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Money × friend -只今放送中!-  作者: ぼんばん
試練5 鬼門に反するは猿雉犬
37/82

33日目 サプライズ

今日は食堂一番乗りだ。


嘘である。

一番乗りだと思ったら何やら加瀬と新倉、加えて細野が集まっていた。何でこのメンバーなんだと頭を抱えたくなる。



「あ、ちょっ、岸さんってそんな早く起きる人種なんですか?!」

「いや、いつもこの時間だけど…。」

「ちょっとぉ〜今いいところなんだから5分!5分出てて!」

「その3人だと何もいいことが浮かばないんだけど…。」




加瀬に無理矢理食堂から追い出され、出入り口に座り込んでいると野呂と青島もやってきた。やっと食堂が解放されるとその面子に2人もなかなか渋めな顔をしていた。




「今日の18時、食堂に集まってくれませんか?」


「何でまた…。」

「おー、分かった!18時な!」



追及する私の言葉を遮り、青島がメモを受け取る。そのメモは野呂をはじめ、食堂に来る面々にそれぞれ渡されていった。



「そうだ、刹那さ。また明日から雨降るらしいから今日のうち、いつものとこ行っとかねーか?」

「分かった。朝食後でいい?」

「そうだな。夜の待ち合わせに遅れてもアレだしな!」



青島と体育館下の調査の約束をして別れた。すると入れ違いで梶山がすすすと私に近寄ってきた。



「どうしたの?」

「いや、相談があって…。」



このパターンは加瀬と新倉の時にたくさん痛い目を見たからあまり関わりたくなかったが一応聞いてみた。



「何の相談?恋愛以外だったら受け付けるよ。」

「良かった。じゃあ今日空いてる時間ある?」



良かった、というのはこちらのセリフだ。これでまた変な色が見えたら人間不信になりそうだ。もう二度と相談など聞かない。

私は内心で誓いつつ、午後に梶山と約束を取り付けた。


私は朝食を終え、食堂を後にしようとすると鬼頭が慌ててやってきた。



「刹那さん、仁奈さん、青島さん、辻村さん!

