4日目 友情思考
4日目朝。
昨日投げられた2人が顔に絆創膏を貼りながらもゲームをしている。今日は日向は真面目に勝ちにいっているようで挨拶をしてこない。
鬼頭はあれから相原にそっぽを向かれてしまい、半泣きだ。今朝もおよよおよよと私の後ろで悲しそうに泣いている。
「あの2人何があったんですか…?」
昨日の事情を知らない新倉や浦はその姿を見て目を丸くしていたが、それと一緒に鬼頭の心に傷がついていた。毎回説明する私の身にもなってほしい。
今朝は神崎も加瀬も時間ちょっとすぎに出てきていた。しかし、連日橘は出てこず。細野が事前に部屋を訪ねたらしいが筋肉痛で起き上がれないらしい。
「筋肉痛って…みんなで何かしてたの…?」
「あぁ…男子たちでハンモックとかブランコ作ってたらしいよ。」
「ふぅん…。」
野呂がコソコソと尋ねてくる。こちらに至っては全く心を開いてもらえる気がしない。
「あ、あの…美沙子さん…。」
「つーん。」
「うぅ……。」
「つれない態度だなぁ、相原サン!」
「元はと言えば日向のせいだからね!」
あちゃーと言いながらゲームを片付けに行く。今日は気分のせいもあってか日向の勝ちらしく、相原が片付けるらしい。
「そういえば岸、おめー明後日暇か?」
「暇も何も…ここにいたらみんな暇だと思うけど、何?」
「いやお前今日は暇じゃねーだろ。あそこで青島がめっちゃこっち見てくんじゃねーかよ。」
指をさした方を見ると青島が慌てて視線をそらす。何だあの白々しい態度は…私はため息をつく。
「暇だよ。」
「おっ、そうか。オメー今までこの番組見たことあるか?あるにしろないにしろちょっと語ろうぜ。」
これまた意外なところから誘いが来た。とりあえず話を聞いてみて、このゲームにおいてどんな動きをするつもりなのか判断しよう、そう結論付けた。
「いいよ。」
「オッケー、じゃあ明日の朝飯後な。」
そう言うと神崎は一ノ瀬の元へ向かった。
「今日は頼むな。」
「ん。でも、2人?アンタならもっとワイワイ人集めると思った。」
「………。」
なぜか青島がなんとも言えない顔をしていた。私は変なことを言ったのだろうか。
「今日はさ、裏庭の方回ってみねーか?」
「裏庭?」
「おう、もしかして見てねーかなって。昨日永瀬に結構クサイ場所だって教えてもらったんだよ。
あ、もちろんゲーム的にクサイってことな!」
「分かってるよ。」
何を勘違いしたのだろう。あからさまにホッとしたような表情をする。
「午後はさ、一応全員に集合かけてんだ!そろそろ一通り話しただろーし、自主的にイベントとかできたらいいなっつって!」
「イベント?」
「おう、パーティよパーティ。」
裏庭に向かいつつ、青島の意図を尋ねる。
「スマホ見てた感じ、この友好度って割とすぐMAXになるみてーじゃねーか?だからみんなMAXにしといて、賞金に興味ない奴が、スマホかざす係になれば無駄な争いとかねーかなって。」
「そうかな。」
「ちげーかな。」
確かに、私は一定の人といないため、MAXになることはないが一部の者としか仲良くしてないメンバーはもしかしたらMAXに達している者もいるのかもしれない。
「青島はもうMAXになった人いるの?」
「いや…オレとしてはあんまり友好度リセットしたくないんだよな…。」
「は?何で?」
つい冷たい声になってしまう。青島も実は賞金狙いなのか?
「いや…どうしても情報開示したい相手がいて…。」
「あっそ。まぁ頑張れば。」
「………。」
なぜか鼻をすする音がしたが気のせいだろう。青島の場合どうも疑うのが難しくなる。
裏庭はいわゆる体育館の裏。木々が生い茂り、夏のきつい日差しを遮ってくれる。
「気持ちいい場所だね。」
「おー、俺もじっとりしてると思ってたわ。」
不意に青島がしゃがみ、体育館下を覗き込む。私も一緒に覗き込む。
「どうしたの…。」
「いや、ここって入り込めねー訳じゃないからさ、何かないかなって。ま、さすがに番組1つのために隠し通路とかは作ったりしねーと思うけどな。」
はははと愉快そうに笑う。
しかし、私は視聴覚下の隠し部屋を知っている身、表情に出ていない自信はあるものの騙している気分になり、複雑な気持ちだ。
「お、どうした?」
「何でもない。」
しかしながら体育館下、何かありそうな雰囲気はある。日向なら調べていそうな気もするが、まだ分からない。
機会を見て確認してみよう。それか単独で調べてしまうか…。
悩んでいると、よっと潜り込んでしまった。
「ちょ、何してんの?」
「いや、調べられるなら信頼してる奴といる時に調べたほうがいいだろ?」
青島は、私のことを信頼しているのか。
たかが4日なのに。
少しでも疑ってしまった自分が恥ずかしい。
「うわ、でも広いなーこれ。機会見て何回かに分けて調べねーとキツイかな…。」
「青島だと見落としそうだし。」
「何だよそれひどいった!」
顔を上げようとして体育館の床面に頭をぶつける。バカか。
「ぷっ…っはははっ!」
青島が目を丸くしながら床下から這い出てくる。土汚れになりながら妖怪のように出てくる姿も相まって私はさらに笑ってしまう。
