1日目 あらぬ道
「ここは…。」
私が目を開けると見知らぬ天井が目に入る。
私は気怠げに身体をベッドから起こす。
あぁ、そういえば昨日から始まったんだっけ。人気番組SSLへの参加が。
慣れない場所で寝たせいか何となく、眠りが浅かった気がする。どちらかというとズボラな方だとは思うのだが。
時計を見ると朝7時を指している。昨日は疲れて寝てしまったので自室といえどあまり見ていない。
自室はグランドに面しており、勉強机と、ベッド、2階部屋だけについている校庭を見渡せる窓、シャワールーム、トイレ、小さな冷蔵庫とコンセントなど豪華なビジネスホテルのような造りだった。
私はふと机に置いてあるスマートホンを見る。これは私たちに配られた携帯代わりの物。パスワードを入れ、開くと自分の名前が表示され、この施設の全体図が示される。また、別のアプリを開くと参加者情報が出る。
まだ誰とも交流していないためNO DATAと表示されている。
他のアプリも見たいところだが、8時から近接する食堂でガイダンスと聞いている。あまりのんびりもしていられないようだ。
自室から出る際は必ずつけるよう言われているブレスレットをつける。うっかり個人情報を言おうとすると警告の電気が流れるそうだ。
「さて。」
私は支給されたジャージを羽織り、外に出た。
そのまま時間ギリギリとなったが食堂へと向かった。
「おっそいなー。君が1番最後だよ!」
食堂を開けると15人、どうやら私が最後のようだ。ごめん、と言いつつ空いてる席へと座る。
メニューらしきものが置いてあるので、そこのボタンを押すと自走式ロボットが運んできてくれた。物珍しく見てると正面に座る野次を飛ばしてきた青年がクスクス笑う。
「びっくりしてる顔だね!
口に合わなければメニューの下の自炊ボタン押せばロボットは来ないんだってよ!あ?それとも料理下手な君には意味のない情報だった?ゴッメーン!」
「うざ…。」
「やー!はっきり言うね!そういうタイプ嫌いじゃないよ!」
青年はケラケラ笑う。
「朝から絡んでんじゃねーよクソガキ。」
「えー、いいじゃん。せっかくの交流企画なんだし楽しもうよ〜。」
青年の絡む対象が隣の青年へと変わる。
助かったと思いつつ朝食に手をつけ始めると、モニターの方からブォンと起動音がする。
もちろん、参加者はみなそちらへと視線を移した。画面には番組のタイトルロゴのみ映された。
『おはようございます、参加者の皆様。
前回の放送と違って今回は遅刻者がいないんですね。優秀優秀。』
「御託はいいから早く説明を始めてよ〜。」
モニター近くにいるギャル風の女の子がそう言うとモニターの向こうの人物がクックッと笑う。何とも不気味なものだ。
『番組的にも概要から始めますね。
この番組は愛と青春の一攫千金物語をキャッチコピーに売っています。とも言いつつ、今までは愛を手にした者はいても一攫千金を手にした者はいないんですけどね。
この番組は全日程60日。最長40日ですがね。
基本的にはその施設内であればどう過ごしてくれても構いません。ただし、アプリ【校内ルール】に記載されている事項は守ってください。ブレスレットから流れる警告電流を無視すれば強制退場もあり得ます。
①自室に1人でいるときを除き、ブレスレットは必ず装着すること。
②敷地外に出たら失格。
③試練を成功できなければ番組は終了。
④激しい暴力行為は禁止。
⑤深夜12時〜朝5時の屋外移動は禁止。
⑥個人を特定する情報の禁止。偽名は守り通すこと。
とりあえずは以上です。
次、アプリ【試練】をご覧ください。試練は1、9、19、29、39、49、54日目に提示されます。
実際のチャレンジは2、11、21、31、41、51、56日目になります。最初と最後のみ若干日程がズレるのでご注意ください。そして、試練を受けるまでには当日までにあることを準備しなければいけません。が、それは後程説明致します。』
「準備…?そんなのあったっけ…?」
『まぁ放送では提示していませんからね。』
最前列の少年の呟きにご丁寧に返してくる。
『次にアプリ【ミニゲーム】
55日目を除く5のつく日に行われるレクレーションのようなものです。参加は自由になります。勝者特典があるので損はありませんけどね。
そして、いよいよ大切なアプリ!【交流】
これは個人同士の話した情報や友好度が確認できます。この親密度が一定に達すると個人情報開示ボタンが出ます。お2人が目の前にいるとき、同時に押すと本名やアドレスなど個人情報が表示され、このゲーム終了後も交流をすることが可能です!
