6日目 ボーイガール
「………。」
「………。」
「………。」
3人は食堂にて顔を合わせる。みな一様に疲れ切った顔だ。言わずもがな私、新倉、永瀬だ。
結局のところ、あの後は日付が変わるまで論争となった。
永瀬はトチ狂って応援してるぜとか言い出すし、新倉は告白してきますとか急ぎ出すし、止めるのが大変だった。
『は、つーか出会って数日だろ?!そんなことありえんのかよ?!』
『た、確かに、私小さい頃からあまりクラスに馴染めなくて、同い年の男の子なんて話す機会なかったんですけど、免疫ないんですけど!
それにしたって無骨で、でも時々優しく微笑んでくれて、たくましいあの姿を見たら好きになっちゃいますよ!』
『あ、そう…。』
新倉にあの刺々しくしていた永瀬が言い負けた。あれは面白かったけど、私は言葉を紡ぐ余裕さえなかった。
『だ、だから好みのタイプとかきいてくれないかなって…。あと永瀬くんにはお、男の子ってどんな女の人が好きなのかなって…。』
『オレは…アレだ…何かに一生懸命な子がいいと思うぞ…。』
新倉に圧倒されて素が出ていた。
やはり、威圧的な態度をとっていたが、永瀬は意外と常識人なのではないかと思った。
そして、私に課せられた任務、細野の好きなタイプを聞く、これがハードだ。気が重くて仕方ない。
ちなみになぜ私に頼んだかというとあまり大事にしたくないが、確実に知りたいかららしい。
確かに昨日女子会に来ていたメンバーは男子嫌いな鬼頭にミーハーな一ノ瀬、コミュ障な野呂だ。
相原なら上手く聞けそうだが忘れそうだ。神崎はそんなことにエネルギーを割いてくれなそうだし、加瀬は男子みんなに愛想がいいため警戒対象。
そういうことなのだろう。
ちなみに永瀬に頼んだら全力で拒否された。
まぁそういう日に限ってチャンスというものはきてしまうようで、食堂に辻村、梶山、浦、加瀬、細野というカオスなメンバーが揃ってしまった。
これはいわゆるチャンスというやつなのだろう。
しかし人数が多すぎる。
嫌なことは先に終わらせてしまいたい派の私は、表情には出さないものの内心どうしようかと画策していた。
「あのさぁ、岸ちゃんはさぁ〜、青島のこと好きなの?」
「いや別に。」
「そっか〜。ねぇ、男子ってどうなのぉ?
それか好きなタイプとか。」
間伸びした声で尋ねる。
私が聞かずとも、勝手に話が進んでいく。素晴らしい話だ。
「なんすか、恋話っすか?
オレは元気な子が好きかな〜。梶山くんは?」
「えっ、僕?僕は…そうだな、可愛らしい子かな。」
「やっぱりみんな相原とか可愛いって思う感じ?」
「相原さんは可愛らしいじゃない。」
浦がクスクス笑う。
「……ペットみたいだよな。」
「あー、分かるかも。」
細野の発言に梶山と辻村が同意し、話が逸れていく。
しかし、ここで浦が天の一声だ。
「でも、細野くんって女の子全く興味ないのかと思ってた。」
「人並みにはあるぞ。…そうだな、岸みたいな容姿の女性は好ましいな。」
「お、告白っすね!」
「大胆だなぁ…でも憧れるな。」
「待って!刹那ちゃんは私のものだから!」
「いや違うし…というかどこから…。」
上手く話を聞けたと思ったら細野が爆弾を投げ込み、辻村と梶山が地雷原を歩き、爆風に巻き込まれる私をどこからか現れた一ノ瀬が救った形だ。
正直、今回は一ノ瀬に救われた。
午後は新倉と永瀬と合流し、作戦会議となった。
意外や意外、永瀬は案外協力的だった。
「何企んでるの?」
「アイツらがペアになったらチャレンジ権持つ奴減って、取り分増えるから。」
なるほど、と納得した。
永瀬に関しては完全に賞金目的らしい。
新倉は毎回食事が遅いため、私たちが先に出て、中庭で待つ形になる。風に合わせてハンモックがゆらゆらと揺れている。
前までの生活と変わらない飛行機雲が青空に一線を加える。
何も変わらない空、近いうちに雨が降るのだろう、容易く予想ができる。
「岸はよ、何でこのゲーム参加してんだ。他の奴らと違って金目的だろ?」
「はっきり聞くね。」
「敵味方はっきりしときてー性分なんだ。
話聞いてた感じ、日向と加瀬、野呂、相原、細野は賞金が目的っつってたしな。でもそんな脅威には感じねぇ。あのクソガキ以外は…。」
「それは同意。」
永瀬がははっと笑う。
お互いに暑さにやられてしまったのか思考を止めながら会話をする。
「お前、家貧乏だろ。」
「何でそう思う?」
「飯出てきた時、すげー嬉しそうだっし、風呂上がりのお前は幸せそうだったから。」
私は何も言わない。
それが肯定だったから。
代わりに反撃してやった。
「永瀬も家貧乏でしょ。」
「何でそう思うんだよ。」
「私のことが分かるのと…あと、コーヒーが美味しかったから。」
言外にバイトしてるんでしょ、と意を込めてみた。
永瀬はふっと笑う。
「似た者同士かよ。…然るべき時は利用させてもらうからな。」
「そっくりそのままお返しするわ。」
遠くから新倉のごめーん!という声がした。
そして作戦会議が始まった。
とりあえず食堂の中での話を報告すると新倉にはひたすらずるい、羨ましいを連呼されることになる。
途中永瀬が止めてくれなかったら帰ったかもしれない。
「でもお前だって黒髪じゃん?結構なげーじゃん?
