43話 制限
昨日。私はこの世界に転移した。その後王様の謁見を行い、帝国騎士副団長と試合を行った。レイラさんが私の教育係という事が決まり、私が目を覚ました夜、私の部屋でこの世界の事などいくつか話をした。
そう、昨日いた寝室が私の部屋として与えられたのらしい。
そして今日、レイラさんの指導で魔力の簡単な操作と剣技の基本について学ぶ事になっている。
朝早く起きた私はメイドさんから朝食を頂いた後、少し身体を動かそうと一足先に訓練所に向かっていた。
この世界に来てから身体の感覚がおかしいのだ。でもそれは良い意味で、だ。
私はこの身体中を巡る魔力が原因だと思っている。
この感覚を早く慣らすため、身体を動かそうとしたのだ。
訓練所に着くと、そのにはレイラの姿があった。
「あ、おはようレイラさん!朝早いね」
「リル様じゃないですか。おはようございます。どうしました?」
「う〜ん、身体を動かそうと思ってさ、メイドさんにここの場所を教えてもらったんだ」
「あぁ、そういう事ですか。でしたら今からご一緒しますか?」
レイラは剣を片手に誘ってきた。が、剣はまだ早い。そんな気がする。
「まず、この身体に慣れたいから軽く走ってきていい?」
「ええ、もちろんです」
レイラから許可をもらったので、訓練所の内周を軽く走り出した。
……思ったより身体が軽い。気がついたら凄いスピードが出ていた。
その速さに驚いた私は急ブレーキをかけ、尻もちを着いた。
「リル様、それは魔力で肉体の覆う《身体強化》の魔法ですね」
「え、これが魔法?」
「魔法というより……無意識に使われているそうなので、魔法とは……。いや、普通は意識して使うのが……」
レイラがブツブツと何か言い始め、よく聞こえなかったのでもう少し走ることにした。
暫く走っていると、身体に込められた魔力の流れを感じる事ができた。しかし、無意識に込められているものなので体内の魔力に干渉しようとするとバランスを崩し転びそうになる。
意識せず、その速さを出すことができたのでひとまず上々としよう。
1番驚いたのが、あんなに走ってもそれほど疲れないことだ。本当に運動音痴だった私の体かどうか疑ったものだ。
「リル様ー!そろそろ稽古を始めましょうか!」
「はーい」
レイラの指示で切上げ、今日の稽古を始めることにした。
「まず、簡単に稽古の予定を教えます」
レイラが説明した事はこうだ。
まず、レイラの見立てだと私は魔力に特化している。
なので魔力の操作から始める事になった。
しかし、魔力というものは有限だ。魔力が無くなった時、魔法使いは使い物にならなくなる。
だが私は身体能力も高いので、剣技覚えれば接近戦でも補う事ができる。つまりとても強くなれると言われた。
よって魔力操作を覚え、剣技も一緒に学ぶ事になった。
「うん、わかった。よろしくお願いします!」
「では初めに、目を瞑って体内の魔力を感じ取ってください」
それは目を瞑らずとも感じ取る事ができた。
私の中にあり、常に巡っている。
「うん、感じるよ」
「では、その魔力を意識してゆっくりと全身に流してみてください」
レイラはイメージが大切だと言った。即ち想像力。
私が想像できる全身を巡るものといえば血液だ。
それに合わせれば……ッ!!?
「ぐああッ、!??」
魔力のフタを開け、身体中に流し込んだ時だった。軋むような激痛が全身を隈無く突き刺した。
「なっ!? リル様!魔力を止めてください!!」
その声を耳にした私は必死に魔力を鎮めようとする。しかし、制御は効かず更には激痛が増した。まるで今にでも身体が破裂しそうな痛み。
それにいち早く気がついたレイラは私の身体を抱き抱え、ポケットから無色の結晶を取り出した。
「《吸魔石》ッ!」
レイラの声に反応し、私の胸に当てられた結晶体が光を放った。それは私の魔力を取り込み、透き通る濃い青色に変色していく。
全身の痛みが引いていくとその青の結晶が砕け散った。
「なっ!? リル様!大丈夫ですか!?」
「う、うん。痛みは何とか……」
結晶が取り込みきれなかった魔力が、私の髪を青く輝かせた。それは魔力の流れを表している。
私は腕から離れ、上半身で重心を取りつつ起き上がった。私の様子をみていたレイラは次第にホッとしたような表情を作った。
「念の為、吸魔石を用意しておいて良かったです。しかし、このサイズの吸魔石が砕けるとなると……」
私が息を整えると、レイラが深刻そうに説明してくれた。
「リル様は魔力操作がなっていません。というより、操作できるような魔力量では無いと言った方が正しいでしょうか……」
「私の魔力の量って……」
「はい。常軌を逸しています。それも自身の身体を壊す程に……」
薄々わかっていた。本能が危ないと、魔力を練るなと言っている。それに体感ではほんの少しだけしか魔力を込めていない。
無意識に体を巡る魔力なら問題は無かった。つまり自らの意思で魔力を使うことができてないのだ。
「天才的な魔法使いなど、このようなケースが極稀に存在しますがここまで身体を痛めつけることはありません」
「じゃあ、私は魔法を使うことができないの?」
それはいやだ。多少なりとも魔法を使ってみたい気持ちがある。魔力を操作するなんて……今はとっても痛いけど使えたとしたらロマンティックでしょ?それに異世界転移だし……みんなもそう思うでしょ?