ちなみに1人開示を行うと他の人の友好度はリセットされますのでご了承ください。なお、他の人からその情報を確認できるのは24時間後になります。
過去、このゲームにおいて一攫千金を忘れ、こればかり楽しんでいた者どももいましたけどね。すぐ終了してやりましたよ。
…ここからは先程申し上げました試練についてです。
試練を受けるにあたって、試験日に必ず、情報を開示し合ったペアになった2人のスマートホンを体育館ステージの台座に同時に置く必要があります。これが成されないと試練は出ず、番組終了となります。
ペア1組につき1回のみです。ペアになった人同士再びかざすこともできないので気をつけてください。当日の朝、新規にできたペアがいるかは放送なされますが、その日にペアを慌ててペアを作ることは出来ませんので、準備はお早めに。
そして賞金の行く末です。
賞金は総額1000万円。綺麗に人数で割れば625000円。しかし、そこで関わってくるのが先ほどの件。
①一度でも情報開示した者は金額を手にすることはできない。
②最終的金額はイベントや試練で貰えるポイントの合計点。
これを頭に叩き込んでくださいませ。』
一部の者の目の色が変わる。
察するに今回は金を目的とした敵が多いようだ。
『最後にアプリ【ポイント】
これは自分が今持っているポイントが見られます。稼ぎ方は以下の通り。
①1日1人に限り、2時間一緒にいるとポイント獲得画面が出るため、通信を行いながら『受け取り』を押す。
②ミニゲームに参加、勝利する。
③試練で成功・貢献する。
しかし、試練にはマイナスになる場合、他人を貶めるものもあるためご注意くださいませ。
以上になりますが、何かご質問はありますか?』
「ルールで分かんねーことあったらどうすればいいわけ?」
ポニテの少女が聞くと画面がこう答える。
『こちらの食堂のモニターのみ通信機能があります。外出禁止時間以外でご連絡くださいませ。
他には?』
シーンとなると画面は咳払いをする。
質問はないようですね。
では。
『愛と青春の一攫千金物語が始まります。』
みなさん、いい夢をご覧くださいませ。
不気味に微笑みながらそう呟くと画面は切れた。
食堂には微妙な空気が流れるが、おうし!と男子の声が響きムードは一変する。
「朝食がてら、自己紹介しちまおうぜ!
一攫千金物語と言いつつも楽しまねーと損だ!
ギスギスしててもアレだしな!
てことで、オレは青島勝!
趣味はサッカーで、この共同生活を仲間と乗り越えてぇって思って参加した!困ったことがあったらなんでも相談してくれよな!」
髪にバンダナを巻いた茶髪の男。まさにサッカー部のイケイケというか…一見してチャラそう、暑苦しい。なるべく関わりたくはないタイプだ。
青島は時計回り、ハイ!と回していく。
この共同生活においてリーダーとなりそうな人物だ。下手に敵に回さず、味方にしておくのが良いだろう。
「辻村亮輔ッス!ぜひこの生活で彼女を…と思ってます!1つよろしく〜。」
「橘慶明。やる気ないんで放っておいてください。」
両極端な2人だ。
というかやる気ないならなんで応募したんだ。
「細野光だ。水泳部だ。筋トレが趣味だ。」
「おっ、オレも!」
「オレもだよー!ま、冗談だけど!」
「お前黙れよ。」
先程の熱血と野次青年再び。
「浦冬真です。特に趣味はないけど…みんなと仲良くしたいと思ってるよ。よろしくね。」
胡散臭い天パだ。
「かっ、梶山航一です!よ…よろしくお願いします。僕も皆さんと仲良くなりたいと思っています!」
真面目そうなメガネだ。
「永瀬尚寛だ。ポイント以外でオレと関わんな。」
「えー、何強がっちゃってるの永瀬クン!