どうにかなんじゃねーのか?」
「どうにかって…でも今更変えてもおかしくない?」
「まぁ確かに…。」
何やかんや真面目に考えている永瀬。私の中で永瀬の評価がうなぎ登り中だ。
「じゃあどうすんだよ?」
「そう言われても…。」
「なら明日の親睦会利用しようよー!」
「利用っつったってな…何かいいアイデアあんのかよ岸。つーかお前そんな不愉快な話し方だったか?」
永瀬が振り向くとそこには満面の笑みの日向が立っていた。
途中から2人の会話には日向が混ざっていたのだが、気づかなかったようだ。ちなみに「まぁ確かに」から日向は参加していた。私は一切声を発していない。
永瀬はよほど驚いたのか新倉とともに腰を抜かした。
それを見て日向は腹を抱えて爆笑している。
「なんでおめーここに…。」
「えー、昨日の夜から3人が何やらこそこそしてたのはお見通しだよー。というか昨日の悲鳴うるさすぎだよー。これは本当の話ね!」
ケラケラと愉快そうに笑う。
それを嗅ぎつけてつけてきたということだろう。
どこからどこまでを聞いていたのだろう。若干不安になったが、まぁいい。
「それより、利用ってどうするんですか?」
「簡単だよー。仮装…というかオシャレとかイメチェンしてきてね!ってアナウンスすればいいだけだよ。
絶対青島クンとか辻村クンが好きでしょ!」
なかなか革新的なアイデアをさらっと出したところに3人で関心する。
素直に褒めると嬉しそうにしていたが、急に感情が抜け落ちた顔になり尋ねてくる。
「というか、何でイメチェンするの?」
「実は昨日の話に戻るんだけど…。」
新倉が辿々しくも話すとなるほどねー、と呟く。
「ま、程々に頑張れば!今の所オレがどうにかなることじゃないし!オレこれから加瀬サンと浦クンと遊ぶから!じゃあね〜。」
で、遊ぶの間違いじゃないだろうか。
そう思いつつも、彼のアイデアに乗るべく、青島を探すこととなった。
青島は案の定、バッティングセンターにおり、へばった梶山、細野、辻村というメンバーだった。
青島に永瀬が事情をこそこそと話すと青島が目を輝かせて頷く。
ここからは青島のうまいところ。
まるで自分が考えたアイデアのように夕食時にアナウンスを行なったのだ。
夕食後は女子で集まり、明日の親睦会の準備が始まる。男子は男子で集まっているようだ。ロボに協力してもらいつつ明日の料理を作っていく。
開催時間は昼から。
ちなみに私、一ノ瀬、野呂以外はあまり戦力にならなかった。
途中たまたま来た永瀬の方が使えたくらいだった。
そして一通り準備が済むと、明日のイメチェンの話になる。
「ねぇねぇ、明日はどうする?!」
「どうするって…。」
一ノ瀬がノリノリで尋ねてくる。
正直私はあまり乗り気でないというか、こういう流れは苦手なので困る。
「刹那ちゃんはとひあえず、ジャージ脱却!で、少し髪の毛巻こう!」
「化粧品なら私の部屋にあるよ〜。」
意外や意外。
加瀬が案外乗り気なのである。
「美沙子さんはどうするんですか?!」
「ふっ…私にはすでに準備があるから問題ない。」
そう言うとドヤ顔で去って行ってしまった。何やら嫌な予感がする。
ちなみに鬼頭はウィッグ、加瀬は簡易的な黒染めスプレー使用、野呂、一ノ瀬はキャラ物パジャマ、神崎は男装など色々と決まった。
新倉も気合が入っているようだった。
楽しそうな彼女達の姿が眩しく見え、私は僅かに目を細めた。
はじめから私は金だけを求めてきた、果たしてそれは間違いなのか。
「刹那ちゃーん、明日どんな感じに仕上げたい?きてきて!」
余計な考えを振り切るように私は小さく首を横に振ると、ため息をつきつつ、呼ばれた輪に入っていった。