Answer5
オレはゲームスタート早々に上手く他の人より優位に立てたと思った。
まさか、同じような思考をする人がいるとは思わなかったけどね。
だからゲーム初期から岸サンのことは一目置いてたし、ゲームにちゃんと取り組んでたから面白い人だなって思ってた。
それと同時に主催者側の人間なんじゃないかって思ってたけど、そんな考えは2つ目の試練の時点で捨てた。
この人は、滅茶苦茶不器用で、優しい子なんだと思った。
神崎サンと浦クンは頭の回転が速いし、話してて面白いと思うけど、人間らしさに欠けててつまんない。
逆に、青島くんはちょっと苦手。
感情論で、オレの本音に突っ込んでくるし、お節介だし。…一緒にいて楽しくないわけじゃないんだけどね。
さて、ゲームが始まるにあたって心配なのは橘クン、野呂サン、相原サンだった。
何か人付き合い下手そうだしほっとくには心配だな〜って思った。
個人的にはゲームをやりたかったから相原サンに声を掛けることにした。
正直いい意味で裏切られた。
彼女といるのは、すごく楽しかったし、ゲームをやってないときでものんびりしたあのペースは、オレの日常ではなかったことだから肩の力を抜ける感じがした。
でもそれは2つ目の試練まで。
2つ目の試練では、辻村クンと、鬼頭サンと、野呂サンが傷ついた。だから、あえて浦クンと加瀬サンの懐に潜り込むような動きをした。
3つ目の試練では、橘クンが荒れたけど、何とか持ち直すことができた。
4つ目の試練は恋愛の縺れ。
誰も動かなかった、だからオレにヘイトが集まる形で無理矢理決着をつけることにした。
みんながオレに敵対心を持ってしまえば、みんなは仲良くできるだろうし、1人になることでゲームマスターを選別することができると思った。
でも、青島クンが、相原サンが、それを許してくれなかった。
だから一か八か、相原サンに嫌いと告げたのだ。
正直、応えた。思ったより、自分が傷ついた。
だからつい、岸サンに相原サンが泣いたってことを聞いて謝ってしまおうかと、部屋の前まで行ってしまった。
教えてくれた本人に出くわしたおかげでやらかさずに済んだなんて皮肉な話だけど。
ただ36日目、これまた岸サンに相原サンが誰かとメモのやり取りをしていることを聞いて焦った。
もしかして彼女はメモの相手を自分と思っているのではないかと。
そんなことを考えながらゲーム室を調べようと歩いていると何やら岸サンと青島クンが喧嘩をしているではないか。しかも盗み聞きしているとどうやら相原サンのことらしいじゃないか。
つまり、間接的にオレのせい?。
さすがに仲のいい2人があんなにギスギスしてると罪悪感が湧き、つい飛び出してしまった。
作戦変更、早急にオレと相原サンが仲直りすべきかもしれない。オレはその晩に相原サンの部屋を訪ねた。
「日向…?どうしたの?」
「話があって……どこかでちょっといい?」
「……うん、いいよ。どうぞ。」
えっ、どうぞ?
