13日目 謝れ青春
13日目。
今日は寝坊してしまった。いつもより時間ギリギリに行くと食堂から揉める声がする。
声の主は辻村と鬼頭だろうか。
出入り口のところには日向と青島、神崎だ。
「あ、おはよー。」
「はよ、刹那。」
他の人の視線は食堂に集まっていた。中心には浦がいた。メンツ的に、野呂の件について追及しているのだろう。
「何があったの?」
「オレも青島クンに呼び出されてきたからあんまり分かんないんだよねー。」
「オイ、お前ら争ってんじゃねーよ!」
「あららー飛び出しちゃったよ。」
青島がいた位置に入ると中が見える。青島に止められた辻村は肩で息をしながら青島をも睨みつける。
「勝は黙ってて。」
「そうです、あなたに限っては今回完全に部外者ですからね!」
「じゃあここで喧嘩すんなよ…。」
ボソッと神崎が正論を言うが私と日向は聞かなかったことにする。確実にヘイトがこちらに向きそうだったからだ。
「とりあえず、何で揉めてんのか話せって!」
「メンツ見て分からねーのかよ。」
永瀬が呆れたように言う。
「そういうことじゃねーよ!試練のことだろ!
じゃなくて、何でここで改めて揉めてんだって話!」
青島がまともなことを言う。
辻村は未だ興奮しているようだが、鬼頭が青島の方に向き直った。
「確かに、黙っているだけなら、空気が重くなるくらいで済んだかもしれません。
でも、コイツは言ったんです。『信頼して裏切られるなんて哀れだな』ってね。
千明さんが振り絞った勇気を馬鹿にしたんです。
許せるわけないじゃないですか!」
鬼頭がものすごい気迫で怒鳴る。
「………まだーーー。」
日向は何かを呟くとその場から去ってしまった。
「…アイツも読めねーよな。」
「そう言えば協力して作ったアレ、貰ったよ。」
「は?」
神崎にカマをかけてみたが首をかしげるのみ。あれは日向の独断で作り、渡したということ。
私がそんなことを考えている間に中はヒートアップしているのだが。浦がこの場から去れば済む話なのだが、動こうとしない。
人狼でいう狂人、いや狐みたいなものか?
的外れな思考をする。
「何で勝は止めるんすか?!浦くんが変なことしなければ全て丸く収まった話なのに!」
「辻村さんの言う通り!私にポイントはもう関係ないから、力尽くでも…!」
「ちょ、真緒!」
「そ、そうです!真緒ちゃん、ダメです!」
相原と新倉に飛びつかれる。さすがに女の子だと力づくとはいかないのだろう、鬼頭も踏みとどまる。
「あーあー。これだから脳筋のおバカさんたちは困るね。」
「……浦は楽しそうだね。」
近くで何食わぬ顔で食事をとっていた橘が言うと浦は愉快そうに笑う。
「ああ、楽しいさ。人が惑う姿を傍観するだけだからな。橘くんは、この状況に動じてないの?」
「まぁ、ここで糾弾したところで話は進まないし。…大声出すのは疲れる。」
「へぇ、橘くんも良ければオレと組むか?」
「嫌だよ。ヘイト集まるし。」
それもそうか、と笑うと食事を終え、浦は去って行った。去り際には加瀬に何か言っていたが加瀬は頷くのみで特にリアクションはしない。
「ちょっと待っ「んもー!いいから、1回落ち着け!」
飛びかかろうとした辻村を青島が抑え込み、座らせる。しばらくすると2人の気分も落ち着いたのか何とかその場の混乱は収まった。
「……迷惑かけてすみませんでした。」
「ごめんなさいっす。」
2人も朝食を経てから暗い雰囲気で謝ってきた。
一方で加瀬は浦のところへ行くと、一ノ瀬や青島の制止を無視して去ってしまった。
「あー、もう気づいたら瑞樹もいねーし!」
「そう言えば、今朝は朝食に声かけたんでしょ?」
「青島くんが?」
