13話 今後の旅路
クリスとルナ(主にクリス)がやらかしてから数日が過ぎた。
結局、神の恵みと謳われた元荒地は人間にとって悪い影響や異常はなく、とても環境の良い土地へと変わっていた事が判明した。
そうして荒地でなくなった場所を『女神の癒地』と縁起の良い名前がつけられた。
一応確認のためエナに話を聞きに行くと「言うわけないだろう!」と言っていた。
民の間で勝手に話が盛り上がったらしい。
何故女神なのかは知らないが、荒れた大地を癒した神を女神と誰かが称したのだろう。
そしてそれを興した神が不明なのでその神の名を『癒しの女神』としたらしい。
それを知った時、クリスはかなり悶えた。ルナは癒しじゃなくて破壊の間違いなんかじゃないかと思っていた。
そしてクリスとルナは信頼できそうな情報屋と知り合うことができた。
表向きではないが、ギルドもお世話になっているという。
エナに情報屋を探しているとさり気なく聞いてみたら紹介してくれたのだ。
その情報屋の名前はロムと言うらしい。
クリスは情報屋なので偽名ではないか?と疑っていた。
だが、情報屋としての仕事は一流で、あの災害を女神だと最初に言った者を知っていた。王都の教会にいる神父らしい。
優秀な情報屋と知り合うことができたので、早速《彼》を探す依頼を出した。
「18歳前後で悪い噂の聞かない実力者を探してほしい」
ロムは何故そんな情報を求めるのか不思議に思ったが、その理由や動機を聞くのは情報屋としてタブーだ。
「わかりました。探してみましょう。
ですが人探しでここまで大雑把なのは初めてです。
大抵は名前とか居場所とか少しだけでも情報があるのですが、まぁそれについては何も言うつもりはありません。
帝国は調べる事はできないので、この国だけになりますけど、時間がかかると思います。見つかるまで王都にいますか?」
「どれくらいかかるかによるけど、まだわからないかな。旅をしてみたいからね」
「わかりました。王都から出るのでしたらその時にギルド長のエナさんに一応連絡を入れてください」
「わかった。依頼料は?」
「前金で金貨5枚です」
「はい。これでいいね」
「確かに受け取りました。一週間ごとに連絡します。
とりあえず王都にいる時はギルドの奥の部屋を使わせてもらいましょう」
このようなやり取りがあった。
そして今、丁度その日から一週間が経ったのだ。
2人はギルドの奥の部屋でロムを待っていた。
部屋のドアがノックされた。
ロムが来たのだろう。
「クリスさん、ルナさん一週間ぶりです」
「なんか随分久しぶりって感じがするよ」
軽い挨拶を交わし席に着く、それを見計らって受付嬢のナーベがお茶を出した。
「何かございましたらお呼びください」
そう言い残し退出していった。
早速ロムが話を切り出した。
「この一週間、各地の信頼できる同行者と連絡をとっていました。それで18歳前後の男性で高い実力を持つ者の情報を集めました。」
「見つかりました!?」
「はい、ですが実力のある という点でどの程度が分かりませんでしたので 滞在している街の民がその名を知っている という条件付きです。この国で10名程見つかりました。」
「10名もですか……それもそうですね」
まだ依頼を頼んでから一週間だ。それだけの期間でこんな大雑把な条件の人探しで特定するなんて不可能に近い。
だが、ロムの話はまだ終わっていなかった。
「それで悪い噂の聞かない人物 という条件をつけるとさらに3名に絞れました。」
「ほんとですか!?」
「はい。そしてこの紙を見てください。その3名の居場所と名前、その評判や経歴をまとめました。」
これにはクリスもルナも仕事の速さに驚いた。
たったの一週間で3名に絞ったのだ。
ロムという情報屋をなめていたのかもしれない。
「ロムさん……すごいんですね情報屋って」
「ははは、お金を頂いてますのでね。ですが今の条件ではさらに絞れません。そして名を馳せてない者かも知れません。ましてや帝国までは調べる事は難しい。調べようがないので依頼自体ここまでとなってしまいます」
「はい。後でこのリストを見返して心当たりのある者へ訪ねてみようと思います。ありがとうございました!」
「はい。代金は前金で充分です。
またよろしくお願いします」
こうしてロムは退出していった。
早速リストを見てみた。
