40日目 最凶最悪の敵
「離せって!最悪!」
「相原!相原!」
私は日向の部屋に飛び込んだ。
昨日姿を見なかった相原がぐったりとベッドの上に手足を縛られて倒れていたのだから。
話は数十分前に遡る。
約束の時刻に青島の部屋を訪ねると、青島も準備万端、というところだった。
ちょうど覗き窓の死角に2人で隠れ、息を潜めていた。
朝日が差し込み、眩しいと呑気に考えていると唐突にチャンスは訪れた。朝5時になると同時に日向の部屋の扉が開いたのだ。
青島が扉をこじ開け、日向に飛びかかると、完全に油断していたらしい日向はあっさりとひっくり返った。身長も、力も青島の方が上だったため、捻じ伏せるのは容易いことだった。
そして、私も追って部屋に飛び込むと、部屋は散乱しており、紐やらタオルやら、色んなものが床に放り出されていた。
その次に私の視線が向かった先はベッドだった。
布団にしては、何やら不自然な膨らみ。
慌てて駆け寄り、布団を捲ると、その中には相原が手足を縛られた状態で、意識を朦朧とさせながら横たわっていたのだ。
相原を縛っていた縄や床に落ちていたもので日向を拘束し、青島が見張りとしてそのままその場に残った。
私は相原をやっとのことで背負い、自室に運び込んだ。汗は掻いているが拘束されていただけのようで特に外傷とかはなかった。
「……何があったんだ。」
私は他のみんなの部屋を回り、起こすことを試みる。
早朝ということもあり、起きてくれたのは鬼頭と野呂、細野だけであったが、相原を見つけたことを伝えると3人は迅速に動いてくれた。
「良かった…見つかって良かったです…。」
ボロボロだった衣類を、倉庫から持ってきたTシャツに着替えさせ、汗を拭いてやる。鬼頭は泣きながらも献身的に相原の面倒を見ていた。
細野は、同じく倉庫から持ってきたもので日向をさらに厳しく拘束した後は、再び皆を起こす作業に戻ってくれた。
野呂もキッチンから水を持ってくると、細野同様、他の人を呼ぶ作業に戻った。
朝6時には、絶賛拘束中の日向、見張りの青島、倒れている相原、見舞いの鬼頭を除いた12名が食堂に集合することとなった。
「やっぱりアイツが犯人だったのかよ!」
「……でも、日向くんあれだけ警戒されてたのにどうやって。まさかモニターに協力してもらったのかな。」
永瀬が悔しそうに壁を殴り、梶山は青い顔で呟いていた。
「にしても、短絡的なことするんですね。正直意外です。」
「恋は盲目、だろう?新倉さんよ?」
浦が挑発するように新倉に言葉を投げつける。新倉が彼を一睨みするが、全く効果はないようで、裏は涼しい顔をしている。
「…日向に話を聞きたいが、可能そうか?」
「この状況で何を聞くのぉ?」
神崎に聞かれ、私は悩む。
話せる状況といえば話せると思うがどうなのだろう。
「……行ってみれば?」
「そうだな。」
「でも、とりあえずは少し落ち着ける…んだよね?」
一ノ瀬が不安そうに言うと、数名が頷く。
「話を聞いてみないことにはどうしようもないからな。」
「本当…なんでこんなことを…。」
その場はそれで、解散となった。
しかし、私はなぜか釈然としない気持ちだった。
悩んでも仕方ない。私は動き出すことにした。
ちゃんと、納得のいく答えを探すため、後悔をしないために。
まず、私は相原の元へ向かった。
朝からずっと付き添っている鬼頭と、朝食後よりこちらに来た野呂がいた。
「相原は大丈夫そう?」
「うん。」
野呂に尋ねたつもりだったが、本人から返事が返ってきた。動作自体は緩慢であるが、しっかりと起き上がり弱々しくも笑顔であった。
「無神経だったらごめん。昨晩の話を聞いてもいい?」
「……うん。」
私はあれ?と思う。
真っ先に止めに来そうな鬼頭が黙って聞いている。それをいいことに私は続けた。
「一昨日の夜、私はゲーム室に行ったんだよ。私たち、ゲーム室に行ったでしょ?その時集合場所とか時間のメモを回収したの。」
「もしかして入ってすぐ?」
「……うん、黙っててごめん。」
相原は肩を竦めて、身を小さくする。にしても、油断ならない奴だ。