私が話を振ると一ノ瀬も怪訝な顔で追撃してくる。青島はバツが悪そうに頭を掻きながらああと肯定する。
「さすがに殴ったのは悪いと思ったし、やっぱり朝食会はみんなでやるべきだと思ったんだよ。だから、謝りがてら誘いに行ったんだ。
ついでに冬真とかにも声かけたんだけど…野呂は無視されたし、きたらきたであんなことになっちまうし…。」
ため息をつきながら理由を話す。辻村と鬼頭にも悪いと謝る。
「何で青島は全員での飯に拘るんだよ?アイツらいると雰囲気悪くなるし呼ばなくていーだろ。」
「バッカ言え!共同生活送る仲間じゃねーか!」
「あんな裏切りしてもそう言えるのかよ。」
「ああ、言える。」
永瀬と神崎の糾弾を受けるが、青島は正面から受けて立つ。このままだとこの3人でも揉めそうな雰囲気であった。
「ちょっと…話はその辺にして、今日はみんな頭を冷やした方がいいよ。」
「そうだな、全員が熱くなりすぎだ。」
私の一言に細野が追従してくれたお陰か、皆納得いかない表情であるもののその場を収めることができた。
「……ありがと、細野。」
「いや、あの雰囲気はオレも気にくわないしな。お前の一言があって助かる。」
そう言い、細野も体育館へと去って行った。大方トレーニングルームだろう。
食堂には私、辻村、鬼頭に加え一ノ瀬、青島が残る形だ。他の皆はそれぞれ好きなところへ…いや、落ち着けるところへ行ってしまった。
誰も話さず、微妙な空気が流れる。
なぜか同席していた一ノ瀬が口火を切った。
「そういえば、2人は揃って刹那ちゃんに用事があったんだよね?」
「ああ、そうです!試練の件、巻き込んでしまったこと謝りたくて!」
「そうっす!忘れてたっす!」
「忘れちゃダメだろ…。」
青島が呆れたように頭を抱える。いや、完全に呆れていた。辻村と鬼頭が揃ってこちらへ押しかけてきたので、私もさすがに慄いてしまう。
「本当…岸さんには迷惑かけた…というか、怖い思いさせちゃったし…。」
「気が回らなくてすみません!
みんな揃って行くべきでした…私、そのリスクについては考えついていたはずなのに…!」
2人が必死に謝ってくる。
でも、私は何かが違うと感じた。私が口を開く前に一ノ瀬が何かを悟ったような表情で呟く。
「それは、2人が悪いわけじゃないよね?それで謝るのは違うんじゃないの?」
「でも…。」
「私たちは全知全能じゃないんだよ?
理想はみんなのことを思いやることだけど、それが16人全員できたら、こんな争い自体元々生まれなかったんじゃーーー」
一ノ瀬の言葉を青島が遮る。
彼女は納得いかないといった眼差しを青島に向けるが青島は決して譲らない。
「仁奈、お前が言うのは違うぞ。今、2人は刹那に話しにきてるんだ。」
「……わかってるよ。」
一ノ瀬の心中を察してか、青島は微笑む。
そして、視線を私に送ってきた。話せ、ということだろう。
「……別に私は2人を恨んでないよ。ハズレ者になるかならないかなんて、運だし。私がなってたら…なんて、想像つかないけど。
少なくとも軟禁した浦と加瀬が直接的には悪いわけだし、さらに言うならばこのゲームの主催側に問題がある。…こういうリスクを想像できなかったのかってことでね。」
話しながら食堂のカメラを睨みつける。果たしてこの台詞が実際に放送されるのかは甚だ謎だが。
「このゲーム、続けなきゃいけないんですよね…。」
「うん、正直降りたくなるっす…。」
「そりゃねーよ。」
「そう。少なくとも自力でこの敷地から出るのは難しいだろうし、それに途中で降りたってこのゲームは終わらない。」
「いや、そーいうことじゃなくてな?」
はて、私の分析に何か誤りはあっただろうか。青島の言葉が分からず首をかしげる。
「みんなで仲間になって、ゲームクリアすんだよ!