昨日は私が早とちりしてしまってすみませんでした!」

「何が?」

「あの、美沙子さんをいじめているのだと思ってしまって…。あとから美沙子さんに聞きました…。」


「本当だよ!と言いたいところだけど、私も無神経だったね。また会ったら直接謝るよ。」




一ノ瀬が笑顔でそう言うと鬼頭はホッとしたように全身の力を抜いた。このような風景が普段の学校で見られる風景なのだろう。



「私も謝っとくよ。」

「オレもそうするわ。」

「オレもそうするっす!」


「みなさん…!」




とりあえずその場は収まり、私と青島は体育館裏に向かった。

結局朝は相原と日向と浦が来なかった。新倉たちはメモを部屋のドアの隙間から差し込んでいたため、時間を知ることはできるだろう。




「よっしゃ!やるぞ!」

「おー。」


「ノリはいいけど覇気はないな。」



私たちはさっさと潜り込み、探り始める。これを探し終えたら2/3見終わるのか。

青島があったぞーなんて呑気な声を出しているため、私はさっさと出ようとする。


すると青島に足を掴まれた。


何だと思い、非難の声を上げようとしたが、指差す方を見ると、誰かの足が見えた。





「わざわざこんな所で話なんてな。」


「誰もいない所で話したかったんだよ。でさ、浦クンはこの前の試練みたいにポイントを稼ぎ続けるの?」


「ああ。お前には関係ないだろう。もし、日向も降りるならお前の得点もありがたくもらってやるよ。オレは全員のポイントを把握してるからね。」

「は、ストーカーかよきも。」

「お前も知ってんだろ。」



日向は笑って誤魔化していた。

声の主は日向と浦。

確かに人通りも少ないし、監視カメラもない、学校の密会場所だろう。




「オレはもっと面白いゲームの楽しみ方を知ってるよ。どう、オレの賭けに乗ってみない?」

「お前にしてはつまらないことを言うんだな。乗るわけないだろう。」


「そっかぁ。残念だなぁ。でもさ、あの制度気をつけたほうがいいよ。あれはイレギュラーがあった時、見事に外す点リスクがあるからね。」


「ありがたくない忠告受け流させていただくよ。」

「んもー、仕方ない子だなぁ。」




浦はそのまま歩いて去っていく。しかし、日向はその場にとどまっているようで動く気配がない。

青島がコソコソと、見つからないと思ったらこんなとこにいたのかと呟いていた。

何かを閉じた音がすると、日向も歩き始め、どこかへと移動していった。


しばらくしてから私たちも外に出て土を払った。




「いやー、今回はひやっとしたな。」

「確かにね。何してたんだろう。」

「さぁな。聞いても教えてくれねーと思うし、聞いたらどこで聞いたんだって聞き返されそうだしな。」



さて、と青島は見つけたメモを広げる。メモには珍しくでかでかと口水中と書いてあった。



「ろすいちゅう…?」

「くちすい?分かんないな…。」



今回もロクな収穫はなく、終わった。部屋に戻ったあと、並べて見比べてみても何も浮かばなかった。


シャワーを浴びた後、部屋を出ようとするとちょうど相原の部屋の前で立ち尽くす日向に出くわした。油断していたのかうわ!と声を上げて驚いていた。


バツが悪そうな顔で日向はつぶやく。




「本当、岸サンってタイミング悪いよねー…。タイミング悪いついでに聞くけど相原サン知らない?」

「今日は会ってないけど鬼頭といるんじゃない?」

「そっかー…じゃあいいや。」

「伝言あるなら伝えとくけど。」

「別にいいよ…。」



日向は逃げるようにその場から去ってしまった。

何だろう、謝りに来たのだろうか。その背中を見送り、私も梶山との約束を果たすため、食堂に向かった。



「お、岸。今厨房は入れないぞ。新倉たちがバリケード張ってるからな。ロボに頼むしかねーぞ?」

「何してんの本当に…。」




私はロボに昼食を頼み、食事を摂り始めた。梶山は永瀬とすでに食事をとり始めていたらしく、すでに残りは半分程度になっている。




「岸さん、この後中庭でいいかな?」

「永瀬はいいの?」

「梶山が岸でいいっていってんだからいいだろ。」



永瀬はコーヒーを飲みながらのんびり言う。彼も肩の荷が降りたのかゆっくりしたいらしい。

梶山について行くと中庭の、ブランコに連れて行かれた。なんやかんやここは癒しのスポットになっているよなと考えつつ、梶山に向き直る。



「で、どうしたの?」

「あのさ…実は…。」



いつまで経っても要件を言わない梶山。

このまま日が暮れるのではないかと呑気に考えていると大きく息を吐き、よし!と気合を入れた彼がいた。




「僕、実は永瀬くんに憧れてるんだけど。」

「知ってるよ。で?」



え、知ってるの?!と素っ頓狂なことを言っている。