「メモは?」
「指示通り破って捨てちゃったよ。」
それも一応探してみるか。
「でね、私は、そのメモ、ずっと日向からのものだと思ってたの…。この前、部屋で私たち…その、揉めてたよね?その時に、その、ジョーカーの話してて…。」
「ジョーカーの話?」
おそらく、3つ目の試練で相原が日向の部屋から盗んだキーアイテムのことであろう。そのアイテムを使うと、ルールなどガン無視してポイント操作ができるといった規格外のものであった。
「うん、その話をしたいって。
……本当は、日向が、ジョーカーを抱えてそのまま何もしないつもりだったって。」
「本当に?」
「うん。ジョーカーを持ってるってことがバレたら他のみんなに狙われる可能性もあったでしょ?だから、自分が持ってたかったって。その時に…その…。」
相原がもじもじと顔を赤くしてまごつき始める。
「す、好きだから私のこと、危険に晒したくなかったって。で、油断してたらお、お…うう…。」
押し倒されたのか。なるほど。なぜか言葉にできない違和感はあったが少し納得した。
「それで、その時の言葉に謝りたいって、メモに書いてあったから。でも、日向に会いに行くって言ったら真緒に反対されると思って…。」
「それで1人で行ったんだ?」
相原は頷く。
「で、そのあとは?」
「覚えてないの。」
「覚えてない?」
野呂と顔を見合わせた。
彼女も予想していなかった答えらしい。
「窓の外をロボットが走ってて、なんだろうと思って覗いたら後ろから口を抑えられて…そしたら気絶してたんだよね。」
「そう…分かった。ありがとう。」
私が話を終え、立ち上がろうとすると相原に引き止められる。
「あの、もし、青島に会ったら、ここに呼んでくれないかな?」
ここ、と言っても相変わらず私の部屋なのだが。致し方ない。了承すると満足そうに微笑み、お願いされた。
私が部屋を出ると、背後から鬼頭が待ってください、と声をかけて来た。
私たちは部屋から出て、ベランダのところで話す。
「…刹那さんは、美沙子さんの話を聞いてどう思いましたか?」
どういうことだろうか?
「別に…どうも思わないけど。多少の違和感はあったけどね。」
「そうですか…。」
鬼頭は言うか言わまいか悩んでいるようだったが、振り切るように、頭を横に振ると何かを決心したような強い瞳でこちらを真っ直ぐに見つめた。
「美沙子さんは、さっきの話の中で、嘘をついてます。」
「……嘘?」
「ええ、彼女は嘘を吐くとき、視線を必ず逸らすんです。」
確かに、相原は話す時に人の真意を探るように目線を合わせて話す癖があると鬼頭は告げた。しかし、先ほどの彼女は全く視線を合わせなかった。照れと戸惑いのせいかと思ったが、違和感の正体はそれか。
「……刹那さん。
あなたは色々調べるんですよね?私にもお供させてください!私はばかですけどあなたを守るくらいはできるはずです!
私も、美沙子さんが隠していることを知りたいんです!」
相原が隠していること、果たしてそれが何を意味するのか。
1人で調べるよりは大分気が楽になるため私は二つ返事で了承した。
まず私たちはメモを探すために相原の部屋を勝手に調べることにした。
「あれ?」
「どうかした?」
鬼頭が何やらドアノブを見つめて首を傾げていた。
「傷がなくなっているんです。」
「傷?」
「ええ、昨日の朝見た時にはドアノブに引っかいたような跡があったんですが、綺麗さっぱり無くなっています。」
引っ掻き傷か。
相原が鍵を開け損ねて引っかいたということだろうか。試しに自分の部屋の鍵で自分の部屋のドアノブを引っかいてみたが、思ったより傷にならなかった。
「もっと…細い線だった気がするんですよね。まぁ気のせいかもしれませんが!」
「そう。」
そして、ドアノブを捻ると鍵はかかっておらず、すんなり開けることができた。
ゴミ箱は綺麗さっぱり無くなっていた。
一昨日見た時とは状況が異なっていた。部屋は片付けされていたが、ベッドに掛けられていた布団だけ荒々しく剥がれている。
なぜここだけ?