主催側はたぶん、最終日までオレ達を残らせない様にしてくんだろ?今までクリアしたゲームねーし!だからオレ達が屈しないところ見せて、最終日まで誰かが残る!そーするしかねーだろ!」
「はー、呆れるくらい前向きだねー。」
「呆れんなよ?!」
仁奈が冗談だよ、と笑い、場の雰囲気も和らぐ。
青島のポジティブさは先程までゲームを降りたがっていた辻村と鬼頭を勇気付ける言葉となったようだ。
「あと、もう1件、相談したくて。」
「野呂のこと?」
2人は頷く。それに関しては私も同じだったからだ。
「私先導するから3人行く?」
「オレはまた別日に先導してもらってもいいっすか?
たぶん女の子だけでいった方が彼女もまだ心というか扉を開いてくれそうな気がするんすけど…。」
「ビビられてた自覚あるんだ。」
「まぁあそこまで露骨に避けられれば…。」
シュン、と落ち込んで小さくなる。
「……亮輔さぁ。」
「何すか?」
青島が辻村に何か耳打ちをしている。ここに私たちがいても生産的に思えなかったので、私たちは一足先に野呂の部屋へ向かうことになった。
一ノ瀬に先導してもらい、私と鬼頭は野呂の部屋に来た。
青島には、私たちが謝ることについて疑問視されたが、私は自分の危機管理能力の無さについて、鬼頭は考えが及んでいながらも他の人に配慮が向いてなかった点について反省し、やはり謝りたいとどちらも譲らなかった。
一ノ瀬がチャイムを鳴らし、ノックする。
そして覗き窓から見えるように3人で立つ。
扉の奥から僅かな物音が聞こえ、急にピタリと止まる。
一ノ瀬は、それをドアの前に移動して来たと判断したのだろう、用件を言い始めた。
「千明ちゃーん。おーはーよー。刹那ちゃんと真緒ちゃんが、話があるって。」
暫くドアは動かない。
一ノ瀬がダメかと感じ、ドアから離れようとした時、僅かに扉は開いた。
「何できたの…?私のことなんかどうでもいいんじゃないの?」
「どうでもいいわけないじゃないですか!」
鬼頭が間を置かず、怒気をはらんだ声で言い返すと野呂は分かりやすく怯える。鬼頭は慌ててフォローしようとするも野呂は扉を閉めて中に入ってしまう。
ガックリと肩を落としていたが、数瞬後、野呂が扉を開く。
「立ち話も何でしょ…。どうぞ…。」
11日目、試練後に糾弾してきた勢いは完全に消失しており、自ら部屋に招き入れてくれた。
彼女の部屋は、窓が開き、外からの風が入ってきている。ずっとこもっていたため、少々散らかっているが数瞬の間に1箇所に纏めたのだろう。
私と鬼頭は床に座る形で部屋に居座る。
野呂はベッドに、一ノ瀬は無遠慮にもデスクチェアに座る。
「何の話をしにきたの…。」
「その、あの……。」
「試練の時のことだよ。」
急に鬼頭の勢いがなくなってしまったため、私が話題について発言する。一ノ瀬は今回は口出しする気は無いようだった。
「あの時…裏切ろうとしている奴の動きに配慮すべきだった。完全に油断してた…ごめん。」
「わ、私もです!…私だって、協力者にどんな危険が及ぶか想像できてたのに。しかも試練の時は自分のことばかりで全然皆さんに配慮がいってなくて…ごめんなさい!」
野呂はそれを聞くとははっと乾いた笑いをこぼす。そして、布団に倒れてしまう。
そのあと聞こえた声は、明らかに笑っているものでなく、すすり泣くような声であったが。
「ごめんね…。
2人が、いや、辻村くんも、悪くないことは分かってるの。2人に謝らせて、完全に八つ当たりだよ…。」
時折、嗚咽が混じりながらも言葉を言い切る。
それから、沈黙とすすり泣く声のみが部屋に響く。痺れを切らしたのは、野呂だった。
起き上がると、真っ赤に腫れた目でこちらを見やる。この数日、ずっと泣いており、ロクに眠れてもいないのだろう。
「ごめんね。
