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非愛転生〜カタオモイ〜  作者: オサム
第2章 異世界アスティルカ
20/58

18話 シクレの秘密

 


 誰も目の前の状況に意味がわからなかった。

 シクレが消えたと思ったらルナが場外にいたのだから。


『何が起こったんだあぁぁぁぁ!!??

 全然わからなかったぞ!!!

 だが、1つだけわかる事がある!!

 ルナ選手場外で、勝者 シクレ選手だあああ!!!!』


「「「うぉぉおおおおおおお!!!」」」


 静寂の中、実況者のアナウンスによって試合が終了した。


「えっ、?何が、起こったの?」


 何をされたのかすら、ルナはわからなかった。

 シクレが消えたと思ったら私が場外に立っていた。

 落とされた?違う。


 ルナはその謎に自問自答を繰り返していた。

 するとシクレがルナへ近づき、優しげに話しかけた。


「ごめんねルナ、さん。勝たないといけなかったんだ」


「な、なにしたの?」


「それは……秘密」


「そう。なんだか試合って感じじゃなかったけど、貴方の勝ちだわ。でもクリスは強いわよ?」


「ふふ、うん。知ってるよ。

 でも私は負けられないの」


 私は負けられない。そんな意味のあるような言葉を口にし、シクレは舞台の所定位置へ戻った。


 控え室ではなく舞台へと戻るシクレの行動に不思議に思った審判は話を聞きに行くと、慌てた様子で実況者の所へ走った。


 それを聞いた実況者は興奮気味に話し始めた。



『みなさん!先程の試合は何が起こったのか全くわからなく、すぐ終わってしまいました。本来なら休憩後に第3試合目でしたが、連戦となるシクレ選手が構わないとの事なので、続けて試合を行いたいと思います!!!』


「「「うぉぉおおおおおおお!!!」」」


 主催者側としても、決勝の試合と思えないくらい瞬時に終わってしまったので観客の様子もあり、その申し出はありがたかった。


 クリスは名前が呼ばれてしまったので舞台へ向かった。


 途中、ルナはどこか悔しそうにクリスに「頑張れ」とだけ言った。

 クリスはルナに「見ててね」と、そして舞台へ飛び乗った。


『さて、今大会最後の試合になります!

 ここでシクレ選手が勝てばシクレ選手の優勝!

 そしてクリス選手が勝てば3人とも1位となり同率優勝となります!!

 皆さんがご存知の通り2人の強さはずば抜けています!この試合がすごく楽しみです!!』


 クリスは剣を構える。

 シクレの消える能力、そして不思議と感じるなんとも言いがたい違和感。

 何かがあると思っていた。


 対してシクレは剣を軽く構えた。



『王国魔道士の結界も大丈夫なそうです。

 準備が整ったようなので始めたいとおもいます!!』


 会場が静まった。

 誰も何が起こるかわからなかった。


『始めっ!』


 そしてゴングが鳴った。


 クリスは魔力を体へと巡らし一気にシクレへと駆け寄った。

 そして剣を振り上げる。


 勢いを殺さずに舞うように連撃を繰り出す。魔力をめいいっぱい込めて振るった。



 しかし、その全てが綺麗に流された。


 そしてシクレも剣を使う。

 その一撃はクリスの連撃の合間を縫った一撃。どうしても避けることができない場所を狙って来たので剣の柄頭で受けた。

 その攻撃はしなやかで力強く、気がついたら舞台端まで飛ばされていた。


 冷たい汗が背中を撫でたように、ゾワっとした。


 私の剣技が全く通じない。

 魔力を込めた攻撃も、全部綺麗に流された。


 クリスは本気で魔力を練った。ルナとの試合で使った切り札を使う。

 このままでは試合にすらならないと思ったからだ。


「【魔・神速】ッ!」


 音速をも超える速さで駆け寄り、本気で剣を振るった。それは移動速度を全て乗せた一撃。

 クリスが通った道が音速を超えたため発生した衝撃波と共に舞台のタイルが散った。


 シクレは、その攻撃を片手で持った剣だけで受け止めた。


 目を見開いた。速度まで完全に殺された。

 歯を食いしばり、再び連撃を繰り出そうとした。



 ここで──予想だにしない事が起きた。



 《()()()ッ!?》



 …え?