オレは日向瑞樹ね!よろしく!」
「おちょくんのも大概にしろよクソガキ!」
「同い年なんだけど〜。はい、次女の子ね!」
襟首掴まれながらも話を振られる。
「岸刹那です。
よろしく。」
「…相原美沙子です。
ゲーム好きでーす。はぁ…。」
「そんなため息ついてると幸せが逃げるよ〜。」
相原は日向を一瞥すると更にため息をつき、無視を決め込む。
「鬼頭真緒です!基本男子苦手なのでうっかり手が出たらごめんなさい!女の子と仲良くしたいです!」
よく応募してきたな。
「はいはーい!一ノ瀬仁奈です!
よろしくねー!」
「加瀬優月で〜す。まぁよろしくね〜。」
「神崎吹雪だ。バカと馴れ合う気はねーからそこんとこよろしく。」
「野呂千明です…。」
それだけ言うと隣を見る。
おどおどしている彼女は一言はないらしい。
「新倉恭子です。よろしくお願いします。
…これで全員ですね。」
ちょうどそのタイミングで全員にメッセージが流れる。明日の試練についてだ。
『明日の試練は小手調べ。ペアは不要です。
今夜、施設の至る所にポイントコードが置かれます。全部で24箇所。1つはすでに自室にあるので明日7時以降にお取り込みください。
スタートは7時からです。参加不参加は自由です。』
なるほど、最初はそう始まるのか。
私は口には出さず、明日のことについて頭の中で作戦を練っていく。
「このゲームも意地汚いよね。初回の試練、参加するか否かで賞金に 目的か、共同生活目的かはっきりしちゃうからね。」
ふと、浦が投げかけた言葉に一同緊張感が走る。
そう、それで警戒されたら元も子もないからだ。
「えー、浦クンそんなこと言っちゃうの?ゲームだし関係なくね?オレは今からコード隠せそうな場所見てくるよ!
ごちそうさま〜。」
そんな空気をぶち壊すように一言言い残すと食堂から出て行ってしまった。なんとも潔い奴だ。しかし、そのおかげか雰囲気も和らぐ。
私も負けてられない、そう思い朝食を片付け出す。
「刹那ちゃん待って〜。」
食堂から1人出ようとすると離れた席の…確か一ノ瀬が私を追いかけてくる。1人になりたいんだけどなと思いつつ、向き直る。
「何か用?」
「この後暇?私、刹那ちゃん見たときビビッと来ちゃって…友達になりたいなー、なんて。ダメかな?」
「……私情報開示はする気ないから。」
「あはは…分かってるって。
でも、ここで生活する間だけでもいいから!ね、ダメかな?」
あまり気乗りしないが、邪険にしすぎてもいけない。ため息をつくとそれを了承の意と捉えたのかやったー!と喜んでいる。
「あ、私本当に一攫千金には興味ないから協力するよ!証拠に明日は自室のポイント以外は取らないよ。見つけたら連絡する!」
「そこまでしなくていいよ。」
「え?そう?」
あざとく首を傾げる。
よろしくね、と私の手を無理やりとるが、そのまっすぐな笑顔に振り払うこともできず、分かったと答えることしかできなかった。
私たちは2人で、敷地内の施設を把握するためにも一通り回ることにした。
まずは近くの体育館、隣接した場所にはテニスコートやバッティングセンター、小さな建物にはプール、その2階には卓球場と柔道場がある。
テニスコートでは浦と辻村、梶山、青島がテニスに興じていた。すでに梶山がバテバテだ。
そのまま横の体育館に移る。
バスケのゴールが4つ並んでおり、ステージには台座のようなものがある。
これ以降の試練ではペアとなり、ゲームから脱落するものが出るということだ。
間違ってもなるまい。
一定の人と仲良くなるのはやめておいた方がいいということだろう。
2階にはトレーニングルームと、コントロール室があるらしい。コントロール室には鍵が掛かっていた。
次に第1校舎へと移動した。