他に相原の部屋に違和感はなく、私たちは彼女の部屋を後にした。
次に向かったのは、今回の犯人、日向の部屋だ。
ちょうど見張りの交代に辻村が食事を運んで来たところで、たまたま出くわした。
「勝ー、入るっすよ?」
ノックをすると青島の返事が中から聞こえた。
中にはデスクチェアに腰を掛ける青島と、拘束され、ベッドに転がされている日向がいた。
日向はこちらに顔を向けると器用に身体を起こした。
「勝は交代っす。あと、岸さんと鬼頭さんが日向に話を聞きに来たっす。」
「へぇ、鬼頭サンはオレのこと殴りに来たの?」
「……挑発には乗りませんから。あくまでもあなたに話を聞きに来たんです。」
鬼頭の拳は血が滲むのではないかというくらい強く握られていた。
しかし、彼女はなんとか気持ちを抑え込んでいるようだった。
「吹雪も来たけどコイツだんまりだったぞ?」
「だってオレ神崎サンのこと気にくわないし、それにモニターがどうだとか、過去のゲームのことだとか、今回の試練に何ら関係ない意味の分からないことばかり聞くんだもん。答える気もなくなるでしょ。」
青島の言葉に、日向が呆れたように首を横に振る。
「率直に聞くけど、日向はゲームマスターなの?」
「岸サンがそう思うならそうなんじゃない?」
この質問は無駄らしい。
それに先ほどの言い方だと、日向は恐らく今回の出来事に準じていないことには答える気はさらさらないのだろう。
「…今回、相原を攫った目的は何?」
「ペアになるためだよ。…だってペアになったら、このゲームが終わっても、あの子との関係は続くわけでしょ?否が応でも、ね。」
「ゲームを降りるつもりだったってこと…?」
「あれだけゲームにくくってたのにか?!
つーか、ペアになるメリットなんてお前に…。」
「あなたが、ゲームマスターなんですね…。」
鬼頭が憎しみを持った目で日向を睨みつける。
日向は肯定するわけでもなく、否定するわけでもなく、不気味な笑みを浮かべているだけだ。
鬼頭が日向の胸ぐらを掴む。
青島と辻村が慌てて止めようとしたが鬼頭の悲痛な叫びによって2人は動きを止めることになった。
「なんで…なんで美沙子さんなんですか…。」
その言葉に日向が黙る。
「いろんな感情はあるけどね。ひとえに言えば、1番弱いから、かな。」
「自分より、弱い相手を自分の知るところに置く。……それほど安心なことはないし、作業に手間もかからないでしょ。」
「ッ……!」
鬼頭は殴りそうになったが、寸での所で留まり、彼の胸ぐらを掴んでいた手を離す。そして無言で鬼頭は部屋の外に出て行った。
「そういえば、青島。相原が呼んでたよ。早く行ってきたら?」
「え、おう、そうか?」
私は半ば強引に青島を部屋の外に出す。
そして私は完全に油断していた日向をベッドに押し付け、彼の袖を捲る。
「ちょっと!やめてよ!」
彼は器用にも身をよじり、あっさりと自分の腕を背後に隠した。にしても、やっと日向の顔色が変わった気がした。
なぜこんな夏場に、1枚パーカーを着ていたのか。
「ほんっと、岸サンっていい性格してるよね。絶対にオレが見られたくない所見るんだもん。」
「………。」
意味がわからないといった顔をする辻村に一声かけ、私も部屋をあとにすることにした。2階のフェンスにこうべを垂れる鬼頭に声をかける。
「すみません…さっきは邪魔をしてしまって。」
「いや、鬼頭のおかげで確認したかったことも確認できたし大丈夫だよ。……日向はゲームマスターじゃないってことがね。」
「どういうことですか?」
「日向の腕、傷と痣があった。処置の仕方がかなり雑だったし、かなり上の方で巻いてたから、自分でやったんだと思う。」
「傷?何で傷がゲームマスターでないってことに繋がるんですか?」
「それはーーーー。」
「岸!」
階下から、細野と橘、野呂が私たちを呼んだ。