 一瞬、第二の心臓が急に動いたかのように……クリスは膝を着いた。


 胸を抑えた。



 苦しい。



 嬉しい。



 何が?


 わからない。



 ここにいる……



 《彼》がいる!?




「クリスッ!!」



 私に渦巻く強力な感情の波は、その声で急激に引いていった。


 ルナが私を呼んでくれたのだ。


 それがとても安心した。


(私は《私》に呑まれない!)


 今の感じは知っている。それは前世での記憶。何故今、彼を感じたのかわからない。

 だけど……この感情の高鳴りは彼が近くにいる証拠だ。今すぐ抜け出して会いに行きたい。でも……今は試合に集中するべきだ。


 シクレの足元で蹲っていた私は地を蹴り距離を置いた。


 蹲っている間、手を出さなかったシクレは口を曲げてクリスを見つめていた。そして攻撃を繰り出してきた。


 シクレが上段で剣を振りかぶったので足に魔力を込め、バックステップを踏んだ。が、私の足に全然魔力が込められていなく、中途半端な後退になり、シクレに追いつかれ攻撃を剣で受けた。

 さらに後ろへ吹っ飛んだ。


 剣を舞台に突き立て、場外ギリギリで耐えた。


 その代償に、剣先が折れてしまった。

 勝てないと、頭でそう理解した。


 私は……試したくなった。


 私の全力を!



「【魔戒・覇気】ッ!!」


 それは防御無視の技……

 体内の魔力を圧縮させさらに魔力を込める。

 その繰り返しを行い溜めて放つ技。


 両手に魔力を送り、ひとつの圧のある玉を作り上げた。

 シクレは律儀にその完成を待っていた。


 直撃した者の意識を刈り取り、たとえ龍でも戦闘不能にするそれを、前方一直線へ放った。


 シクレは冷静に右手を前方へ掲げ、何かを呟いた。

 するとクリス渾身の魔砲は消滅した。


「ははは、絶対勝てないや」


 そんな言葉が口から漏れていた。


 私は気がついたら場外にいた。


 負けたのか……と思った。


 シクレは、強すぎた。



『勝負あり!優勝は、シクレ選手だあぁぁぁぁ!!』


「「「うぉぉおおおお!!!」」」


 私は大きく深呼吸をして舞台に上がりシクレを称えた。

 シクレには完敗したが、とても良い大会だった。


 そしてさらに上がいることを知った。


 ……そして、一瞬だけここに彼が近くにいた気がした。


 この後表彰式がある。ルナも舞台へと上がってきた。




 ───


 第一王子が舞台上へと来るようだ。

 ルナは王子が《彼》なのかと心配そうにクリスの表情を気にしていた。


 クリスもさっきの事もあってか第一王子が《彼》かもしれない。

 そう思っていた。


 暫くすると騎士の集団が舞台に上がってきた。

 騎士の真ん中にいたのはクリスと同じ年齢ほどの男性。

 服装も顔立ちもとても整っている。


 するとその男性が話し始めた。


「とても良い試合だったぞ!見事だった!!

 私は第一王子のフィル・ラ・ファルトという者だ」


 するとシクレは片膝をついた。

 そして会場内全ての人が膝をつく。


 それにならってクリスとルナも片膝をついた。



 ……《彼》は第一王子では無かった。


「楽にして良い。私は3人に褒美を与えるために来たのだ。

 優勝者の願いはできることなら叶えよう。2位3位のルナとクリスには品は決まっておる」


 そういって続けた。


「正直に言うとな、ここに並ぶのはリル殿と王国騎士だと思っていたんだがな。素晴らしい戦いであったぞ!」


 王子の絶賛に合わせて会場から大きな拍手が湧く。


「3位 クリス!お主には金貨1000枚を与えよう!見事であった!!」


「ありがとうございます」


 クリスは礼をいい金貨を受け取った。


 ルナはクリスが何も言わないのをみて《彼》では無かったと判断した。



「2位 ルナ! お主には金貨2000枚を与えよう!