ここは3階建てで教室をはじめ、美術室や被服室が並んでいる。ここからスタートすればコードはたくさん回収できそうだと予想する。
「ねぇ、そろそろお昼だよ!1回食堂戻ろうよ。」
「そうだね…。」
戻ろうとすると、スマホから通知が知らされる。
どうやら一ノ瀬と2時間いたため、ポイントが付与されたらしい。
「ね、交換しよ!初めてのポイント!」
「…そうね。」
私たちはスマホをかざし、ポイントをゲットすると食堂へ向かった。
食堂へ戻るとテニス組に加え、相原、鬼頭、新倉、野呂が賑やかに食事をとっていた。
他のメンバーはいないようだ。
「お、刹那と仁奈じゃん!こっち来いよ〜!」
1番端なのにも関わらず騒がしくする青島が目ざとく私たちを捉えた。一ノ瀬は今いくよ〜とそちらの方に駆けていく。
騒がしいのは苦手だが、仕方あるまい。
「2人は午前中何してたんだ?」
「校舎デート!ねっ!」
「校舎回ってただけ。」
あちゃー!振られた!なんて、青島と一ノ瀬が笑っている。
「もう2人は旧校舎の方も回ったのか?」
「回ってないけど。」
「オレも行ってみたかったんだ!一緒にいいか?」
嫌だなー視線を投げかけてみるも、勝手に一ノ瀬が了承してしまう。
こいつは私の何なんだ。
幸い、他に追従する人物はおらず、午後は3人で回ることになった。
まずは問題の旧校舎。
旧校舎には視聴覚室、ゲームルーム、空き教室、2階には図書館と窓のない小さな部屋が存在した。
ゲームルームにはいつのまにか相原が自分専用スペースを作ってしまっていた。
「美沙子らしいなぁ…。」
「本当にゲーム好きなんだね…。」
関心する2人を他所に隣の空き教室を見ると、そこには日向が1人、床を見ながら歩いていた。
何とも不気味な光景である。観念してドアを開けると彼がドアの方を振り向く。
「あれま、岸サンも探索中〜?」
「アンタも熱心ね。」
「まぁね〜お金欲しいし、ゲーム楽しみたいし。」
良くも悪くも素直な奴だ。
「こんな所の床見てどうしたの?」
「いんやー、旧校舎なんて言うくらいだから隠し通路とかないかなーって。でもないみたいだねー、ザーンネンッて感じかな〜。」
いかにも怪しい。
どこかでそういった場所を見つけたのだろうか。
当日はコイツをマークした方がいいかもしれない。
私の視線が含む感情に気づいたのか、彼は意味深な笑顔を見せる。
「岸サンも、いい意味で、悪い意味で素直だねぇ。」
「どっちよ。」
「どっちも!じゃあオレもう旧校舎見終わったから出てくよーっ!ばいばーい!」
ドアから出ると青島とぶつかりそうになるがヒラリと身を翻し避ける。
「あぶねーだろ!」
「ゴッメーン!でも鈍臭い青島クンの代わりに避けてあげたから許してねーっ!」
青島はこめかみに血管を浮かして怒っている。
人を煽るのが随分と得意な奴らしい。
「何なんだよっアイツ!」
「……青島は、日向が苦手?」
「おー、何考えてるかわかんねーからな…嫌いってわけじゃねーんだが…。」
しかし、その顔は嫌いになりかけている顔だ。
こっちはなんとも分かりやすい奴だ。
一通り見終わり、次は裏庭に出る。
裏庭にはいくつかベンチが置いてあり、そこから新校舎の方へ行くと小さな倉庫がある。外見とは異なり、中は整頓されており、清潔が保たれている。中をざっと見ると物品が所狭しと置いてあり、コードを探すのは一苦労しそうだ。
「コードありそうな所確認できたか?」
「まぁまぁ…。」
一ノ瀬と談笑していたが、私が一通り見終えた所でこちらに話をかけてくる。
意外と空気は読める男らしい。
「例えばどういうところにあるんだろーな?」
「……教えるわけないじゃん。」
ジト目で見ると、青島は手を振って慌てている。
「本気で聞いたわけじゃねーよ!
