7日目 Party
「やっほー!みんな準備できてる?」
「ぎっギャアアアアア!!!!」
くぐもってはいるが明るい声の緑の怪獣の着ぐるみが真っ先にキッチンへ来たのだ。
前日のうちに男子は準備を済ませておいてくれたお陰で、女子はゆっくり準備してからキッチンの方へは入れた。
ちなみに悲鳴をあげたのは男装した神崎だ。
突き飛ばされた緑の怪獣はなんとも間抜けな声をあげてひっくり返った。
「何してるの、日向くん、遊んでるの?」
「いや起きれなくて…。」
一ノ瀬の呆れた声を察したのか真面目に返す日向。
どうやら日向は緑の怪獣の着ぐるみらしい。その横からぬっと赤い怪獣の着ぐるみを着た相原と、スーツで決めた永瀬が現れた。ひっくり返った日向を起こしてあげていた。
「スーツ持ってきたの?」
「いや倉庫にあった。
丈短いのがあんまりなくて、日向が梶山に譲ってこうなった…つーか、岸かよ、見違えたぜ。神崎もかっけーな。日向のスーツよりも様になってんじゃねーか?」
「えー?譲ったじゃなくて奪った、の間違いでしょ?それにヤクザみたいになってる永瀬クンに言われたくないなぁ〜。」
着ぐるみを着ているくせに俊敏に永瀬の攻撃を避けている。それを見て、中は本当に日向なんだなと実感した。
そして永瀬が男子を呼んでくると対面となる。
男子は日向以外みんなスーツで決めたようだ。
日向は何やらぶつくさ文句は言っていたが目が合うと(着ぐるみの虚空を見つめるような目と、だが)すぐに黙った。
「おそろいだね?」
「あ〜あ〜。相原サンとお揃いなんて残念だよ〜。ま、オレがスーツ着たら相原サン気絶しちゃうかもしれないしねー。」
「ひゃ?!」
「調子に乗るなチビ日向!!」
せっかく永瀬の猛攻から抜けたのに次は鬼頭にチャレンジしている。
とりあえず私は放っておいて、肝心の新倉の様子を見にいく。途中、青島と一ノ瀬に何か言われた気がするが、今回の目的は新倉と細野をペアにさせるための活動だ。
特に気になったことは言っていなかったので、放っておいた。
少し汗をかいた永瀬も合流する。
「鬼頭さんかわいいっすね!」
「はぁ〜〜?!あなたに褒められても嬉しくありません!」
「…かわいいと思うよ?」
「ありがとうございます!」
相原の褒め言葉は素直に受け取る。フラれた辻村はちぇーと言いながらこちらに合流した。
そして、永瀬とともにしみじみと私のことを見つめる。
「岸さんもかわいいっすね!ね、永瀬くん!」
「おう、似合ってんじゃねーか。」
「ありがと。アンタらも日向以外はマシに見えるね。」
「褒めてんすか?それ?」
辻村は面白そうに笑う。
だが、周りを見渡すと、あれ?とすぐに首をかしげる。おそらく私と永瀬が合流して話し合おうとしたことだろう。
「何か女の子人数少なくない?えーと…加瀬さんと、野呂さんと…新倉さん?」
「よくお気づきで。」
「へ、永瀬くん何か知ってるんすか?」
やや羨望も含む視線で辻村が永瀬を見つめる。永瀬は何かに動じた様子はなく、涼しい顔をしている。
ちょうど噂をすると、出入り口の方が騒がしくなる。いよいよ出てきたかと思い、私も出入り口の方を見た。
扉からやってくる人物は分かっていた。
ただ姿を見て、みな息を飲んだ。
普段眼鏡で三つ編みで、地味を極めている新倉が、眼鏡を外し、綺麗なワンピースを身につけ、まっすぐな黒髪を揺らしながらやってきたのだ。
低くはない身長であるため、ヒールを履くとモデルのように綺麗なシルエットを描く。
「…見違えた。」
日向の何とも思っていないような軽い一言で場の空気が変わる。皆集まって似合う、綺麗と声をかけている。
「素材がすごく良くて加瀬さんも私も気合入っちゃったの…」
「化粧すごいね…。」
私は空いた口が塞がらない。
その横で真っ先に飛びつきそうな辻村がひょこひょこやってきた。野呂はヒッと声をあげたものの、私を挟んでその場に留まる。
「というか、何か見たことない?」
「何か?私、芸能人とかあまり知らないけど。」
「あのー、昔テレビに出てた、子役のくイタタタタ!!!」
辻村が悲鳴を上げ、その場にうずくまる。
私も野呂もとっさに反応できず、飛びのいてしまった。離れたところにいた青島が駆け寄ってきた。
「どうした?!」
「いや、リストバンドから電気が…。」
「もしかして、新倉さんの本名言おうとした?」
梶山が控えめに尋ねると、半分涙目で頷く。
それを見兼ねた新倉が苦笑いしながら肯定する。
「たぶん、辻村くんが言おうとした人であってると思いますよ。昔テレビに出てたから知ってる人もいるかもだけど…内緒にしてくださいね?」
「あっ、ハイ…。」
なるほど、新倉が地味を徹していたことやあまり同級生と親しく接したことがないと話していたのは、子どもの頃子役として役者業をしていたことに起因するようだ。
そんな彼女に目の前でウインクされ、辻村は赤面している。
「こういうところが男子はダメ…。」
「はっ」
後方からは鬼頭の冷たい視線が刺さる。
辻村が慌てて鬼頭に駆け寄るが見事返り討ちに遭っていた。
「じゃあ、全員揃ったし、乾杯するぞー!おし、みんなコップ持ったな?
