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Money × friend -只今放送中!-  作者: ぼんばん
試練7 望まれないエンディングへ
62/82

56日目① 最後の試練

今日は何となく、皆が落ち着かない様子であった。モニターの方とも確認し、試練は13時からスタートとなった。


みんな、普段通り過ごしているように見せかけて、緊張しているような、警戒しているような、今までで1番穏やかなのに、1番危うい雰囲気だ。




「………2人は相変わらずゲームやってるんだ。」

「だって最近やってなかったし…。」

「それになんやかんや細野クンに鬼頭サン、青島クンも変わらずトレーニング行ってたしね。」




前の2人は不安を払拭するためかもしれないが、案外図太いものだ。浦や橘に関しては、寝坊である。

野呂や永瀬、梶山なんてクマだらけだったのに。




「……どうしたの?」

「あ、いや別に。……さすがに、緊張しててね。」




何となく、言葉にするとスッと心のつっかえが取れた。そんな私の言葉を聞いて、相原が私の手を握る。




「不安よ不安よー。モニターの先に飛んでけー。

なんてね。元気出た?」




私は一瞬何が起きたかわからなかったが、相原と視線がかち合うと何となく照れ臭くなった。

目線を外す私を日向が横からジト目で見ている。




「……相原、それ誰にでもやるの?」

「やらないよ! ……前はやってたけど、今は。」




後半は日向に聞こえないよう、といった様子でボソボソと。これはやられると同性の私でも照れくさいんだから、男がやられたらたまったものじゃないかもしれない。




「……ねぇ、ちょっと、相原サン。ゲームは。」

「あ、ごめん! じゃ、頑張ろうね!」




頑張ろうね、か。

改めて私はメンバーに恵まれたのかもしれないということを思う。

かなりアクの強いメンバーではあるけれども。


昼食後、何人かで固まりながら、体育館に向かう。私の傍らには相変わらず一ノ瀬が、そしてもう一方には青島がいた。




「何か、この並び順、懐かしいね!」

「確かに、初日に校舎ウロついた時、この3人で探索したな!」

「……そういえばそうだね。」

「ほんと、青島くんは邪魔者だったけど!」「あ?こっちのセリフだろ!」




私の背後で睨み合う2人。

そういえば、自由時間のお誘いもこの2人が圧倒的に多かったし、私が自分から余暇時間を過ごしたいと思ったのもこの2人が強かった気がする。




「ふふ…。」


「どうしたの?」

「どうした?」




声を合わせて尋ねてくる2人がさらに面白くて笑ってしまう。




「いや、2人と会えてよかったなって。試練、頑張ろうか。」


「「………。」」




2人に肩をどんと叩かれる。




「これが最後ってわけじゃねーんだからよ!」

「そうそう! 私たちの絆は不滅だよ! あ、青島くんは含まれないから。」

「仁奈、刹那のことになると本当に辛辣だよな…。」

「……気は合いそうなのに、仲良くないよね。」



「………。」




そんな風にわちゃわちゃと騒ぐ私たちを永瀬が何も言わず、見つめていたことに私は気づかない。


チャレンジ権のない全員が、緊張した面持ちで、マスクを装着した。




『皆さん、お揃いですね!では、試練の方を始めていきましょう!投票先は決まっていますか?』


「そんなの決まってーーーー「ストップ!」




神崎の言葉を私が遮る。

他の4人も少しばかり、驚いた顔で私を見つめた。マスクをしていないメンバーの感情は読めないのに、マスクをしている日向や浦が楽しそうに見ているのは分かった。




「みんなに提案したいんだけど、今回はゲームに関する疑問をちゃんと1つ1つ、紐解きたいんだけど付き合ってもらえないかな。

……ちゃんと、全員が納得して、ゲームマスターに話を聞いて、その上で、モニターの先の人間と戦いたいから。」




全員が押し黙るが、隣の青島が微笑みながら頷いた。




「当たり前だろ。仁奈も、尚寛も、航一も、吹雪も。文句ないだろ?」


「……そうだね。」




梶山が頷く。




「……なら進行役を決めよう。岸が1番相応しいと思うがとりあえずゲームマスターの可能性が低いってことを証明しとくか?」



「そうだね。まずキーになるのは、相原誘拐事件と隠し通路の話かな。

相原の誘拐が起きた時、あの時私は食堂にいた。それより前には青島、野呂、永瀬、細野がいた。ちなみに永瀬は日向が出入り口から外に出てないことを確認してる。

そして、相原の誘拐に使われたと思われる通路。アレは結局地下室側以外出入口は見つかってない。

これは日向が重々調べてくれたらしいから、ほぼ確実だとは思うけど、出入口はおそらく誰かの個室に繋がっていると思われる。地下室から続く通路だから…1階の部屋の誰か。1階のメンバーは…。」



「私、一ノ瀬、梶山、浦、新倉、加瀬、細野、永瀬だな。」




神崎の言葉に頷く。

横目で日向を見ると、日向も必死に頷いているあたり、確実だろう。加えて辻村と鬼頭がアピールしているあたり、あの2人もさらに調べてくれたのだろう。私が頷くと、目元が和らぐ。




「日向が、試練終わった直後、細野に協力してもらって確認したらしいんだけど、1階のメンバーの部屋のベッドは地下室にある動く方のベッドと同じ造りらしい。」


「つまり、1階の部屋のどこかに繋がってるわけだな。…正しく言うとチャレンジ権のあるメンバーだから仁奈、航一、吹雪、尚寛だな。

でも、現状、アリバイの件があるから尚寛は限りなくシロに近いってわけだな。」


「そうだね、青島の言う通り。」


「加えて、岸はかなりペアになるチャンスはあったはずだよな? 新倉と加瀬が揉めた時に、細野は岸に助けを求めたし、一ノ瀬や青島もかなり岸とペアになりたがってたもんな。」