──ディル・ロット──
港町アベラに滞在する 18歳
若きAランク冒険者として名を馳せている
長剣使いであり、かなりの剣術を有している
評判
かなり良好
子供からのお年寄りまでかなりの人気者
経歴
代表的なのは半年前、稀にある魔物が溢れ町を襲うスタンピードの際、他のAランク冒険者と住民を守りながら戦い、被害を最小限に抑えた。
──カミツ・ホーシン──
様々な場所で活躍するSランク冒険者 18歳
若き天才ともよばれ、様々な魔法と槍技を使う。
Sランク上位と呼ばれる冒険者と共に行動している。
評価 良い
子供が家から落ちた時助けてくれたと公言していたらしい。
それを聞いた住民からの評判は良い。
悪い噂は聞かない。
経歴
魔物が溢れ出るスタンピードを1人で壊滅させた。
ダンジョンとよばれる場所を1人で攻略した。
などの経歴があり、その実力が認められ一年前、Sランク冒険者になった。
──ルディア・フィ・オグマ──
王都に滞在する王族。殿下と呼ばれている。
第一王子にして民に次国王とまで謳われる人物。
民のため動ける者であり、皆に慕われとても人望がある。
歳は17歳。王城の騎士に一騎打ちで勝ったという確かな情報がある。能力やらは不明。
評価
誰もが知っている人物であり、殿下が王になったら国がより平和になるとまで民に言わせるほどの人物。
経歴
約一年前の殿下の17歳の誕生日、成人式が行われた。
その時、民へ訴える演説を行い国民の心を捉えた。
その後の活動も素晴らしく、誰かのために動く上に立つ者という存在だ。
クリスとルナはリストを読んで、今後の方針を決めようとしていた。
「クリス、どう?」
クリスが読み終わったのを見計らってルナが声をかけた。
「あはは、さすがにわかんないかな」
クリスこのリストを見て、どの人も有り得ると考えた。ただ、実際に会って見ないとわからない。
「ルナ、この3人とも《彼》としての可能性はあると思う。」
「わかった。なら難しいのはこの第一王子ね……」
「それが一番の問題だよね」
今、第一王子は1番忙しい時期だ。
私情で面会はかなわないだろう。
「でも会えるかどうかエナさんに聞いてみよっか」
「うん、もしかしたら会えるかもだからね」
こうして第一王子の方針は決まった。
次は比較的会うのが簡単そうに思える
港町アベラに滞在するAランク冒険者のディルだ。
「アベラまではガゼフさんに頼もう!」
「そうだね、でもあれから1ヶ月は王都で用事あると言ってたから、あと三週間後になるかぁ」
「じゃあ空を飛ぶ?」
「う〜ん、アベラまでの道程が不安だから」
「あー、そっか。じゃあガゼフさんのお家に行って頼んでみよ」
「うん、そうしよ」
アベラへの道程の話も決まった。これはガゼフの予定に左右されそうだ。
「じゃあ、最後のカミツさん」
「どこにいるかわからないっていうのがネックだよね」
王子は王都にいるとわかっているけど、カミツがどこにいるかわからなかった。よって会うのが一番大変そうに思えた。
なので2人はカミツは道中探すとして、ディルって人と王子が人違いだったらまた情報屋雇って調べてもらう。という所で話を切った。
「なんか今後やる事が決まったから昨日より頑張れそう!」
「そうだね、何か目的があると違うよね」
2人はいつまでもここにいる訳には行かないのでナーベに礼を言い退出した。
そして王子に会えるか聞くためにエナのいるギルド長室前まで行った。
クリスがドアをノックした。
「失礼します!クリスとルナです。エナさんいますか?」
すると、「はーいどうぞ」という声が聞こえてきたので入室した。
エナはとても座りやすそうな椅子に腰掛けながら机に向かって筆を持ち奮闘していた。
その勢いや危機迫った表情に
((うわぁ、ギルド長大変そう))
とクリスとルナは少しひいた。
「2人ともどうかしたのか?」
エナがとても忙しそうなので早速本題を切り出した。
「第一王子に会いたいです」
「……ん?」
「第一王子に会いたいです」
エナは時間をかけその言葉の意味を理解し、長いため息をついた。
「あのな、今第一王子は1番忙しい時期なんだ」
「それはわかってます。でもギルド長のエナさんなら会える手段を持ってないかな〜?って思って」
「無理だぞ、今第一王子は休みがないくらいめちゃくちゃ忙しいはずだ。なぜなら今まで休みがあれば此処に遊びに来ていたからな」