「…永瀬くんのこと名前で呼びたいんだけど、引かれちゃうかなぁ。」

「いいんじゃない。何だっけ下の名前。」

「尚寛だよ!…呼びつけにしちゃった!」

「別にいいじゃん男同士だし。」



そんなこと言っていたら青島なんてほぼ全員名前呼びだし、開始初日からそんな感じだった気がする。

一方で梶山は赤くなって慌てている。




「永瀬くんは、そういう馴れ馴れしい感じ嫌じゃないかなぁ?」

「嫌だったら青島がすでに鉄拳食らってると思うけど。」

「でもあれって彼のキャラだし…青島くんはやめてって言ってもやめてくれなそう。」

「野呂と鬼頭には拒否されて名字で呼んでたと思うけど。」



大概、梶山の青島に対する印象もひどいものだ。



「梶山も永瀬に名前で呼んでほしいの?」

「まぁね。前に相原さんとゲームしてる時に話してたんだけど、名前呼ばれるのって嬉しいよねって。特に憧れてる人からだと。」

「相原に憧れてる人いるの?画面の中とかいうオチはないよね?」

「……日向くんらしいよ。僕にはよくわからないけど。」




それは恐らくお互い様なのではないだろうか。

私は内心で思うが口には出さなかった。だが、確かにそういった感情を恋愛の好意と同義にされたら怒るだろう。やっと納得ができた。



「2人でそういう話するの?」

「うん、時々ね。最近はあまりしないけど…。でも嫌われたことかなり気にしてるみたいでずっと落ち込んでるんだよね…。

僕がどうにかしてあげられればいいんだけど。」



梶山も永瀬に似てきたのではないかと思うと何だか微笑ましくなった。



「まぁ永瀬なら呼んでくれるんじゃないの?」

「で、そのことなんだよ!どうにか呼んでくれるような…こう、いい感じのサポートをしてくれない?!」


「いや無理でしょ。」

「そこを一声!」

「値切りみたいに言わないで。」



恋愛に関係ないは関係ないで、困った相談だ。シンプルに言ってしまってはダメなのか。

梶山の熱視線に負けた私はついに諦めることにした。




「わかった。今日18時からみんな集まるように言われてるし、タイミングがあれば言ってみる。」


「ありがとう!あとさ、これは完全に僕のお節介なんだけどさ…。」




何やら照れ臭そうに笑っている。




「僕も、相原さんたちがゲームしてないと落ち着かないんだ。だから、仲直り手伝ってくれないかな。」

「…日向が部屋を訪ねようとしてたし大丈夫じゃない?」

「えっ、日向くんが…?そっか、よかった。」




またきっとアイツの気まぐれ。私たちはそのことを考えて疑っていなかった。後に、その考えは楽観的すぎたことを思い知らされるのだが。




私たちが食堂に早めに向かうとなぜか出入り口が封鎖され、見張りに永瀬と橘が立たされていた。

17時になったところで追い出されたらしい。

窓の方もカーテンが敷かれており、まるで中の様子が分からない。



「お、もう来たのか。」

「何で立たされてるの?」

「何かの準備らしいぜ。」



そういえば、梶山からのミッションがあった。



「そういえば永瀬、名前で呼んでくれる?」

「え、刹那って?それはちょっと…」

「いや違くて。」



明らかに修飾語が足りなかった。しかもやんわりと断られた。



「永瀬くん、すみません。ちょっとだけ手伝っていただけませんか?」

「おーいいぞ。悪い岸、後でな。あとここから人が入らないよう橘と見張っててくれ。」



そう言うと永瀬は中に入っていってしまった。


定刻になると、食堂が開放された。

食堂の中は綺麗に飾り付けされており、様々な料理が所狭しと並んでいた。

そして、その場には全員がいた。



「日向も来たんだ?」

「パーティー事なら来なくちゃ。ていうか細野クンから直々に言われたからね〜。」



浦は加瀬に無理やり引っ張られて来たらしい。

とりあえずその場にいればいいという妥協点で参加することになったそうで、食堂の隅で不機嫌そうに座っていた。



「すげーな、この料理の量!お前らが作ったのか?」

「永瀬くんとロボットさんに手伝っていただきながらですが。…昨日今日眠そうにしてたのも、今日のメニュー考えててくれたからなんですよね。」



種明かしをすると、3人はみんなに迷惑を掛けてしまったことをどうにか詫びたかったらしい。

試練後、気まずいなりに話し合った結果、ゲームが始まって間もない頃にやったパーティーが1番いいのではないかという結論に至ったそうだ。

永瀬やロボに協力を得つつ、頑張って準備したらしい。




「今回は皆さんにとても迷惑を掛けてしまいました。だから、お詫びの意味も込めて、ぜひ今日のこの時を楽しんでいってほしいんです!」

「そうそう。…謝るだけじゃ何だかなって話したんだよぉ?」