「「………。」」




なぜか2人は押し黙る。

逆に悲しくなるが、そこはスルーでいいだろう。




「状況証拠ではあるが、岸はほぼゲームマスターはあり得ないと思っていいだろうな。次いで、青島、永瀬か。」


「じゃあ次どうする?怪しいところ指摘していく?」


「いや、待って梶山。それなら、怪しくない人物をどんどん削っていった方がいいと思う。」


「そっか、そうかもね。今の状態で言い争っても解決できないもんね。僕は、青島くんと尚寛くんからでいいと思うけど、どうかな?」


「青島はいいが、永瀬は却下だ。

コイツはおそらく私の部屋から特典を盗んだ。限りなくゲームマスターに近い人間だ。」


「おかしいでしょ!だってさっき、尚寛くんはアリバイがあるって…。」



「ストーップ!」




神崎と梶山がヒートアップしかけると、一ノ瀬が待ったをかけた。




「さっき、進行役刹那ちゃんに任せるって言ったばかりじゃん! もし刹那ちゃんが満足いかないなら日向くんとか浦くんのマスク外すよ! それが嫌なら黙る!」



「「………。」」



「黙るのか…。」




永瀬が呆れたように呟く。

横目で2人を見るとどことなく不服そうだった。




「青島も、状況証拠になっちゃうんだけど、安城さんが言ってた配電盤、アレの場所を示すメモを青島と調べてたけど、全部私に渡してくれた。じゃダメかな?」


「いいよ!」

「何で一ノ瀬さんが言うの……でも、奪うなら奪えるよね?」

「まぁ、信頼していいんじゃねーか?」


「……そうだな。青島がゲームマスターの場合、5つ目の試練で相原とペアを組むチャンスがあった訳だからな。」




とりあえず4人の納得をもらえた青島は少々ホッとした様子を見せた。



これで残り4人。




「で、次は尚寛くん?」


「……梶山には悪いけど、あ、違う。永瀬には悪いけど。次に証明するのは神崎だよ。

それから、永瀬がやったこと、一ノ瀬がついた嘘、梶山にある疑問点を列挙していく。…いいね?」


「えっ、私嘘ついてないよ!」

「僕にある疑問点…?」

「………。」




永瀬は明らかに心当たりのあるような顔をしている。




「で、少し話が脱線するけど、今回の謎の根幹にあるキーワードは『14回目のゲーム』。

だからまずはその大まかな流れを説明させてもらう。

私は調査の中で、3つ目の試練の特典、あの時の安城さんの言葉、DVDの内容、加えてこれ。安城さんの日記があった。ほら、神崎約束通り。」


「おう。」




神崎は議論を無視して、読み込み始めてしまう。

私は構わず続ける。




「神崎はたぶん、私よりよく読み込んでるから気づいてたんだと思うんだけど。14回目と今回、共通点が多々ある。」


「前半3つの試練が似てるってことだよね? それは薄々感じてたけど…まるで別物だよ?」

「別物?」




私が尋ねると、梶山が頷く。




「そう、試練の大雑把な内容は似てるけど得点配分とか、残忍性が違う。彼らの時はポイントの変化はそんなになかったし、みんなで話し合えるような空間が作られていた。」


「そうだね…でも、そんな雰囲気になった理由って何だったかな。」

「……理由?」




すると反対側から手を叩く音がした。




「閉鎖空間と監視、だね?」


「そ。早期からの脱出できない恐怖、監視によるストレス空間、過度の得点配分。

加えてあの頃は日向とか浦が悪い意味で暴れてたしね。そのせいなんじゃないかなぁって私は思う。

ただ、そこを差し引くと案外共通点が多いんだよ。」





梶山が黙ったのをいいことに私は続ける。





「まず、各登場人物、それぞれ共通点のあるキャラクターが多い。例えば、私と安城さん。例えば試練3つ目で脱落した2人と橘と野呂。そこはどっちも双子だったね。

……神崎は特典の情報とDVDの情報からそれを推測していた。そうだったよね?」


「ああ。そうだな。」




神崎は頷く。




「……永瀬には前に話したが、私は今回の試練、兄貴の復讐のために参加した。

参加者の名前は…大崎。


14回目の参加者であり、ゲームマスターだ。」




「「「「!!!」」」」




私を除いた4人が目を見開く。

もちろん、チャレンジ権がないメンバーも驚いている。相変わらずの2人は納得するようなリアクションであったが。




「……登場人物を、それぞれに当てはめていった結果、兄貴のポジションに収まるのは、日向か青島だった。

だがもう1人の余り、美山がどちらかといえば青島に似ていたから日向とした。

だから、私はずっと日向をモニター側の人間だと思っていたんだ。」


「だから、あんなに日向くんを疑ってかかってたんだ…。」




一ノ瀬が軽く首をかしげるような仕草をしながら考えるような様子を見せる。




「つーか、14回目のゲームの参加者が今回のメンバーに似てるっていうことは何を意味するんだよ?

そんなの話し合って意味あんのか?」




「ゲームマスター自体には関係ないかもね。

でも、ここから考えられるのは、『今回のゲームはモニター側の人間にとって、14回目の再現だったんじゃないか』ということ。」


「…なんで14回目のゲームだったんだろう。」




梶山が不安そうに言う。





「……それは確信ではない、だから1回神崎の話に戻すよ。」




神崎をはじめとした他のメンバーは一様に頷いた。





「屋上の血…あれを見ただろう?