部屋から出よう出ようとは今朝から思ってるんだけど…また、こんな風に明らかに嵌められたり…岸さんみたいに騙されて間接的に裏切られたり…そういうことを想像しただけで震えが止まらなくて…。
もう誰を信用したらいいのか、分からなくて…。
正直、2人…いや、一ノ瀬さんも含めて疑ってる自分もいるの。だから、もう少しだけ、部屋にいさせて欲しい。」
「分かったよ…。」
私たちにはそう言うより他なかった。
ただし食事をもう少し摂るように!と一ノ瀬はやや怒ったような様子で言っていた。それについては、今日の交流で胸の支えが取れたのか、快諾してくれた。
明日からは私と鬼頭も運搬役に入れてもらえそうだった。
「……あと、浦くんと加瀬さんってどうしてるかな。朝食会とか来てる?」
まずは朝食会に、と考えているんだろう。鬼頭は言い淀むものの、しっかり話し始めた。
「朝食会は、知っての通り、青島さんが全員に声を掛けてます。だから、あの2人が綺麗に欠けることは難しいです。
今朝、私と辻村さんが浦さんと喧嘩したので明日はどうなるか分かりませんが。」
「……そっか。」
野呂はその後何か言葉を発しようとしたがやめた。おそらく謝罪か何かだろう。
それからここ数日の状況について簡単に教え、私たちは部屋から出ることとなった。
「そういえば、辻村さんも来て大丈夫ですか?」
「あー…まだ、待ってもらえるかな。私から、行くよ。」
弱々しい笑顔を浮かべながらもはっきり言った、
辻村が謝れるのは意外と近いうちになるだろうか、そんなことを考えつつ外に出ると橘と相原が、ちょうど食事を持ってきたところだった。
「あれ?3人ともどうして?」
「今ちょうど話してて…。」
「お、何で橘くんがお供?」
一ノ瀬の問いに橘はめんどくさそうにしている。質問に対しては相原が答えた。
「や、男子の中で1番無害そうだし、リハビリにいいかと思って…。」
「お昼食べてたら無理矢理…。野呂は元気なんだ?」
「……はい。」
扉から顔だけ覗かせると、橘は遠慮なくその正面まで進んでいき、食事の乗ったプレートを押し付ける。
「いい加減食べて。試練とかでは助けられても、病気とかじゃオレたちは助けられないんだから。」
「え、あ、ありがとう…。」
そう言い切ると橘はさっさと食堂の方は戻って行ってしまった。相原も一言告げるとぱたぱたと橘を追って行く。
その忙しない様子に唖然としながらも、全員どこか毒気の抜けた表情で笑い合った。
そして午後。
特に誰とも約束していなかったが、青島がまた声を掛けてきた。体育館下の捜索のお誘いだった。
一ノ瀬がついて来ようとしていたが、何かあると空気を読んでくれた橘と相原、辻村が引き止めてくれた。
「おし、今日も探すぞ!」
「今日はここの区画ね。」
明日から数日は雨が降るらしい。ここにきて曇りや小雨はあったが、本格的に降るのは初めてだ。
相変わらず体育館下のスペースはジメジメしており気持ち悪い。青島が先導してくれるからまだいいものの、彼は蜘蛛の巣だらけだ。
1時間も探すと青島が1枚紙切れを見つける。
『東24、北8。旧…。』
「何これ?」
「私に聞かないで。」
旧、というと旧校舎のことだろうか。
地下室の出入り口を示す暗号か?しかし、微妙な数字は暗証番号、位置、どちらにせよ合わない気がする。
こういったとき神崎や日向あたりだったらいいアイデアが浮かぶのかもしれないが、2人は果たして信頼していい相手なのかは判別がつかないため、難しい。
「とりあえず収穫あったからポイント交換して戻るか。」
「そうだね。」
2人並んで歩いていると細野と新倉が並んで歩いていた。殺伐としつつも、やはりパーティの影響はあったのだろうか、そんなことをぼんやり考えていると向こうも気づいたのかこちらに駆け寄ってきた。
「青島、頭に蜘蛛の巣ついてるぞ。」
「まじか、とって。」
2人はまるで彼氏彼女のような距離感で接している。細野は何となく、距離感が近くて私はその点のみ苦手だった。