話を中断し、そちらに向かう。
「どうしたの?」
「あの隠し部屋のロボット、電源を抜いてもう1回組み立ててたんだ。オレの部屋で。」
「それって危なくないですか…?」
「別にモーター外したし、何か凶器とかあったわけじゃないし…外装だけだし。」
何故か少し拗ねたように呟く。
とりあえず、橘に誘われるがままほか4人で彼の部屋に向かう。そして、部屋で組み立てられたロボットを見て、私は目を見張った。
「……これって、屋上で見たロボット。」
「屋上?」
橘が聞いてきた。うっかり言葉を漏らしたことなら気づき、黙り込む。しかし、ここで黙っててもいいことはないだろう。
「……前にも言ったんだけど。新校舎の屋上、ロボットが走行路から外れて見回りをしていたから尾けて行った時の話。その時、ロボットに襲われた。」
「で、そのロボットが。」
「これ。」
視界の端に入ったロボットのアーム、間違いない。
「モニターは確か、違反行為をしなければ危害を加えないって言ってたよね?」
野呂が険しい顔をしつつ、かつてモニターが言っていたことを記憶の底から手繰り寄せる。
「そう、なぜこのロボットがあそこにいたのか。」
「地下室に入ることが違反だから、ではないのか?」
「それだったら私たちが6人で調べに行った時、襲われててもおかしくないですよね?」
場を沈黙が包むが、それをあっさりと壊したのは橘だ。
「……この外装から考えるにさ、このロボットの性能は移動、何かを把持する、重量物を運ぶっていう単純なものなんだよ。そんなに強くないし。ただモニターとかこっちの方が問題でね。」
机に置いてある電子機器を指して、橘がいつもの調子で答える。彼の口調だと何も問題そうに聞こえない。
「これはね、受信機。通信範囲的に、敷地外からでも指示が出せる…と思う。
あと、他のロボとは明らかに配線が違ったから…たぶん、たぶんだけどこのロボは、遠隔操作でその都度指示を受けてるんじゃないかと思う。」
「…つまり、モニターの先の人物はたまたゲームマスターがリアルタイムで操れるってこと?」
橘が頷く。
「他のロボがどんな風に操作されてるかは分からないけどさ、たぶん違うはずだよ。
また何か分かったら教える。」
「ありがとう。…にしても何でロボの内部構造知ってるの?」
確かに、と私の指摘に納得し、他のメンバーが橘を見つめた。しかし、橘はどこ吹く風、大したことではないことのように淡々と伝えた。
「暇だったんだよ。それに、モニターはロボの破壊はダメって言ったけど、解体して戻すのはダメって言ってないからね。」
「そんなでいいのか…。」
細野の言葉に同意するように私たち3人も息をついた。
3人と別れ、鬼頭と食堂に行くと相変わらず神崎が難しい顔をして座っている。
どうやら日向に質問を答えてもらえず不機嫌らしい。
「神崎、1つ聞きたいことがあるんだけどいい?」
「代わりに日向に聞いた話を教えてくれるならいいがな。」
「正直なところ、相原を狙った理由しか教えてくれなかったよ。目的はペアを作るってことらしいよ。」
「そうかよ、で?」
神崎が身体をこちらに向ける。すなわち質問を受けたからということであろう。
「校舎にある備品は把握してたりする?」
「ああ、2日に1回は校舎全体見回ってるからな。部屋にチェック表ならあるぞ。コピーするか?」
「お願いしてもいい?」
「じゃあ私が受け取ってきます!」
鬼頭が神崎を追いかけて食堂から出て行った。
私は待つだけになったが暇だったのでモニターに聞いておきたいことがあったのでモニターを点けようとした。
「あ!刹那ちゃんここにいたんだ!」
「一ノ瀬。」
一ノ瀬はキッチンによると飲み物を手に取り、出てきた。
どうやら青島が野呂と入れ替わり、野呂は青島との交代要員として一ノ瀬に声をかけたらしい。そして、フリーになった野呂があの場にいたということか。