最後まで、笑顔で、60日乗り越えるぞ!」
青島がせーの!と声をかけるとカンパーイ!という声が食堂に響く。
やっと相原と日向は顔を出した。
2人とも季節柄汗もびっしょりかいているようだ。
各々、席で雑談しつつ、時間が過ぎていく。
「岸さん、永瀬くん。」
「ん?」
私たちに加え、青島を入れて話している時、新倉が寄ってきた。
「青島くんもですね。今日はありがとうございました。」
その微笑みはやっと緊張がとれたような、ホッとしたような笑顔。
「私、今まで同級生とこんな風に騒ぐの、初めてだし…。過去のこと気にせずに話せるのがすごく楽で、安心で…できるだけ、ここでの生活続けていきたいってすごく思えました。
参加した時は、ちょっと怖かったけど、頑張れる気がしました。
岸さんと永瀬くんが相談に乗ってくれて、青島くんがこの会開いてくれたお陰です。
本当にありがとうございました。」
「水くせーな。そんな改まってんなよ。」
「そうそう!これだってオレが開きたかっただけだし!」
2人は穏やかにそう返す。
永瀬も、徐々に態度が軟化してきたようだ。
「それより、新倉は細野のところ行った?」
「ヘァ?!」
私がそう尋ねると、どこから出たのかよくわからない声をあげ、赤面する。
青島はそうだったのか?!と鈍いことを叫んでおり、永瀬はうんうんと私に同意するように頷く。
肝心の細野は梶山と橘と話をしながらのんびりしている。
「わざわざ聞くんです?!」
「何のために協力したっていうのよ。」
「無理!無理です!!」
「あ?やれよ。」
永瀬の瞳孔が開いている。
遠くから野呂がヒッと息を飲む音が聞こえた。
その様子を見るときにふと、相原や鬼頭と話していた日向と目が合った、気がした。
気がしたというのも分かるか分からないか程度ににやりと笑ったのだ。そこから彼の動きは早かった。
「ねーねー、梶山クン、細野クン、橘クン。
せっかく女の子たちが可愛い格好してきたのに男だけで集まってるなんて寂しくな〜い?」
「うわ…。」
橘があからさまに嫌そうな表情をした。
しかし、日向は気づかないふり。
「特にオレさ〜、普段もやっぽい新倉サンとか、粗雑な岸サンとかギャップ萌えすると思うんだけどどう?
男として、ノーコメントはないよね〜?」
「ノーコメント。」
橘の一刀両断にあらら〜なんて言いながら剽軽に笑っている。
「た、橘くん!そんなことないよ!2人ともすごく綺麗で、大人っぽいよ!」
自然と梶山が同意してくれる。
「細野クンは〜?」
「オレか。」
私たちのことを流し目で見る。
私は何となく視線を合わせたくなくて逸らす。一方で、新倉はキャパオーバーか、顔を真っ赤にして固まっている。
「……2人ともとても綺麗だ。
新倉も、普段からそうしてた方が良いんじゃないか?」
日向はすぐに答えを引き出せたせいか、興味が無くなったようで、細野クンのむっつり〜なんて煽りながら辻村たちの方に行ってしまった。
代わりに細野はは?!と顔を赤くする。
「あ…ありがとうございます…。」
「……おう。」
「僕のコメントは…。」
「梶山、ドンマイ。」
スルーされた梶山はがっくり肩を落とし、それを永瀬が慰める。
「あ、オレからも!刹那、可愛いぞ!」
「ありがと。」
「淡白だなぁ…。」
なぜかどんよりしている青島を一ノ瀬が遠目で笑っていた。
開始から1週間。
参加者同士の絆も確かなものが生まれ始め、私たちはこんな生活が続くと信じて疑わなかった。
そして近く第2の試練より、今回のゲームが如何に歪かを思い知らされることを、私たちはまだ知らない。