の瞬間には胴体が三枚おろしになっていた。


 そしてもう1匹の虎も気を取られた一瞬に、白銀の剣跡が首を横切っていた。


 残酷に感じるけど、これがこの世界で生きていくっていうことだ。


「リル様、今のはとても良かったです。その剣術を忘れないでくださいね」


「うん、ありがとう」


 そういったレイラの後ろでは、残りの魔物が死体となって山積みになっていた。その中にはもちろんあのコウモリもいる。

 あんな一瞬で、この量の魔物を殲滅するとか……

 なんか、いつまで経ってもレイラには勝てない気がするなぁ。


「副隊長!ご無事ですかっ」


「はい、大丈夫です。そろそろ降りてきなさい」


 交戦の音が消えた為か、騎士達が降りてきた。下に降りた時、直ぐに護衛として来るかと思ったがレイラの指示だったらしい。


 それにしても……この階層は地下一階より広そうだ。

 この交戦した場所は軽い広場となっているが壁際に脇道がいくつもある。


「時間かかりそうだなぁ」


「リル様、こんな時のためにこの資料があります」


「おお!そうだった」


 レイラが資料をパラパラとめくり、記載ページを見つけたのか睨めっこをしていると、段々と険しい表情になってきた。


「ん?なんて書いてあったの?」


 レイラの脇からひょいと資料を覗くとそこには


『迷宮内記録

 階層は確か10か20はあったかなぁ。とりあえず長かった。それまでの道のりも大変だった。

 景色は様々、敵は強し。

 以上、健闘を祈る。

 最後に、落とし穴は飛び込むように』


 と超端的に記載されていた。


「ちっくしょおおおお!!」



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