「永瀬も付き合わせて悪かったな。」

「別に料理くらい苦じゃねーし構わねーよ。」



永瀬たちが談笑していると、横から青島と一ノ瀬の食べていいかという質問が飛んで来た。

新倉は苦笑しつつも、どこか嬉しそうに、彼らを諌めつつ、乾杯の音頭をとることを提案した。



「おっし、じゃあオレが行くぜ!残り半分、みんなで楽しく生活するぞー!カンパーイ!」


「「カンパーイ!」」




かなり雑な挨拶ではあったが、パーティーは滞りなくはじまった。

正直なところ、準備された料理はとても美味しかった。最近はロボに作ってもらうことにも慣れていたが、やはり人の手で作ってくれたものは美味しい。



「刹那ちゃん、お味の方はいかがですか?」

「すごく美味しいです…。」

「よかった。」



新倉は安心したように微笑んだ。しかし、彼女はどこか寂しそうな表情を一瞬したかと思うと真っ直ぐに私に向き直った。



「刹那ちゃん、私、本当にご迷惑をお掛けしました。 ……私、ちゃんと考えてみたんです。」



私は何も言わず彼女に向き合う。



「私の細野くんへの想いは本当に恋なのかって。

確かに恋だったんだと思います。でも、もうあの時には恋じゃない、何か歪んだものになってしまったんだと思います。」

「へぇ。」

「本当に刹那ちゃんは恋愛に興味ないですね…。」

「興味ないわけじゃないよ。ただそんな定義なんて人それぞれなんだろうし、私が意見言っても無駄かなって。言っても変わらないでしょ。」

「まぁ確かに。」



新倉は苦笑した。

私の言葉に納得してくれたのだろうか。彼女は続ける。




「きっと、無意識のうちに好きって気持ちを持ってる人もいると思うんです。

でも、それはあなたが言うように私には図れないものでしょうし、私の気持ちが他の人に受け入れられるわけではない。それが今回のことでよく分かりました。

だから、加瀬さんともう少し話して、まずはちゃんと彼女を理解したいんです。」

「加瀬と。」



確かに相談された時、彼女の様子を見て驚いた。

しおらしく、恋する乙女とはまさにこういった姿のことなのだろうなと頭の隅で思った記憶は新しい。



「それと、皆さんに迷惑を掛けてしまったので…、あと2人と話がしたかったこともあってこのパーティーを開催したんです。

この前の、ゲームマスターの件があって不安なのも分かりますが、やっぱり笑顔で過ごしたいなって。」


「そうだね。みんな楽しんでると思うよ。ありがとね。」



私が感謝を述べると新倉は頰を赤らめながら頷く。いつもの新倉に戻ってよかった。

私が1人になると永瀬がこちらにやって来た。



「よ、さっきは話途中で席外して悪かったな。何なんだあの名前のくだり。」



永瀬は、思考が先走るタイプではないのでしっかり理由を尋ねに来てくれた。他の人に同じことをやらなくてよかったと心底思う。



「梶山が永瀬のこと名前で呼びたいって相談しに来たんだよ。だから呼んであげてってこと。」

「なるほどな。…説明に際して言葉足りなすぎだろ。」

「反省してる。」

「嘘だろ。」



永瀬のいうとおりであるが。会場を見てみると相原と梶山が何やら盛り上がっているらしい。



「早速行くか。よし、岸、先に切り込んでこい。」

「えぇ…面倒臭い…。」




永瀬に無理矢理押し出され私は切り込み隊長になった。




「…へい、仲よさそうだねお2人さん。」

「へっ?!」

「そう?」



梶山があたふたする一方で相原は涼しい顔で首をかしげる。



「何の話してたの?」

「こ、これからの作戦だよ!」

「作戦?」



相原の視線の先を見ると窓から外を見ている日向。1人でいるのは状況が状況だが珍しい。



「待つことも作戦のうちだよ…。」

「待てないよ!」



相原が頰を膨らませ、手足をバタバタさせる。

それを見て微笑む梶山の後ろで珍しく永瀬が歳相応の幼い顔をしながら構えていた。

そして急に後ろから梶山の肩を抱くものだから、梶山が声にならない声を出して驚いていた。




「航一も楽しそうにしてんじゃねーか!」

「へ?!あ、え?!」



顔を赤くしながら慌てる彼は私たちを見たが、私は無言で親指を立て、察した相原もドヤ顔で親指を立てる。何もしていないくせに。



「な…尚寛くんも楽しそうだね?」

「おー、お前も案外素直じゃねーんだな。呼びたかったら呼べばいいのに。」

「恥ずかしいじゃん…というか尚寛くん臭くない?」

「何で名前は呼べなくてそれは言えるの?」



永瀬はそんなことを言われてもケラケラ笑っている。確かに様子がおかしい。

そこへ、加瀬が慌てて入ってくる。そしてモニターをつけて怒鳴り始めた。




『…いかがなさいましたか?』


「いかがなさいましたかじゃないしぃ!