アレは兄貴の血だ。放送を見たことがある奴は分かってると思うが、兄貴は頭が良くて、…日向は外面だけだが、兄貴は根っから人のいい奴で、真面目なくせにちょこちょこイタズラ好きなところもあった。

だが、ゲームが終わってからは一変して、部屋に引きこもって学校もロクに行かなくなった。そんな兄貴の様子を見て、私は復讐のためにこのゲームに参加した。


……兄貴が暴力を受けたのは屋上だと、岸が屋上の話をした時、思った。それを残しつつ隠すっていうことは、モニターの先の人間が、14回目のゲームの関係者だってことはすぐに分かった。そして、かなりの捻くれ者ってこともな。だから、屋上に情報があるんじゃないかと思って見にいったわけだ。」



「そして、20日目の朝、私はそれを目撃した。

髪を下ろしてたのは?」

「加瀬と見間違えてもらうためだ。」




マスクの加瀬が目を見開く。

気づかぬうちに、なすりつけられていたのだから当たり前だろう。




「…私が手に入れたことは、ゲームマスターやモニター側の人間は知っていたはずだ。しかも、私がアイツの妹で、モニター側の人間の状態に近いということも。

だから、奪いに来るだろうと思って見張りをしていたんだが…。」


「そこで来たのは日向だったわけだね。」




頷く。




「これは瑞樹に話してもらった方がいいんじゃねーか?」




そう言うと日向がこちらに駆け寄って来た。私と青島と一ノ瀬で彼のマスクを外す。




「そうだね。45日目の外出禁止時間、オレはミニゲームでポイントを稼いだことをいいことに堂々と外出したよ。

隠す必要はないけど、配電盤を探すためかな。監視のついてる青島クンと岸サンの代わりにね。

その途中、音楽室で彼女と会ったよ。…ついでにバット一振り浴びたけど、鈍臭い攻撃なんて余裕で避けられたけどね。」




神崎は日向の明らかな嫌味に対して、顔を顰める。しかし、僅かながらも罪悪感はあったのかそれ以上何か言うことはなかった。

一方で、日向はリアクションがないことに不満そうな表情は見せるものの、これでいいかと問うように私たちを見てきた。




「ありがとな、瑞樹。

つまりは、ゲームマスターを捕まえようとして、あえて特典をそんな風に利用したってことだよな?…これ踏まえると、神崎はゲームマスターにしては迂闊な行動が多いような気がするけど、どうだ?」


「確証はないけど…ゲームマスターにしては非効率かもね。ヒントになる特典なんて処理しちゃった方がいいだろうし。日向くんにロックを掛けてたのは傍目から見て明らかだったしね。」


「……殴りかかったのは悪かったよ。」




日向は気にしてないよと言わんばかりに笑顔で手をひらひらと振る。





「じゃあ、深夜DVDを壊したのは、神崎さんの自作自演?」

「私じゃないぞ。」

「今の流れでは信じ難いけど…。」

「それなら、良く得点変動について詳しい奴らに聞いてみればいいじゃない。」




青島が察したのか、浦を引きずってきた。




「神崎は深夜に戻ってくることはなかった。基本的に早朝か、外出禁止時間前には戻ってきた。」




だから、朝型あんなに眠そうだったのか。




「オレもちょこちょこ外出禁止時間に神崎サンを校舎の方で見たことあったけど、外に出ることはそうなかったよ。」




得点をマークしていた男、外出禁止時間を破る常習犯が言うのだから概ね合っているだろう。

それに、わざわざ外を歩いているあたり、地下通路を使う力が神崎には無かったことが窺えた。

それは一ノ瀬や青島、永瀬も察し始めているようだ。

梶山はどうも神崎を疑っているようだが。





「せっかくだし、このまま永瀬を問い詰めようか。」


「………オレは相原が拐われた時、食堂にいただろ。ゲームマスターの可能性はない。それに、例え共犯者がいたとしてもあの時、食堂にいなかった人間は全員自室から出てきたはずだ。」




永瀬が細野や野呂の方を見る。

すると野呂が永瀬から視線を外しつつ私のそばに来て、裾を引っ張る。

私と青島と一ノ瀬で再び彼女のマスクを外す。




「確かに私も見てたよ。私が食堂に行った時、細野くんと青島くんだけだったけどすぐあとに永瀬くんが来て、青島くんに引き止められて、それで刹那ちゃんが来た。

それから席を外したのは細野くんがトイレで1回だけ…だよね?」




細野が頷く。





「別に永瀬がゲームマスターって言ってるわけじゃないよ。言う通り、ゲームマスターはあり得ない。」


「……じゃあ何で永瀬のこと取り立てた?

永瀬は確かに私の部屋に侵入して特典を盗んだ。それはコイツがゲームマスターだったからじゃねーのか?」




神崎はだいぶ混乱しているらしい。

日向を疑う理由の1つとして自分で挙げていたのに。





「……全ては日向の協力があったから、の一言で済む話なんだよ。」


「は?!お前、何も言ってなかったろ!」

「……ッ何で!」




神崎が驚愕の声をあげる一方で永瀬は、つい漏れてしまったような声で日向を責める言葉を呟く。

何とか抑えたらしいが、私は聞き逃さない。




「瑞樹、お前…何で言わねーんだ。」




日向のマスクを外すと彼は饒舌に話し出す。




「まずは永瀬クンの質問に答えようかな。完璧とまではいかないけど、岸サンが証拠を持って来て言い淀むオレを責め立てたんだ! いたっ!」




鬼頭のチョップが入り、日向はごめんごめんと笑いながら謝る。




「……永瀬クンとは、他の人に言いふらさないでって約束したよ。証拠を積み立てられたらどうしろとまでは約束した覚えはないなぁ。」


「テメェ……。」




永瀬が憎々しげに日向を睨みつけるが、彼はどこ吹かぬ風だ。そして、永瀬のことは無視して話を続ける。




「オレは神崎サンから逃げたあと、旧校舎から見える人影が見えて、視聴覚室に向かった。まぁ鍵がかかってたけど、オレからしたら意味ないよね。開けたら何と永瀬クンがDVDを壊してた。止めようとしたし、理由も聞いたよ。

でも、決死の顔で大切なものを守るためなんて言われたら…さすがに同情しちゃったんだよね。


そのまま彼は続けたわけ。神崎サンの部屋にゲームを終わらせるヒントがあるかもしれない、協力してくれって。」



「それで日向くんは吹雪ちゃんの部屋を開けて永瀬くんと中を調べたんだ?」

「いや、オレは入ってないよ。オレ今まで無断で女の子の部屋には入ってないから。あ、相原サン以外ね。」


「オレの部屋には普通に入って来るくせに…。」




青島がジト目で見てくる。




「だって親友だから許してくれるかなって!」

「……親友かよ。ま、お前がそう思ってるなら仕方ねーな!」




青島が少し照れたようなリアクションをする。

明らかに誤魔化すために適当に言ったことのように思えるが。ほとんどの者がそれを察していた。

日向は虚をつかれたように固まっていたがハッとして話を続けた。


ポツリとバカすぎと呟くのが聞こえたが、私は聞かなかったことにした。





「話を戻すよ!