あっさり部屋に通されたオレは戸惑いながらも相原サンの部屋に入った。
「こんな夜遅くにどうしたの?」
「……ごめん。相原サンのこと嫌いって言ったの嘘なんだ。本当にごめん。」
「本当に?」
「うん。」
「本当の本当に?」
「あーもう!本当だってば!」
下げた頭を上げると相原が顔を赤くして嬉しそうに笑っていた。
何だこれ、すっごく顔が熱い。
「ね、じゃあ私のことどう思ってる?」
「…別にどうだっていいでしょ。」
そんなのこの場で言えるわけがない。
それより、と早急に話題を変える。
「たぶん、オレたちが喧嘩したせいで岸サンと青島クンまで喧嘩してるっぽいんだよね。」
「え?!どういう…あっ、もしかして昼間日向とのメモのこと詮索されたくなくて青島に遠回しに避けてもらうようお願いしちゃったから…。」
「しかも残念ながら、それさ、オレとのやり取りじゃないんだよねー!」
「えっうそ!」
相原サンはこれまで偽物のオレが送ったらしいメモを汚い机の中から取り出し、広げてきた。
「ってことはこれ誰から…?」
「たぶん、ゲームマスターじゃない?ほら、相原サン弱そうだから無理矢理ペアにできそうだし。今オレと揉めてるからオレに罪なすりつけられそうだし。」
「あー。日向にそんな度胸ないのにね。」
たぶん無意識なんだろうけどさすがに少しカチンときた。
「なに?試してみる?ここはオレと相原サンしかいないんだよ?」
「日向はそんなことしないよ。優しいもん。」
オレは掴んでいた手をパッと離した。
ここまで純粋な感情を向けられたらとてもじゃないけどからかう気にもなれなかった。
「でも、それいいかもね。」
「は?」
「だって、日向が私のこと嫌いって嘘ついたのも何か理由があるんでしょ?てことは、私とは険悪なままの方がいいんでしょ?」
「まぁ…。」
「ゲームマスター乗っ取ろうとでもしたんだよね?私に隠し事は無駄だよ。」
相原サンは悪い顔で微笑む。まぁ、綺麗に当てられたら言い訳も無駄だと思って正直に話す。
「もし、このメモがゲームマスターからのものなら、これを利用してどうにか正体をあぶれないかな…。
例えば私たちがここで揉めるとしよう、そうすると加害者である日向に注目が向くわけだからその間に私がメモの人と会う!とか?」
「ヤダよそれ。相原サンが危険な目に遭うじゃん。」
「うーん、なら真緒にでも相談するよ。」
それならまぁ大丈夫だろうか。
彼女はもうゲームから降りているわけだし、戦闘力も高いし信頼できるだろう。
「それならいいけど…絶対だよ?」
「うん、絶対。」
この時、彼女の真の作戦に気づいていればあんな危ない橋を渡らずに済んだのだろうか。この後の出来事は人生で1番肝が冷えたかもしれない。
そのあとは頑張って部屋を散らかして、椅子を壁に投げつけて、相原サンがすっごく下手くそな悲鳴をあげた。すぐに岸サンと、鬼頭サン、青島クンが来てくれた。
青島クンの監視は喧しかったけどまぁ仕方ない。
作戦通りだ。
38日目の夜。
出入り口を永瀬クンに見張られていたから本を読みながらのんびりと過ごしていた。
23時40分くらいだろうか。寝ようとすると、急に扉がどんどんと音を立てた。
何事かと思って開けると青島クンが無遠慮にも侵入してきた。
「ちょっと!勝手に押しかけて来て説明なしって何なの?岸サンも説明してよ。」
「美沙子がいなくなったんだよ!」
は?相原サンが?何で?
もしかして1人でゲーム室に行ってしまったのか?
頭の中が一気に真っ白になった。
思考が戻ってくるのに要した時間はほんの一瞬だろう。一ノ瀬サンに呼ばれて、オレは弾かれるように相原サンの部屋に向かった。
でもそこはもぬけの殻で、誰もいない。
その後、解散になるとすぐにオレは旧校舎に向かった。絶対にあの部屋だと確信を持った。
たぶん、あの動かないベッド。
後ろに隠し通路でもあるのではないか。
すぐにその考えが浮かんだ。
ゲーム室には倒れた椅子とおそらく相原サンの物と思われるスマホが放り投げられていた。
オレはそれを回収すると次に視聴覚室に向かった。案の定隠し扉は開けっ放しになっており、オレはすぐに下に降りた。
視界の端で捉えたのはベッドが動き終わるところ。
先にこちらに来るべきだった。
オレは舌打ちし、急いで梯子を上る。
地下室から顔を出したその時だった。
右側から何か棒のようなものが振り回されるのが見えた。咄嗟に右手で庇い、正面の影の正体を認める。