「もーなに、青島バカじゃないの。」
「笑っ…刹那って笑えるんだな…。」
ポカーンとしながら呟く。その発言にすっと笑顔を隠そうとするが、顔を見るたびに笑えてくる。
少しでも、こんな純粋な男を疑った自分が恥ずかしかった。本当に。本当に。
青島なら、信頼していいかもと思った。
もし裏切られたらその時はその時だ。
「私も探すよ。」
「え、汚れるぜ?」
「いいよ別に。あとでお風呂は入ればいいし。
ここなら節水だって気にしなくていいし。」
自分の長い黒髪を持ってきていたゴムで簡単に纏める。そしてスマホを一度起動する。
「結構体育館広いよね。」
「そうだなぁ。裏庭はあんまり人来ねーけど、オレと行動するたびに土だらけになって出てくるのもあれだよな。刹那的には。」
「そうだね。徒党組んだらように思われるのやだし。」
「……言い回しが…。」
拗ねたように呟く。
「6回に分けて探ろう。今日は出入口側、まだ裏庭に気が回ってないうちに明るい方を調べておいた方がいい気がする。」
「分かった。これで、刹那に有利なギミックが見つかるといいな!」
太陽のように微笑む彼を見て少々不安になる。
「ねぇ、アンタはどうしてそこまで親切にしてくれるの?」
「……。」
私が純粋な疑問をぶつけると、彼は黙り込んだ。その笑顔は先程までの無邪気な笑顔ではなく、男らしさを感じさせる笑顔。緊張感が私の背に走る。
「オレは本気で金とか興味ないんだ。みんなで、このゲームを最終日までやり遂げたいんだ。それだと誰かの手に賞金は渡るよな?」
「ん、まぁ…。」
2人の間に涼やかな、風が吹く。
「なら、オレはお前に持ってって欲しいと思ったんだ。」
目が醒める思いだった。
この人は、どんな人生を歩んできたんだろうか。
「何で、そんな無償で人のこと信じられるの…」
きっと平和で。
きっと幸福な。
「人ことじゃねーよ。ただ、理由話してる時の、お前の目が、本気だったから信じたくなったんだ!それだけ!
…とりあえず、早いとこ潜っちまおうぜ!
あんまり昼に食い込むと怪しまれそうだしよ!」
「そうね。」
誤魔化された気もしなくもないが、彼の言葉に嘘はない。私はそう確信しつつ、気分を切り替え意を決して潜り込む。しかしながら、暗く何も見えない。夜目はきく方なので問題ないと思うが。
気を利かせて、青島がスマホの画面をつけたままにしてくれた。これくらいなら外に光が漏れる心配はないだろう。
はて1時間、時々外に出つつ、確認したところだった。
「刹那!何か紙見つけた!」
「紙?」
「予定の区画終わったしでよーぜ!」
裏庭に出て、くすんだ色の紙を開く。
文字はほとんど化けてしまっており、全文読むのは難しそうだ。
『主催……崩……不尽…地…泊場』
私たちは顔を見合わせた。
「何だこれ?」
「さぁ…でもこんな風にメッセージがあるかも。
また潜る価値はあるね。」
「……危ないから1人でもぐんなよ?」
「アンタもね。
もう臭くて耐えられないから早く戻ろ。」
なぜか、えっあっと挙動不審な青島を置いてさっさと戻る。メモは青島が渡してくれたため、私保管になる。
帰った時にはたまたま野呂と新倉と会ったためギョッとされたが、ちょっと派手にやらかしてな!という青島のアホみたいな言い訳を信じてくれたようで深く追及はされなかった。
それよりも同情された。
とりあえず、連絡板から流れてきた集合の時間が近いため超特急で風呂に入り、食堂へと向かう。
「さて集まったな!」
昼食後、青島の声かけにより、全員が集まった。
疑いなく集まるあたり、青島の人徳を思い知らされる。もしくは無害だと舐められているか。
「今回の集合は親睦会の開催を提案したくてかけました!」
「親睦会?」
何人かの声が重なる。
「おう!賞金にしろ、普通の生活にしろ、信頼関係は必要だろ?それに試練受けるためには誰かがペアにならなきゃいけねー。てことはこうやって団体行動して、友好度上げといて、誰でもペアになれるようにしといた方がいいだろ。
交流目的の奴なら開示するチャンスがたくさんできるし、それでペアできたら賞金目的の奴も万々歳だろ?」
他の者も確かに、と納得する。
「んで開催日きめてーんだけど…。」
「明日は初めてのミニゲームあるし、どうなるか分からない…明々後日でどうかな?せっかくの親睦会なら準備日だって立てた方がいいだろうし…。」
「冬真ナイスアイデアだな!じゃあ明々後日な!」
「じゃあ、料理は女の子が、会場準備は男子担当でどうすっか?」
「えー、料理面倒臭い〜。」
加瀬や相原が異口同音に文句を言うが鬼頭や新倉にまぁまぁと宥められる。
よかった、鬼頭と相原は仲直りしたのか。
安心する私を見て、一ノ瀬が笑っているあたり、アイツがお節介を焼いたのだろう。
「どうしたのー、刹那ちゃん。」
「……別に。」
私は一ノ瀬から視線を外した。
何だか思考を手に取られているようで腹が立つからだ。
それぞれ男女に分かれてどうするああする話を始める。意外といい雰囲気でながれているようだ。
そして、明日。
いろんな意味で地獄のようなミニゲームが始まるなんて、私は想像もしていなかった。