それで永瀬クンが手ぶらで出てきたんだけど怪しいと思って問い詰めたんだ。それで、この14回目の写真をもらった。参加者全員の静止画で、よーく顔が確認できるね。」




日向は私に写真を渡した。それを神崎が覗き込む。




「本当は特典を盗んで、それを部屋に隠してた。結局同室に泊まってた辻村くんに見つけられちゃったんだけど。」


「やたら、落ち着きがねーと思ったらそういうことか…。」




辻村は慌てて手を顔の前に出して合わせる。

しかし、意外なことに、鬼頭がそれを下ろさせる。辻村はよく分からないという顔をしていたが、何となく鬼頭の気持ちが分かった。


日向はそれ以上の話がないらしく、自らマスクを閉じ、後方へ下がってしまった。




「何でそんなことしたの…?」




梶山が信じられないものを見るような目をする。

永瀬は下を俯いたまま、言葉を出さない。

思考しているのか、はたまた、思考停止しているのか。

そして、彼は信じられない言葉を発するのだ。





「庇うためだ。」




「……何を?」




「…………一ノ瀬を。」




予想しなかった言葉に私達は言葉を失う。

なぜなら、私は、永瀬が梶山を庇っていると思い込んでいたからだ。


当の本人である一ノ瀬を除いて、誰もが驚く。

親友の、梶山も。




「何で……?」

「何で、ゲームマスターを庇うんだ!」




神崎が激昂し、永瀬の胸ぐらを掴んだ。苦しそうに顔を歪めたが、力任せに対応することはなかった。




「………。好きだったんだよ。」


「は、そんな理由で…?」

「金は欲しかった…でも、どうしようもなかった。愛と青春なんて、嘘だったんだよ!」




そこで、永瀬はやっと神崎を振りほどく。

そして、永瀬は苦しむように、絞り出すように話し出した。




「野呂はさっき、細野がトイレで1回だけ席を外した、って言ったな。正しく言うと、オレは一度テラスに出たんだ。そこで、旧校舎にいた人影を見た。」

「何でそんな大事なこと言わなかったの?」

「その時は確信が持てなくて…背丈的に日向だと思ってたんだよ。」




私が問い詰めるとそう言った。おそらく、試練の時は完全に日向に嫌疑が向かっていたからそうしようと判断したのだろう。




「だけど、生活していくうちに、その姿が一ノ瀬だったんじゃないかって思えてきたんだ。」

「……理由を聞いてもいいか?」




青島が尋ねると永瀬が頷く。





「……日向が前に、何で相原を狙ったのかって話したよな? その時に、相原が弱いからって言った。一ノ瀬が攫ったり運んだりできるのは相原くらいだ。

もう1つ一ノ瀬は前にロボットの話をした時、何でか走行路のことを知ってた。だから、ゲームマスターなんじゃねーかと思ったんだ。


それに、さっき岸が言っただろ。今回のゲームは14回目のゲームを模倣したものだって。登場人物もだけど何より試練自体が似てた。

1つ目は校舎の探索、2つ目は仲間外れ、3つ目はみんなにお願いをする、4つ目は得点板を削る…スポーツ系のイベントだ。だが、問題は5つ目。14回目では恋人になる、だったか。でも今回はゲームをクリアする、全然違うものだったな。」


「そうだね。」




私が頷くと永瀬は緊張した面持ちで周囲を見渡す。




「オレは、一ノ瀬を見てたからわかる。一ノ瀬は、岸が好きで、岸とペアになりたかったんだろ?

だから、試練を変えざるを得なかった。」




どういうことだ?

私は分からず目を白黒させていたが、梶山が意を決したように話し始めた。




「……本来は、5つ目の試練で恋人になるをやる予定だったけど、岸さんが全くゲームから降りる気もなかったし、日向くんと相原さんのゴタゴタでそれどころじゃなかったから、やめたってこと?」


「だって、そこで恋人になるなんて試練出したら、日向と相原が本当にしろ偽装にしろなってクリアした可能性だってあっただろ?その時の2人は…正直気が狂ってんじゃねーかと思うくらい鬼気迫るものがあったしな…。」




相原も、日向もリアクションはない。

それはある種の肯定だった。




「……これは特典を盗んだのと、DVD壊したのに関係するんだが、一ノ瀬に似た人物…小野さん? は4つ目の試練で脱落する予定だった。だが、それは一ノ瀬的には困ることだろ? 岸じゃない誰かとゲームから降りることになるんだから。