別にオレそんな賞金興味ねーし…まぁ役立つかもしれねーから交流とかでポイント稼ぎくらいはするけどよー。」
「一ノ瀬も青島も不思議だね…そんなに賞金興味ないのにどうして参加してるの?」
「えー…オレはゲーム自体楽しみてーから来ただけだし…。うち男子校だからこんな感じのノリあんまり無くてよ…。」
「私も友だち作りに来ただけ!」
どちらも嘘をついているようには見えない。
気楽なものだ。
「逆に刹那は何でそんなに賞金に拘るんだ?」
「貧乏なの。大学の費用稼ぎに来ただけ。」
嘘もついてないが、変な同情はされたくない。そう思い、最小限の言葉で表現した。
しかし、返事は返ってこない。
少々不安になり、後ろを振り向くと青島はなぜか泣きそうな、一ノ瀬は驚いたような顔をしていた。
「な「そうだったんだな!オレ、協力するよ!困ったら何でも言ってくれ!」
「そうだよ!私にも言ってね!」
「じゃあ2人でペアになってね。」
「「それはやだ。」」
嫌なんかい。
即答だった。
「だって青島くん好みじゃないしー。」
「オレも、ファーストインプレッション、一ノ瀬の情報開示は必要ないと思った!」
「奇遇だね。」
2人はなぜか火花を散らせているように見えた。
理由は分からないが、関わってもいいことはないだろう。夕食の時間が近づいてきたため、寮へ向かった。騒がしい2人に囲まれながらも夕食をとり終え、自室に戻る。
明日の朝は早い。
こっそり食堂へ向かい、明日の朝食を作る。
この感じだと、皆まだエンジンが掛かっておらず、この試練の穴について気づいていないようだ。
「あれー?岸サンじゃん?
なになに?夜食?太るよ?」
「うおっ!」
「何その野太い声。」
ププーと笑うは厄介な男・日向。
「何やってんの?」
「夜食よ、夜食。」
「へー…。」
そこでニヤッと嫌な笑みを浮かべた。
「明日の7時前に食堂に来なくていいように、準備してるんでしょ?」
その言葉に寒気が走る。
コイツは、試練の穴に気づいている。
「確かに、自室のコードは7時以降に取り込まなきゃいけないけど、他のコードをその時間前に見つけちゃいけないルールはないもんねぇ?」
「……アンタも気づいたんだ。」
「当たり前じゃん。出しぬく穴を、オレは見落とさないよ。」
彼の笑顔が急に抜け落ちる。
何とも、不気味な奴だ。
「ま、でも他の奴は気づいてないみたいだし。
朝ご飯作ってくれるお礼に1つ、教えてあげるよ。オレは明日、旧校舎から回るつもりだよ。」
「何で作る前提になってるのよ…。」
「えーいいじゃん。いけずぅ。」
私はため息をつき、日向の分のおにぎりも作り始める。変な所で借りを作りたくない。
彼がぽかーんとしながら律儀だねぇ、と呟いていたのは聞かなかったことにしよう。
私は、食事を持って、自室に戻る。
無駄な時間を過ごしてしまった。
しかしながら、この空間にいると、学校やら家やら、世間のしがらみから離れた状態にあり、何だか気が抜けそうな感じがしてしまう。
そんなことをしている場合じゃないのに。
シリンダー錠を回し、部屋に閉じこもる。
明日は早い。
慣れない環境に晒され、疲労した身体を洗い流すと私は早々にベッドへと潜り込んだ。