それは、岸サンと屋上に行った時、彼女を急襲したロボットだった。
頭の隅の方で、危うく死ぬところだったなぁ、折れてるかもなぁなんて呑気に考える自分がいることに驚きつつ、梯子を上りきり、ロボの後ろに回り込む。
そして、自分が落ちてもいいくらいの勢いで穴にロボットを突き落とした。
今思えば、血の気の引くような体験だ。
オレは肩で息をしつつ、スマホのライトで照らしながらロボの安否を確認する。幸い走行部分が壊れたらしく、首の部分だけクルクル動いていた。
オレは下に降り、ロボの持っていたバットで何度も何度も本体を叩いて砕いた。
微動だにしなくなった頃に、冷静さを取り戻し、足元に落ちているカードキーに気づいた。
とりあえず回収し、オレは梯子を上ると地下室を閉じた。
そして、流れる電流に耐えつつ、部屋に戻った。
相原サン自体が目的なのか、それとも前に話したように彼女とペアになることが目的なのか、それは分からない。でも、彼女を隠しておくなら、おそらく個室がいいだろう。
今日確認したのだから、少なくとも数日は隠しておけるはずだ。そして、スマホを回収しようと旧校舎に戻るはず。
だから、犯人は自分の部屋に彼女を置いておかない。オレが総当たりでピッキングして、もし見つけたら全部バレるから。
なら隠す場所は、彼女の個室自身だ。
今夜、このタイミングで読みを外したら、正直彼女を見つけられる気がしない。
オレは祈るようにしながら相原サンの個室に向かう。ピッキングをしようとしたら急に右腕の痛みが広がってきて手が震えた。そのせいで少し手間取ってしまったが仕方ない。
鍵が開く。
オレは無我夢中で彼女の部屋に入った。
ベッドには見覚えのある彼女がいて。
「相原サン!」
「ん…。」
どうやら眠っているらしいことに安心しつつ、彼女を抱っこすると自室に戻った。
良かった。本当によかった…。
ドアを閉め、鍵をかけ、彼女を自分のベッドに寝かせてやった。そして、部屋に蓄えていた湿布と包帯を無理矢理だが巻いて、長袖の上着を着る。
片付けが終わる頃には相原サンが身じろぎ、身体を起こす。外に起きていることを知られたくなくて電気を消していたため、シルエットしか見えないが、大丈夫そうだ。
「相原サン、大丈夫?」
「…日向?あれ、ここどこ?」
「オレの部屋だよ。」
「……なんで?」
オレはことのあらましをしっかりと説明した。
すると自分の状況を理解したのか、恐怖のあまり全身を震わせ、泣いていた。
どうすべきか、それは全く分からなかったけど、相原サンの小さい身体をしっかり抱きとめた。
すると躊躇いながらも、相原サンの手がオレの背中に回った。
……あれ、この状況ヤバくない?急に眠気がどっかに吹っ飛んで自分の心臓の音が凄く大きくなってきた。
「日向…。」
「は?」
そんな不謹慎な葛藤をしているとなぜかオレの視界は相原サンと天井だった。そこでやっと押し倒されて、馬乗りされていることに気づき、ちょっと!と悲鳴に近い声をあげた。
「なっななな何してんの?ちょっと降りてよ!」
「日向…ごめん…何でもする…何してもいいからお願いを聞いてくれる?」
「聞くから降りて!!あとはだけた服どうにかして!本当にやめて!」
必死に抗議の声を上げると観念したのかどいてくれた。オレはやっと一息つくことができた。
「どうしちゃったの…相原サン。」
「ねぇ、日向。私と一緒にゲームを終わらせてくれない?」
オレは突然のことに返事ができなかった。
目の前の相原サンは静かに涙をこぼすだけの小さな女の子だった。
「ねぇ、相原サン教えて?相原サンは何で1人で危険なことしたの?それを聞かない限りは君の提案に乗れないよ。」
目元を擦った相原サンは話し出した。彼女は、ゲームを終えることを考えていたらしい。
でも彼女の作戦は穴だらけだ。
それじゃ目的を果たせない。
オレは何をやってたんだろう。
女の子が、自分の身を危険にさらしてまで、みんなを救おうとしているのに。
オレのやってたことなんて自己満足でしかないじゃないか。
ーーーきっと日向は色々頑張ってきたんだね。
そんな安い言葉だってオレにとっては貰ったことのない言葉だった。望んではいなかったけど、不意に告げられたそれは彼女を大切に思うには十分な理由になったんだ。
「相原サン、オレの作戦聞いてくれる?」
「うん?」
そして作戦の概要を伝えると、ぽかんとした顔で凄い…と呟いていた。
「どう?」
「うん、凄い…。」