それで替え玉として、新倉または加瀬と細野が降りることを願った。だろ?」




一ノ瀬は目を丸くしたまま一言も発さない。




「……何とか言ってよ、一ノ瀬。」





私は半分祈るような思いで言う。

しかし、彼女の口から出た言葉は、軽くて、だが、私の心を抉るには十分に鋭利で。

口角の上がった彼女の口から出た言葉に耳を疑うしかない。





「庇ってくれてありがとぉ。正解だよ、永瀬くん。」





隣で妖艶に微笑む彼女は、私の知っている彼女じゃなくて。

私はつい、後ずさり、一ノ瀬から距離を取ってしまう。

その行動は青島にぶつかるまで、取っていることに気づけなかった。




「………刹那ちゃん。そんな怯えないでよ。ついでに、私がついてた嘘について、教えて?」


「………相原が。」




私が言葉を続けようとすると相原が私の手を掴み、制する。それを一ノ瀬は不快そうに見つめた。私と、青島、神崎で相原のマスクを外す。




「……私たちが纏めた試練の内容、何が不都合だったかはわからないけど、あれを処理したのは仁奈だよね? 朝、1人で出ていくの、見たから。

あとベッドを移動した時に動くであろう場所、そこに値する絨毯に跡が残ってた。」




そして、入れ違いに新倉が出てきた。同様のメンバーで彼女のマスクを外す。




「それに、このメモ。無くなったファイルのあとにあったものです。これを見て刹那ちゃんはあなたの字だと言った。さらに、私たちに教えてくれたロボットの走行路。……言い逃れはできませんよ?」




自分の喉が鳴ったのが分かる。一ノ瀬がにやりと笑う。




「…そ、みんなを苦しめてたゲームマスターの正体は私こと、一ノ瀬仁奈! 正解だよ、おめでと!」




明るい口調で話し始める。青島が、私に言った意味が分かった気がした。





「……でもねぇ、試練クリアをする前に1つだけお願いしたいことがあるんだよねぇ。」


「図々しい!モニターの先の奴について吐け!今すぐにだ!」




一ノ瀬に、神崎が飛びかかる。

それを永瀬と梶山が力ずくで剥がそうとするが、神崎は自我を失っているらしく、梶山に至っては押し負けていた。

永瀬に引き剥がされそうになった時、神崎が叫んだ。





「触んな色ボケ野郎! こっちが、兄貴のこと必死に調べてる時に、お前らは青春だ恋だと呑気に騒ぎやがって!

人が苦しむのを楽しんで見てる奴に恋したバカも、クソみたいなゲームマスターも、みんなみんな…!」




神崎も限界だったのか、一ノ瀬に馬乗りになった状態でポロポロと流涙する。

誰も言葉を発せない、そんな状況下で一ノ瀬は鼻で笑ってみせた。





「何アナタだけ苦しんでるみたいな顔をしているの?」





どいてよ、と酷く冷たい声で言い放ち、彼女は神崎の下から抜け出した。

そして、ちょっと転んだかのように何食わぬ様子で、埃を払うと笑って話し始めた。





「私の話、続けるよ。

もし、この条件を飲んでくれたら、私はモニターの先の人についても、ゲームに関することでも全て話す。」


「………!」

「そんなことして意味あるのかよ。」




神崎が目を見開く。永瀬は憎々しげに一ノ瀬を睨みつけた。私は、呆然とするのみだ。

一方で青島は何も言葉を発さない。

チャレンジ権のないメンバーも互いに顔を見合わせたり、こちらを静観するのみだ。





「うるさいな。永瀬くんは黙ってて。

だって、私の願いは、刹那ちゃんとペアになること、ただそれ1つだから。」





私と、ペアに?





『ねぇ、刹那ちゃん。好きだよ。』





あの時の、優しい一ノ瀬の声が、頭の中で何度も再生された。





「ねぇ、みんなは予想してた?ゲームマスターに課せられたことについて。」

「そういえばモニターの奴が言ってたな。5つ目の試練の後か?」

「そう、青島くんはよく覚えててくれるね?」




最も冷静さを保っている青島が尋ねる。一ノ瀬はやれやれと言ったようにため息をついた。




「教えてあげるよ。アレね、私の個人情報がぜーんぶ視聴者の皆さんに漏らされちゃうんだよね。」

「……つまり、仁奈がペアにならないままゲームが終わった場合、個人情報が晒されるってことか?」


「そ。正しく言うとゲームクリアした場合だけど…。私の本名だけじゃなく、学校名も、過去も、全部、ぜーんぶね。そんなのたまったもんじゃないよね?

だから、焦った私は、ロック番号を知ってて、なおかつ攫うことが容易な美沙子ちゃんを連れ出して無理やりペアになろうとしたってことなの。ま、余裕なくてスマホ落とすし、日向くんに回収されちゃうしで、最悪だったけど。

それから冷静になって、現状を作ることにしたんだよね。永瀬くんを利用して、ね。」




あえて、自分の正体がバレてしまう状況を作ったというのか。

青島のみがなるほど、なんて呟いている。そして、一ノ瀬は私に視線を向け、にっこりと、穏やかに微笑んだ。





「ねぇ、刹那ちゃん。

刹那ちゃんなら、私とペアになって、私を助けてくれるよね?だって、私が大好きな刹那ちゃんは、優しくて、お人好しで、綺麗で、私だけのものだもんね?」


「狂ってる……。」




永瀬の声だろうか。

好きな者がこんな様子だったからであろうか。

神崎も、梶山も怯えた様子で彼女の様子を伺う。

私が答えずにいると、一ノ瀬は僅かに表情を歪め、息をする。




「狂ってる?そう言った?

でもね、恋する人なんてみんな狂ってるんだよ。恭子ちゃんと優月ちゃんのこともあったでしょ?それに、美沙子ちゃんだって、信頼する日向くんとだからあんな無茶ができた。好きな人が助けてくれるって信じてたから。」





相原が慌てて一ノ瀬に掴みかかろうとするが、一ノ瀬のポケットから出てきたのはカッター。

一気に緊張感が別の種類のものになった。





「私だって、刹那ちゃんが私を助けてくれるって信じてるんだよ?

私は刹那ちゃんを愛してる、それの何が悪いの?なんで恋しちゃいけないの?!」





般若のような顔をし、怒鳴りつける彼女に誰もが動かなくなった。





「私は………。」





頭がごちゃごちゃになりながらも、言葉を絞り出す。ペアになろう、その一言を。

一ノ瀬はほっと安心したようにカッターを下ろす。


次の瞬間だった。





「今まで話したことが真実ならな。」





一ノ瀬を羽交い締めにし、カッターを奪ったのは青島。一瞬の出来事で誰も反応ができなかった。


そうだ、本当に一ノ瀬がゲームマスターなのか?