「モニター点けようとしてたけどどうしたの?」
「いや、聞きたいことがあって…。」
たぶん、ロボの話はもう少し確証を得てからした方がいいだろう。変に誤魔化されても困る。
つまり、私が聞きたいことは別のことだ。
一ノ瀬が都合よく、付き合ってくれるとのことだったので私はモニターをつける。
『岸さんに呼び出されるのは初めてですね。いかがなさいました?』
「……誰かの部屋の、ドアノブを修理したりした?」
『ドアノブの修理はしていません。』
ドアノブの修理は、ということは。
「誰かの部屋の鍵を付け替えた?」
『それは致しました。』
ビンゴだ。
バラバラになっていたものがもう少しで繋がる気がする。
「あとさ、このゲームってどうやったらゲームオーバーになるの?」
「え、試練失敗かペア不成立でしょ?あとゲームマスターが条件をクリアしてしまう、とか?」
「それだけ?」
一ノ瀬は分からないようで首を傾げている。
しかし、モニターは私が言いたいことを察しているようで、不敵に笑うのみ。
「例えば、試練の内容自体に手を加えるとか、ペアじゃない人たちがスマホをかざすとか。そういう不正に近い行為はどう捉えるの?場合によってはゲームが破綻するよね?」
『…いいご指摘ですね。』
モニターはそういうと続けた。
『まず試験内容に手を加えることについて。例えば…今回の試練の場合、ゲームの内容を書き加えることに関しては構いません。逆に難易度を上げてクリアできないようにする、などもね。後者については…まぁ機器が反応してしまうので壊れてゲームが続けられない状況になるでしょうね。』
「ちなみに同じことを聞いてきた人はいる?」
『いますよ。…ですが、それは教えられませんね。』
「別にいいよ…自分で考えるから。ありがとうございました。」
『いいえ、また呼んでくださいね。』
そう言うとモニターは切れた。
「……もしかして、刹那ちゃん、参加者の誰かが不正をしようとしてるって踏んでるの?日向くんとか?」
「いや、アイツはたぶん聞いてないと思う。たぶんね。」
そのタイミングで鬼頭が紙を持って戻ってきたので、4人でリストをパラパラと見る。一ノ瀬は途中で青島が声をかけてきたので入れ違いに私の部屋に行った。
「おう、何見てるんだ?」
「神崎がくれた備品リスト。」
パラパラと全て目を通し、ため息をつく。
私の考えが間違ってなければ、今回の日向と相原の件についてはおそらくーーーー。
「で、青島さんは美沙子さんと何の話をしていたんですか?」
「ん?ああ…今回の試練のペアになってきたんだよ。」
「へぇ…はぁ?!」
鬼頭がギョッとした。
私も一瞬聞き流してしまったがギョッとした。
「え?!なんでその2人なんですか?」
「………美沙子が、瑞樹に狙われたからだよ。」
「どういうこと?」
「まず、ペアになれば友好度がリセットするのは分かってるよな?それで、美沙子はペア目的で狙われなくなるよな。あとは瑞樹個人の感情だが…好意がきっかけの1つなら、男で、ついでにアイツが嫌ってるオレのことを美沙子が選べば諦めるかなって。」
「単純すぎじゃない?」
「しかもそれを日向さんが知って動かないなんて…。」
「やっちまったもんはしゃーねーだろ!…ただ、試練の時瑞樹は手伝ってくれねーだろーから、冬真の協力が必要になるがな。オレ、頼みに行ってくるわ。」
そう言い、図書館に向かう青島の背中を見送る。
果たして説得役が青島で大丈夫だろうか。少々心配になりつつも私は自分の目的を果たすことにする。
「……どうですか?刹那さん、真実は見えそうですか?」
「全部は見えてない…けど、でも戦えると思う。」
「日向さんとですね!」
だったら、いいのだが。
私の表情から、戦う相手が日向ではないことを察したらしく鬼頭は戸惑う様子を見せた。
「相原と、だよ。」