「幸い吸魔石は沢山在庫があります。なので痛みが出たら吸魔石を使い、 魔力操作の練習をするというのはどうでしょう?」
「うん、そうしようかな」
この吸魔石を使ったら痛みが引いた。これなら操作する練習もできるかもしれない。いい案だと思った。
「はい。この量の魔力を使えないのは正直もったいないですからね。リル様なら多少使えるだけでも戦力になりますよ」
レイラはそう言って笑ってくれた。
また失敗する気がする。でも、吸魔石があるのなら何とかなるかもしれない。
なによりも……心の内の、魔力に対する恐ろしさを克服しないといけない。
そうして、魔力に関しての課題と方向性が決まった。
「次は剣技ですね」
そう言うとレイラは訓練所の隅から鉄の棒を持ってきた。
自然な動作で宙に投げ、愛剣で真っ二つにした。それも縦に。
「……えっ?」
それを空中で掴んだレイラは私の両手に鉄の棒(縦半)を縄で括りつけた。
え、なにどういうこと?
「リル様は剣の扱いより先に、このような長い物の扱いができていません。距離感、重心の感覚、それらを身体で知るのが先です」
確かにこのような棒を振り回した事など無い。剣なんて持ったのは昨日が初めてだったし。
レイラの言っていることは一理ある……気がする。
ただ、この半月型に伸びた鉄の棒……とてつもなく重い。10キロ以上はあると思う。
「ですので私が今から攻撃します。それを凌いでみてください。その鉄の棒で」
「えっ、?」
呆けた様な声が出てしまった。この重い鉄の棒でレイラさんの攻撃を凌げと?
「いやいやいや……」
「とりあえず10分間やりますか。習うより慣れろ ですよ?」
レイラはそう言って笑ってきた。
さっきの笑みとは何かが違う!絶対違う!
「まだ心の準備があぁぁぁぁあぶなっ!?」
───
初撃、反射的に鉄の棒を交差させて攻撃を防いだが、その重さに飛ばされてしまった。
レイラが手にしているのは割れていない鉄の棒だ。
その一撃は重く、左右から来る攻撃に片腕では耐えきれずに身体が浮いてしまう。
私の身体は先程走った時と同じように、無自覚に魔力で強化していた。
レイラの攻撃が早くなるに連れて自然に身体に魔力が込められ、私の両手の動きが加速する。
「っ、また」
しかし、慣れない手つきで振り回している為自身の鉄の棒が交差し火花が散る。
ずっとレイラの攻撃は私の嫌な所ばっかり突いてくる。その為防戦一方だ。
正面にいるのに左右どちらから来るかわからない攻撃。そのフェイントに対抗するため両手を広げ、左右の両方を守ろうとしたら額に軽いゲンコツをくらった。
「リル様!もっと頭を使わないと駄目ですよ?」
「だってそんな事、言われても、」
そう、頭を使えと言われてもレイラの攻撃を防ぐのに精一杯なのだ。両手に意識が分散し、上手く扱えないのも理由であるが………ん?まてよ。
私は分かれた鉄の棒を両手で重ね合わせ、不恰好ながら構えた。
するとレイラが驚いたように口を開いた。
「さすがですね。そこに気がついたのは私が今まで教えた者の中でリル様が1番早いです」
「レイラさんの意図が掴めてきたよ」
「というと?」
「意識の集中が乱れるから両手に持つんじゃなくて、両手で持たせるためにその時に持ちやすいように半分に切ったんでしょ?」
「さすがリル様ですね。半分正解です」
半分正解だったらしい。他に何かあるのだろうか。
私が首を傾げているとレイラは嬉しそうに笑ってきた。
「では、試してみますか」
そう口にしたレイラは再び鉄の棒を振りかぶってきた。
「って危なぁ!?」
咄嗟に後退する。私のいた場所にレイラが鉄の棒を振り下ろし、地面が割れる。
えぇっ!どんだけ力込めてるの!?
再びレイラが追ってくる。そして左から身体ごと吹き飛ばすかのような避けきれない強烈な一撃が来た。先程と同じパターンだ。
咄嗟に足で地を蹴り両手で手にした鉄の棒をぶつけた。
──ギィィンッ!!
甲高い金属音と共に、レイラの剣が弾かれた。
「なっ!」
これには私が驚いた。さっきまでは両手の鉄の棒を交差して防ぎ、身体が浮いてた程の攻撃を弾き返したのだ。
そんな驚きを目の前にした私にレイラの解説が入る。
「今のは力の入り方が先程までとは違かったらからですよ」
どうも両手で持つことによって身体からの力が直接鉄の棒に伝わるかららしい。
バラバラで持っていると、その力は腕だけのものになり本来の力を出し切れないそうだ。
体全身で受け止めたのでレイラの攻撃を正面から弾き返せたそうだ。
「確かにリル様の一手一手は私より強烈でした。しかし二本で持っていたことで重心や力の入り方が乱れ簡単に流せました。その隙を突いた為、リル様の身体が浮いたのです。」
最後は見事でしたとレイラは両手を擦りながら笑ってきた。
私が正面から弾き返した為、その衝撃がレイラの手に来たのだろう。
実践をしたからこそ、その説明がとてもわかりやすかった。
「レイラさん、丁寧に教えてくれてありがとうございます!とってもわかりやすかったし、為になった!」
「良かったです。これで全問正解ですね!」
とても充実した稽古に感じた。
「といってもまだ終わりじゃないですよ?まだ始まったばかりです」
「はい!急に襲ってこなければ!」
それだけが心掛りだった。
───
「それはそうとリル様は手が痺れないのですか?この事を早期に気が付かせる為にわざわざ鉄の棒にしたのに……」
「あ、そういえば……全然痛くないな。あはは」
どうやら私の身体強化はとても強力らしい。