それにしてはまだ謎が残っているはずだ。




「尚寛、お前が本当に守りたかったのは一ノ瀬なのか?」

「なっ…どういう…。」




そして次に見たのは、いや見下ろしたのは一ノ瀬だ。




「確かに、お前は刹那が好きだったろうな。でも、本当にゲームマスターなのか?」


「言ったでしょ! 私がゲームマスター! 私がモニターの奴に脅されてるの! どきなさいよ!」


「どかねぇよ!お前が怪我したら、みんなが悲しむのが分かんねーのか!」




一ノ瀬はピクリと肩を震わせると、おとなしくなった。その様子に皆が僅かに安心した。




「………仁奈、答えてみろ。旧校舎の屋上はどんな鍵だった?」


「錆びついた南京錠と、ドアノブについた、シリンダー錠でしょ。」




横から橘が駆け寄ってきて、私と神崎、永瀬にスマホをかざす様にかけてくる。

しかし、永瀬は応じない。梶山も動いてくれないため、青島は空いた手で相原を呼び、自身のスマホを渡した。

そしてマスクを外した橘は答えを発した。




「シリンダー錠じゃないよ。」


「!」

「確かにバカにはなってたけど…ボタンを押して閉めることで、鍵がかかるタイプの。なんで、知らないの?」

「そ、それは……。」




明らかに一ノ瀬に動揺の色が浮かぶ。

そんなやりとりを聞き、僅かに冷静さを取り戻した私の頭の中に、1つだけ疑問が走る。




「一ノ瀬…ロボットの走行路、教えてよ。16日目の走行路について。たぶん、変更した直後なんだから、覚えてるよね?」




「………覚えてるよ。食堂から旧校舎、中庭を通って新校舎、体育館、テニスコート。これを二巡して、食堂に戻る。」

「教室の中を確認してなかったっけ?」

「……してるよ。教室の外から覗く様な形でね。」




日向と視線がかち合う。

それと同時に安心した様な、不安が増した様な不思議な居心地を味わう。

これ以上の真実に踏み込んでいいのか、恐怖だろうか。私は必死に震える手を抑え込み、一ノ瀬を瞳に映して真実を告げる。




「ロボットは、部屋の中まで入ってくるよ。

私は、その深夜、女子トイレの個室でロボットをやり過ごしたけど、ロボットは、中まで入ってきた。」


「え…なんで…?」


「一ノ瀬が知ってた走行路、それは…私が相原から聞いた、日向の部屋にあったロボットの走行路でしょ?……旧バージョンの。」


「………。」




その沈黙は肯定だった。

つまり、一ノ瀬はゲームマスターではない。

それならば、消去法になってしまうが、ゲームマスターは。





「ゲームマスターは、航一だよな?」





そう告げたのは青島だった。

一ノ瀬から取り上げたカッターを奪い取り、雑にポケット等を叩くと、危険はないとくくったのか、彼女の身体を放した。

一ノ瀬は起き上がるも、うな垂れたままだ。




「……青島くん、何言っ…。」




「証拠がねーのに、それは雑なんじゃねーのか?! 航一は現に疑われることなんてねーだろ!」

「ある。」




青島はそう言ってのけた。




「刹那、吹雪、あと…光。オレのスマホを使って美沙子のマスク外してくれ。できれば真後ろには立たないでくれ。」




私たちは言われた通りの状態で相原のマスクを開放する。相原も何をされるか予想ができず、不安そうに立っていた。


そして、青島がとった行動は見たことのある行動。相原の口を後方から押さえつける様な動きだった。


すぐに相原は抵抗し、青い顔のまま離れた。

そのためマスクが一度閉じてしまったが、再度私たちは開いてやった。

すると、彼女は驚くべきことを言ったのだ。




「……なんで?」




なんで、とはどういうことか。

青島はため息をつき、やっぱりな、と言い放った。




「……亮輔や鬼頭、刹那は知ってると思うが、オレは元々左利きだ。」


「……ぁ。」




相原が声を漏らす。違和感に気づいた様だ。




「確かに右に矯正したから、ものを書いたり箸使うときなんかは右手を使うんだが、やり慣れないことをするときとか、焦ってるときとか、咄嗟に左手が出ることがあるんだ。

……食堂で美沙子に口を抑えてくれって言われたとき、オレは咄嗟に左手を使った。でも次は、右手を使った。他の奴が再現しても違和感が拭えなかったのはそのせいだ。


つまり。」



「ゲームマスターは、左利き。」



「他に左利きって…梶山…。」




神崎が述べた真実に、私は食堂でのやり取りを思い出し呟く。彼は、自分と青島の前で左利きであることを明かしていた。




「そんな…相原さんの記憶が混在してた可能性だって…!」


「そもそもが、おかしいんだよ! だって尚寛が、賞金のことを放って庇う奴なんて航一しかいない! 何があったかは分からねーが航一を庇うって考えたらしっくりくるんだ!

それに光が言ってたよな?お前の部屋の絨毯が変えられてたって。それって、ベッドを動かした痕跡を消すためじゃないか?」




ピクリと梶山の眉が動く。

もしや正解だったのだろうか。




「……永瀬が変な行動し始めたのは、45日目の夜から。確かその前日、梶山が永瀬の部屋に泊まったよね?」

「そ、それとこれは関係ねーだろ!」




やっと永瀬がリアクションをしてきた。必死に平静を装っているが、汗をかいている上、声が上ずる。なんともわかりやすい奴だ。




「そこで、永瀬は何かを見たんじゃないの?梶山がゲームマスターたる証拠を。

それに、梶山ってみんなの前であまりスマホをいじってるイメージないけど、前に図書館で会った時は本なんかそっちのけでスマホをいじってた。」


「別に、暇だっただけだよ。」




もう一押し、これは認めてくれるか怪しいが。




「2つ目の試練の時、私を助けてくれたよね?チェーンの鍵を持って。その鍵ってどこから持ってきたの?」


「………ッ。」




梶山の顔色が変わる。もし、鎖のことを知らないなら、知ってたとしても、倉庫じゃなくて、体育館に行くのが自然だろう?