「また土汚れですか?」
「そう。私たち結構やんちゃだから。」
「何ですかそれ。」
新倉はクスクスお上品に笑う。
「新倉たちはデート?」
「そっ、そんな訳、ある訳ないじゃないですか!」
「いっ!」
背中を勢いよく叩かれむせる。
私たちの異変に驚いたのか2人もこちらを見、新倉は思ったより強く叩いてしまったことに慌てているようだった。
「何でもないです!」
取り繕うように新倉は手を横に振る。私も大丈夫だったので頷いてみせた。
「なぁ青島。1つ聞いてもいいか?」
「ん?」
細野が神妙な面持ちで尋ねてくる。
「オレ、お前のこと見たことあるんだが…サッカーの、いっ!」
珍しい、細野の大きな声。
どうやらNGだったらしく電流が流れたらしい。
にしても、サッカーの、の一言で警告が出るということは余程の有名人なのか?私には分からなかった。私はメディアに疎く、スポーツ界で有名な人など知らない。
しかし、有名だとしたら新倉のように他の皆から特定されてもおかしくないはずだ。
気づくのが、細野のみというのも気になるところ。
「あー、何かオレの判定、かなりシビアみたいなんだよな。それに、可能であれば、知らないでほしい。」
「……え?」
全ての情報を発信してきた青島が微妙な表情をしながらそう告げる。
私も、細野も、新倉も皆固まる。
「……別にお前らに何か損になるようなことはねーよ。ただ、俺が知られたくなくてな。」
「…信じていいのか?」
「ああ。」
細野は無表情ながらも明らさまに警戒している一方で新倉は戸惑っているように見えた。
私は、この状況だからこそ、そんなことを言える青島を疑う気にはなれなかった。
「じゃ、オレも刹那も土汚れだから1回戻るな!」
「あ、うん。」
新倉が返事すると、青島はさっさと部屋に戻ってしまった。
風呂に入り、うとうとしながらも夕食を摂るために食堂に出た。
外からは雨の音が響いている。ここにきて初めての雨でないだろうか。
野呂の件も、とりあえずは一山越えた感じがあり、疲労が明らかに出てきていた。
「お、岸か。眠そうだな。」
「あぁ…神崎…。しばらくぶり。」
そういえば、と眠気眼のまま神崎に話しかける。
神崎はわざわざこちらに寄ってきてくれた。またはそれほどに私の声に覇気がなかったのだろうか。
「明日、時間あったらちょっといい?気になることがあって。」
「あ?別にいいけど。オイ、お前ふらついてるけど大丈夫かよ?」
「………大丈夫。」
「嘘つけ!大丈夫じゃねーだろ!」
神崎がバタバタしながらついてきてくれる音がする。ちなみに食堂に行ったところまでは覚えているがその後のことはいまいち覚えてなかった。
「オイ、岸のやつ大丈夫かよ?」
「ダメっぽいな。」
言葉を返す気力はないが、永瀬と神崎が淡々と会話する様子は聞こえた。
「仲直りしたみたいだよ、真緒も。…辻村はまだみたいだけど。」
「良かったね。結構心配だったもんね。」
相原と梶山もいるらしい。足音的には4人だろう。
「…そういえば、青島くんにも会ったんだけど何か元気なかったよね。」
……青島が?
「そうなの?」
「うん、そんな気がした。」
「あー、確かに空元気って感じだったよな。ま、オレにはどうしようもねーけど。」
「冷たいな。似た者同士のくせにな。」
コップを置く音がした。
「似てねーよ!」
「僕も似てると思うけど。」
「マジで似てねーって!どっちかってーと、あのクソガキの方が似てるだろ!」
「「ない!!!」」
永瀬の意見は神崎と梶山に一蹴されていた。そこで私の目の前に食事が届き、相原に起こされる。
「……刹那って寝汚いね。」
腹が立ったので頰を捻っておいた。
私にとってはやけに長い13日目であった。
だが、とある人物たちにとって、長い日々が始まった、いや始まっていたことは私たちに知る由はないのだ。