キッチンにお酒混ざってたんだけど!未成年の番組に対してどうなの?」


『ああ、うっかり。』


「うっかりじゃないぞ!」



同じくキッチンにいたらしい細野も慌ててやって来た。それを聞いた青島が慌てて2人に駆け寄る。

モニターは一方的に画面を暗くした。逃げたようだ。



「それ入れたコップどこに置いたんだ?てか飲んだやついるか?オイ、日向!あれ?」



近くにいた無反応な日向の肩を揺すったが反応はない。青島が身体の向きを変えると彼の顔…顔どころか手まで真っ赤になっており、何かをむにゃむにゃと言っていた。

永瀬もおそらく酒を飲んでしまったのだろう。他に様子を見ると野呂が眠そうにしていたり、一ノ瀬が神崎を追い回したりと騒がしくしていた。




「何がヘタレ脳筋野郎だ!お前演技だろ!」




彼のむにゃむにゃは悪口だったらしい。しかし、それ以上反応のない日向に諦めたのか青島はため息をついた。

日向は何やら愚図りながら柱に絡みついている。



「す、すみません! 不手際でした!」

「いや、仕方ないですよ!高校生がお酒なんて分かるわけないですし!」



一ノ瀬の次のターゲットになったらしい鬼頭は彼女を抑え込みながらフォローを入れた。



「刹那!悪いけど瑞樹の部屋の鍵開けてくれないか?」

「私、みんなの部屋にお水持ってくね。」



慌てて片付ける3人に対して、相原が冷蔵庫に向かう。

約2時間に渡って続いたパーティーは唐突に終了を告げた。永瀬のことは梶山と辻村が、一ノ瀬のことは鬼頭と神崎が、野呂のことは橘と新倉が送ることになった。




「お前なぁ…。」



にしても日向がこんな風になるとは予想外だ。これを弱味に揺すってやろうかと良からぬことを考えていると相原が水を抱えてやって来た。



「日向大丈夫?」

「………だめ。」



意外にも水をすんなり受け取った。しかし、それだけでなく、相原の手首を強く掴み相原を睨みつける。




「え、なに?」


「……ジョーカーの、許してないから。」




ジョーカーの?

もしかして試練3のことだろうか。




「あ、オイ!大丈夫かよ?」

「………。」



手をひらひらさせるものだから鍵を渡すと、いつ転んでもおかしくない足取りで自室に戻って行った。

一度階段で大きな物音がしたが、様子を見ていると無事部屋に戻れたようだ。


一方で、相原は呆然としている。




「……もしかして、私が日向の部屋からジョーカー持っていったの、根に持ってるのかな? だから嫌いって言われたのかな…?」




しおしおとしょげる相原は整理がつかないままに水を配りに行ってしまった。


取り残された私と青島は、顔を見合わせつつもとりあえず会場の片付けに参加することにした。




「面目無い…。」

「仕方ないって!モニターの奴が悪い!」



この場にいるのは私たちと主催した3人のみだ。料理は無事全て消費されており、片付けの手間は必要なかった。

私は、皿洗いをする新倉と加瀬とロボットの手伝いをしていた。




「にしても、とんだハプニングだったね。」

「ええ…明日謝らないと。」

「でも面白かったねぇ。大人になったら飲み会とかしても楽しいかもねぇ。」



加瀬が呑気に笑っている。



「岸ちゃんは、楽しかったぁ?」

「まぁね。…それにみんなが普通に話してて安心したよ。」

「……ごめーわくおかけしましたぁ。」

「悪いって思ってないでしょ。」



それを見て笑う新倉を横目に見つつ安心した。

モニターはゲームマスターの存在を明かし、疑心暗鬼に落とし込みたかったようだが、思い通りには行くまい。


その夜は久しぶりに穏やかな気持ちのまま布団に入ることができた。


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