「日向の証言から、はじめにあった倉庫の鎖は2本、それぞれ2本ずつ鍵があった。最初の試練の時、日向は2本とも鎖を地下室に持ってきた。

私たちは鎖をそのままにして、戻ってきた。鍵は日向がそれぞれ1本ずつ持ってて、予備は倉庫に置きっぱなしにしたんだよね?

そして、16日目地下室を見た時は確かに、鎖は1本しか地下室になかった。」




日向がこっくりと頷く。




「それに何の関係が。」

「黙って聞いとけ。」




青島に制され、永瀬が憎々しげに睨みつける。

梶山の表情からは困惑が窺える。




「時系列にまとめるよ。

2日目、日向が鎖2本、それぞれの鍵1本ずつ持ち出して、鍵は持ち帰った。その時点で鎖は地下室、鍵は日向の手、倉庫にあった。

3日目ハンモック作成の時、日向が倉庫で見た時はまだ予備の鍵があったって。日向と倉庫で会ったのは、ハンモックを作り出す少し前。で、作製に携わった、橘、細野、梶山が倉庫に行ったって言ってる。で、おそらくその後、神崎が物品を見にきた。その時のチェック表には、予備の鍵がすでに無くなっていることが書かれている。」


「そうだな…確かに、その日は夜に行ったからハンモック作り終えたすぐ後だと思う。」




神崎がリストを見つめ、頷く。




「ハンモックを作ってる時、私は一ノ瀬といた。だから、一ノ瀬に鍵を取りに行くのは不可能。

それに、中庭から倉庫の出入り口は丸見え、見られないで取りに行くのは難しい。日向…橘や細野は他に見た?」


「いや、オレは見てないし、鍵のことも知らない。

ちなみに、倉庫に行ったのは日向がブランコを作るための工具と材料を、橘がハンモックのための材料を、日向が足りない工具を、梶山が後から来て自分が使う分の工具を、最後にオレと梶山が工具を片付けに何往復か、だったな。」


「オレは途中からハンモックで横になってて、ぼんやり倉庫の方見てたけど、人はいなかったよ?

ちなみにオレは、何の鍵だろうと思ったから、2つ下がってたの、見たよ。」




順にマスクを外させると、細野と橘が順に証言した。橘が最後に鍵を見て、細野は曖昧だが神崎は見ていない。

もちろんこの2人は鍵を持ち出していないだろう。

一応尋ねると2人は肯定した。




「そして、5日目には何も無し、7日目には鎖と鍵が戻ってきている。10日目または11日目に加瀬が鎖を持ち出して私の部屋を閉じた。加瀬、その時鍵は持ち出したの?」


「持ち出してないしぃ…」




加瀬がそういう。




「つまり、一連の流れの中で、鎖の持ち出しができるのは、ゲームマスターで地下室のことを知ってて、尚且つ、3日目に鍵を持ち出せる梶山だけだよね?」


「そんな…橘くんとか、細野くんとか…日向くん…神崎さんが嘘をついている可能性だって。」




すると後ろから日向がペシペシと私を叩いてくる。手元を見ると、見覚えのある鍵が2本。

あの日から、日向はずっと持っていたということ。

神崎がそれを見て頷く。




「仮に日向が嘘をついていたとしたら、橘の証言に矛盾が出るし、わざわざ鍵の予備を持って行くのも疑問点が残る。橘と細野に関しては地下室の存在について知らない。そもそも2人はゲームマスターじゃないし、試練で被害を受けているから協力とも考えにくい。」


「これは、亮輔から聞いたんだがな、倉庫側のメンバーの方に昼飯持ってくって言ったのは航一からだったらしいぜ。」






つまりーーーーー。






「ゲームマスターは、梶山。」



「違う…。」





一ノ瀬は首を横に振る。





「違う違う違う違う! 私がゲームマスターなの!私が、刹那ちゃんとペアになるの!」


「…………。」




永瀬は押し黙ったままだ。




「あーぁ。哀れだったね、一ノ瀬さん。

作戦失敗しちゃった上に、汚い所だけ露呈しちゃってね。」




梶山がため息をつく。





「そう、僕がゲームマスター。みんなが苦しんでるのを見てた。ただ、それだけ。」




冷たく言ってのけた。

先ほどまで見えた動揺も、激情もすべてどこかに置いてきたようだ。





「……正直ね、僕も焦ってたんだよ。賞金も欲しかったし、個人情報漏れるのも避けたかったし。だから、仲の良かった相原さんを協力者に選んだんだ。永瀬くんは賞金ばっかりでペアになってくれなさそうだったから。

泣き落としするか、無理矢理するかは悩んだけど…。でも、どじっちゃうし、日向くんに肝心のスマホも、相原さんも持ってかれちゃうし。挙げ句の果てに一ノ瀬さんにバレちゃうし。」


「何でバレたの…?」



「梶山が、相原を好きだったから。だろ?」




青島が確信めいたように言う。

誰もが意味がわからないという顔をする。




「たぶん、5つ目の試練までは、確かに梶山は相原のこと好きだったんだと思う。でも試練が終わってから、その気持ちは冷めた。それに一ノ瀬は気づいたんだよな?」


「……そんなバカな。」




神崎が信じられないものを見るように言う。

確かに、梶山は5つ目の試練までは相原と過ごすことは多かったと思う。しかし終わってから、相原は日向や鬼頭と過ごすことが多かったかもしれない。




「そ。そーんな非科学的なことを振りかざしながら一ノ瀬さんが得意げに脅してくるんだ。『ゲームマスターであることをバラされたくなければ自分にゲームマスターを押し付けろ』ってね。

だから、脅されるふりをして、僕はそのままゲームオーバーを狙ったってわけ。かわいそうにね。」


「私を利用したの…?」


「でも、安心してよ。今ここで僕の正体が分かっても問題ないから。『私とペアにならない限り、梶山くんに投票しない』って脅せばいいわけだからさ。」


「………!」




一ノ瀬は目を見開き、硬直した。




「で、そんな一ノ瀬さんだけじゃ心配だから尚寛くんも利用しようと思って。

尚寛くんの部屋に泊まって、風呂を借りてる時、スマホを放置して、モニター側の人間から連絡が来る画面を見せたんだよ?