「ま、青島クンが乗ってくれなきゃ始まらないけどね〜。」
「あと1つ修正してもらっていい?」
何だろう?オレは心当たりがなく首を傾げた。すると驚くべきことに、彼女は自分のペアの相手を明かさなくていいと言ったのだ。
「……たぶん真緒にバレるから。」
拗ねたように言う彼女が何だか面白くてオレは笑ってしまった。
その後、相原サンはオレの気も知らず爆睡してしまった。しかも人のベッドで寝てるからオレは机で寝ることになった、まぁ全く寝てないけど。
結局落ち着けずに、書き置きを残して食堂に向かった。相原サンの食事を運び、モニターに相原サンの部屋の鍵の交換を依頼しておく。この時は特にロボについては言及しなかった。
そのタイミングじゃないと、そう思ったからだ。
部屋から出るとちょうど青島クンが出てきた。
「お、日向じゃねーか!すげー顔だけど大丈夫か?」
「いやー、相原サンが心配で眠れなかったよ。」
「………。」
もの凄い疑いの目で見てくる。
そういえば青島クンたちにとってオレは、相原サンのこと好きすぎて襲っちゃったキチガイ、になってるんだっけ。全然頭が働かなくて忘れてた。
その後、幸運にも青島クンはオレへの監視の目を緩めることなくついてきてくれたので2人きりになるのは容易かった。
視聴覚室に来たタイミングで密室を作る。
青島クンはそれに気づいたのか警戒の色を露わにした。
「……どういうつもりだ?」
「ちょっとお願い事があってね。時間がないからサクサク説明するよ。要約すると、相原サンは今も無事にオレの部屋にいるし、部屋で襲ったのは演技。そんで共犯関係にあるわけなんだよね。」
「……は?ちょ、ちょっとどういうことだ?」
オレは一連の内容について話した。今思えば、その時地下室の入り口部分しか見せなかったのはミスだった。そして、オレたちが考えた作戦についても話した。
意外にも青島クンは静かに聞いてくれた。
「で、どう?乗ってくれる?」
「………まぁ傷もあるし、信じざるを得ないだろ。」
青島クンは悩む様子を見せる。
まぁ、そうだよな。彼は最近チャレンジ権を持ってゲームをクリアすることにやっと意欲を見せ始めたのだ。
「なぁ、質問してもいいか?」
「何?」
「お前、美沙子のことどう思ってんだ?なんでジョーカー盗んだ時にあんなに怒ってたんだ?」
たぶん、間違ってお酒を飲んだ時余計なことを口走ったのだろう。内心で舌打ちをしてしまう。
「……言わなきゃダメ?」
「おう。」
あーもう!得意げなドヤ顔が本当ムカつく!
「……一緒にいて楽しいんだ。
それに、流れだとは思うけど頑張ったんだねって言ってくれたからさぁ。ジョーカー盗んだ時は…その、危険な目に遭うか気が気じゃなくて…。」
青島クンが目を丸くしているのが見える。何でこんな顔をこの男に見せなきゃいけないんだ。とにかく自分の中に羞恥心が湧き上がった。
「あー、もう!もういいでしょ!やだ!絶対言わないでよ!」
「悪かったって。なぁ、オレから条件をつけさせてもらってもいいか?」
「なに!」
逆ギレ気味に聞くと青島クンは愉快そうに笑っていた。本当に腹がたつ。
「な、お前が情報開示しろよ。」
「何で?オレと相原サンの組み合わせとかバレそうだしそれに…。」
「美沙子が、嫌がらないか心配かって?」
図星を突かれ言い返すことができなかった。青島クンはあたり?と嬉しそうに笑う。
「なーんだよ、変な所で遠慮しいだな!アイツ泣いて喜ぶぜ!つーか、さっき言ったことちゃんと本人に言ってやれよ?」
「やだよ。恥ずかしいじゃん。」
「なんか、お前に羞恥心があることがオレは意外で意外で。」
「君と違って繊細なんだよ。」
それにな、と青島クンは御構い無しで続ける。
「結局さ、刹那とか真緒あたりにバレると思うんだよな。でさ、その時のこと考えると、やっぱり瑞樹も美沙子も笑顔でいられる方法を選ぶのが最善手だと思うんだよな。」
きっと青島クンは、それを正しい答えだと信じて疑わないのだろう。
「……いいよ、そこは君に乗っかってあげるよ。」
「よしきた!じゃあまた後で細かい作戦教えてくれよな。」
オレたちは拳を突き合わせた。
たった数日の共犯関係、悔しいことにワクワクしてしまう自分がいた。
まぁそのあと、青島クンが腹壊してトイレにこもったり、相原サンとの数日の同居がハプニングだらけと大変だったり、結局二徹することになったオレがひどい目に遭うのはまた別の話である。