「あ、そうなんですか」
第一王子此処によく来ていた事実にクリスとルナは少し驚いた。
「意外かもしれないがあの方は気楽な性格をしていてな。もちろん素性を隠してだから情報屋にも口止めさせてる。狙われたりしたらギルドが危ない。2人ともこの事は内緒な?」
そう言いエナは器用にウインクしてきた。
言いふらすつもりもないし素直に頷いた。
「はい、わかりました。次いつ此処に来ると思いますか?」
早めにくるなら越したことがないが、ずっと王都に居座るつもりもない。
数週間後に旅商人のガゼフとアベラへ行くつもりだからだ。
「多分半年後くらいになるかな?本人がそう言ってた」
「そうですか……」
王子と会えそうにないので後回しにしようと考えていたらエナが1つ提案をしてきた。
「だがな、第一王子に会うことは多分できるぞ」
「え?どこでですか?」
「今から2週間後にある武術大会だ」
「そんなのがあるんですか?」
「なんだ、2人は知らなかったのか。王都ではかなり有名だぞ?」
エナはそう言って机にあった資料を2人に手渡した。
「観客席からも第一王子を見れるがもう予約席は全て埋まっていて入ることすら出来ないだろう。だか選手の応募は終わってない。優勝すれば第一王子直々に褒美を貰える。その時に少し話せるかもしれん」
クリスとルナはその資料を読んで揃って頷いた。
というよりその大会に惹かれ純粋に出たくなった。
「でたいです!でます!!」
そう言って2人は目を輝かせた。
その表情に苦笑いしながらエナは釘をさした。
「その武術大会は魔法禁止だ。2人の得意な魔法攻撃は出来ん。ただ、自己強化魔法や魔力は使っていい。目に見える魔法攻撃が禁術されているんだ」
ルナは槍を使えるが魔法と混合の槍だ。
何処まで通用するのか試したくなった。
そしてクリスは特に武器は使わない。だが自己強化魔法はとんでもないほどの効果だ。国が行う実力大会で何処まで戦えるのか挑戦したくなった。
「それでも大丈夫です!」
「私も、槍使えるし大丈夫です」
「よし、わかった。私の推薦という事でエントリーしておこう。詳しい内容はその資料を読んでおいてくれ」
話は済んだとエナが手元の山となった資料を眺めてため息をつき、仕事に戻った。
忙しそうなエナをこれ以上邪魔する訳にはいかないので2人は礼を言って退出した。
その後2人はその資料を元に話し合いをした。
主に資料には大会目的、開催場所、日時、条件、賞金、ルール、試合形式、大会関係者等が記載されていた。
大会目的には国の発展、武術の向上を図り治安や国の歴史を物語っていた。
開催場所は王都の西側、『ロディア』と呼ばれる大きい武道会場らしい。主に国が何かをするために使われるそうだ。
日時は今日から丁度二週間後の午前10時に開会式、大会出場者はその1時間前には控え室に集まるそうだ。
条件とは冒険者のランクがC以上との事で、実力者が集うことが用意に想像できた。
賞金は10位まであるらしい。
内容は大会当日まで不明だ。
1位から3位は直接第一王子から品が渡されるそうだ。
ルールでは先にエナが語ったように、魔法攻撃の禁止が記載されていた。
武器については刃物はNGだそうだ。それも個人の向上のため、刃のある武器を使う事も大切であるが、国の民を傷つけないための処置であると記載されている。
模擬武器の貸出は好きなだけ可能だそうだ。
そして試合形式、ロイヤルバトルらしい。
参加者を30名〜50名を1組とし分けて、立っている3人が決勝トーナメントへ出場するのだそうだ。
今のところ既に240名ほどエントリーしているらしい。
まだこれから参加者が増えると書いてあった。
シード枠は国が決めているので私達はロイヤルバトルからだ。
最後に大会関係者一覧だ。
国を上げて行う企画であり、国に所属している者の代表の名前が記載されていた。
そしてその中に、旅商人枠としてガゼフの名が大きく載っていた。
それを発見したクリスとルナは……色々辻褄が合い納得するのと同時に、あのガゼフがここまで国の重要人物なのかと、かなり驚いた。
「ねぇ、クリス。明日ガゼフさんのお家に行こう」
「うん。忙しいと思うけど、なんか色々と言わないとね」
ガゼフに名義のお礼とアベラへの同行の許可、そして大会について聞きにガゼフの自宅に訪問することにした。