何も問い詰めてこないから失敗したと思ってたんだけど…ちゃんと見ててくれたんだね?」


「……ああ。」




永瀬が頷いた。こうなることを予想していたのか、苦しそうな顔をした。




「で、君たちは僕を指定する。さぁて、できるのかな?」


「何だと?」




青島がイラついたような声音で返す。





「現状、永瀬くんは僕を庇いたがってる、一ノ瀬さんは岸さんがペアにならない限り、僕の味方。つまりどうしたって過半数は超えないんだ。」


「クソヤロー…!」


「何とでもいいなよ。」




悔しそうな顔をする神崎を見下すように言いのける。




どうすればいい?

梶山自身は置いておくとして、一ノ瀬か永瀬どちらかに私達側についてもらうしかない。

私が、ペアになるしかないのか。


しかし、私の心の中には目の前にある、賞金がチラつく。


家族のために、ここまで頑張ってきたのに。

ここで賞金を獲得する権利を放棄していいのかと。





「……尚寛、さ。本当は気づいてたんだろ? 航一が、早まった理由も。全部。」




青島が諭すように、永瀬に語りかける。

永瀬は怯えるような表情を見せたが、震える拳を手で抑えると頷く。梶山は意味が分からないといったような顔で永瀬を見つめた。





「……分かってたんだ。あの、航一のスマホを見て、航一がゲームマスターってわかった瞬間から。

相原を攫うような真似させちまったの、全部、オレのせいだって…。」




声が震えていた。

ずっと彼は、このことを言うか言わまいか悩んでいたのか?言葉にし始めたら、さらに震えが増したのか、腕を押さえつけるような仕草をする。




「何言って…、尚寛くんごときが、僕のことを理解したようなこと言わないで!」




梶山が声を荒げながら、永瀬に近づく。

しかし、永瀬はどこかに 嬉しそうな顔をしながら梶山に語りかけた。




「……でも、オレのこと尚寛って呼んでくれるんだな。」


「そっ…れは……クセで……。」

「クセになるくらい呼んでてくれたのか。」




そう微笑むと、永瀬の身体の震えは止まった。

そして、梶山に向かい合った。




「航一が、あんな行動に出たのは、オレがミニゲームに参加したからだよな?」




ミニゲーム?

確か5つ目の試練の前のミニゲームは、友好度を半分捨て、ポイントを獲得できる権利を取り合う腕相撲大会。





「オレが友好度を顧みず、ポイントを稼ぐのを見て、ペアになれないと思ったんだよな? だから、次に仲が良かった、ペアになりたいと思える相原を選んだんだよな? 他の、関わりのあった細野と辻村はペアになってたから。

……でも、肝心の相原も日向とのゴタゴタのせいで、自分のことを見ていなかった。それどころか、相原自身は日向とペアになると意気込んでいた。

だから、ああ出るしかなかった。そうだよな?」


「………。」




永瀬の言葉に返す言葉を探しているのか、梶山の視線が泳ぐ。しかし、否定も、肯定も出てこなかったらしい。


永瀬は梶山の肩を掴む。

それで接近されていたことに気づいたのか驚いた顔で永瀬のことを見上げた。





「……なぁ、ペアになろう? そうすれば、お前のこと、守れるよな?」





まるで、明日何する、というような、軽快で、穏やかな声音であっさりと言ってのけた。




「………は。」





梶山は信じられないという表情をみせる。そして、彼の目から涙がほろり、と一筋流れた。

無意識だったのか、梶山は口をぱくぱくとさせている。





「賞金は?」


「賞金…か。」




永瀬は僅かに心残りがあったのか、視線を下にそらす。

しかし、次の瞬間には迷いも、何もかも断ち切ったように微笑んだ。




「いらねぇよ! 航一と比べるまでもねぇ!」


「…………!ばか…なやつ…なんで…。」





梶山の瞳からは涙が決壊した。

肩を掴んでいた永瀬にすがりつくようにすると、耐えられなかったのか、嗚咽が漏れ始めた。





「うぅ……。」

「親友だろ?泣くなよ。」




私は、一ノ瀬を想って、賞金を殴り捨てて、ペアになると言い出せなかった。でも永瀬は色んなものを捨てて、梶山を救う道を選んだ。

私は言葉を失い、呆然としながら彼らを見ていた。





「……空気壊して悪いが、梶山。

特典のために、モニター側の奴らについて話してくれねーか。」




ハッとしたように梶山は顔を上げる。どうしたのだろうか。





「……それはできない。それに、尚寛くんの申し出はありがたいけど、やっぱり試練もクリアさせられない。」


「何でだよ?」




青島が怪訝な表情を見せる。

梶山は言葉を選んでいるらしい。

何か、迷っているような様子だ。


一ノ瀬は虚ろな目で、梶山を見つめるのみ。


そして、梶山は全体を見渡し、意を決したように話し始めた。





「僕だって、守りたいものがある。



ーーーーそれは、みんなの命だ。」







私たちは突然大きくなったスケールに、言葉が出ない。

その様子を見て、モニターの先の人物が笑っていることだって、私たちは知らないのだ。


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