 大変見事であったぞ!」


「ありがとうございます。」



 そして第一王子は爆弾を投下した。


「そして1位!リル殿!……あぁ、今はシクレと名乗っておるのだったな。皆に顔を見せると良い」



 シクレは断る事が出来ず、前に出た。


 ──風が舞う。


 短髪の透き通る青の髪を靡かせ、仮面を外した。

 その顔立ちは驚く程に整っている。印象的な瞳は青と黒のオッドアイだった。

 それを目にした観客は有り得ない人物の登場に驚きを表した。


「まさかっ……!」

「なっ!あの方は!!」

「なんでここに!?」


「さぁ、自己紹介だ!リル殿」


 王子にそう言われたら断る事ができない。

 シクレは素直に自己紹介を始めた。


「私の名はリル・ナスタシア!

 帝国にて魔族に対抗せし……人族の勇者だ!」



 本人が宣言した事により、会場は混乱状態になった。


 この大陸は険しい谷と山脈で3つに分かれている。

 西側が魔族の暮らし、谷を挟み人族の領地、そして人族の領地の東側の山脈の奥に獣族やエルフが暮らしている。


 昔から人族と魔族は戦争をしており、その第1陣を切るのが勇者といわれている。

 いつ始まるかわからない戦争を控えているのに勇者がここに居るなんて誰も思いもしなかったのだ。


「此度は私の推薦で勇者リル・ナスタシア殿を大会に参加してもらったのだ。誰も文句は言うまい。

 して、リル殿よ。優勝したのだ。何が褒美を与えよう」


 そしてリルも爆弾を投下した。


「私は魔族とて、罪の無い生き物を殺したくはない。だからと言って仲良くなろうとも言わない。魔族と休戦する条約を結ぶための同意書を一封書いてほしい。賛同の意を帝国へ持ち帰りたいのだ」


 今度は第一王子を含め会場内全体が固まった。

 誰も何も言うことができずに静まり返っている。



(あ〜、これがしたくて負けられないって言ってたのか)

 ルナは思った。まさかここまで大事だったとは。


 だがクリスもルナは、魔族と人族の歴史など知らなく第一王子の返事を待っていた。


 観客含め、全ての人は第一王子の返答を待っている



 当人はしてやられた。と推薦した事を後悔したような悔しそうな表情をつくった。


「確かに私はリル殿が望むなら同意したい。が、それで帝国に睨まれたらこの国はおしまいだ」


「わかっている!そこは私が上手くやる」


「ふむ……、しばし考えさせてくれ」


「……わかった。」



 一区切り話を終えた第一王子は民を見渡して言った。


「最後に!大会の優勝者、そして2位3位の称号を得たこの3人に大きな拍手を!!」



 そして大きな拍手が巻き起こった。

 最後に色々と驚いた事があったが、大会は終わったのだ。


 優勝できなかったが、クリスとルナは抱き合って喜んだ。


 解散となり、控え室に戻るとシクレ、いや、勇者リルが待っていた。


「……クリス、いい試合だった。」


「うん、ありがとう。えっと、リルさん」


「うん。そしてルナも……、いい試合だった。」


「でも何が何だか分からないうちに負けちゃったけどね」


 リルは何だか悲しそうに笑いながら真剣に2人に告げた。


「2人に言いたいことがある」


その真剣な雰囲気にクリスとルナは佇まいを正した。


「私が勇者だからわかる事。まず、クリス。

 貴方はその強大な力で自分がわからなくなる時が来ると思う。その時は大切な人を信じなさい」


「え、うん。わかった」



 勇者の力かよくわからなかったけどルナを信じろって事だろう。そうクリスはそう解釈した。



「そしてルナ、貴方は……


 ………わかった?」


 リルはルナの耳元で囁いた。


 クリスには聞こえなかった。

 だが、ルナは呆気にとられながらもいい笑顔で返事をした。


「うん!もちろんだよ」



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