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Money × friend -只今放送中!-  作者: ぼんばん
試練2 三竦みに石を投じる
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10日目 信頼の果てに

私は嫌いです。




人を見かけで判断する人


能力だけで人の価値を決める人


全てが中途半端な人


目の前の戦いから逃げる人




自分でも笑っちゃうくらい嫌いな人はたくさん。


だからこそ、自分はそうならないようにしようって。

この異常なゲームでそれだけは失わないようにって。


自分の背中を叩く。

進め、進め、怖がるなって。

彼はもっと怖かったんだ。



ドアノブを握れない。

恐怖で手が震える。



そういえば、彼の手も震えていた。



言葉も、笑顔も、全部、全部信じられなかった。



でも、あの震えなら信じていいと思った。




だから、私はこの扉を開いたんだ。

昨日の今日。

もしかして朝食会は開かれないのではないかと懸念していた。

その嫌な予感は当たらずとも遠からず、人数が大分少ない朝食会となった。



「あ、おはよ。」


「岸サンおはよー!」



ちびっ子2人は相変わらずゲーム片手に食堂にいるのだ。

昨日の表情を見た限り、日向は来ないのではないかと思っていたため拍子抜けだった。



「あれあれ、その顔はオレが朝食会来ないと思ってた?ざーんねん来まーす!」


「………。」


「そんな露骨にうざいな〜って顔しないでくれる?」



乾いた笑いを漏らすとゲームを置いてこちらを笑顔で見やる。



「オレも提案を受け入れてもらえなくて残念だったし、人間だからね、不安だったけど嫌な時はこのアホなお顔を見て元気出そうと思ってね。」


「あ、アホって私のこと?!」



会話の途中に頭を撫でられた相原は自分のことを指していることに気づき憤慨している。

日向に至ってはその怒りでさえも嬉しそうだ。


この時間帯の日向は本当に人畜無害だなぁと改めて思いつつ朝食を注文する。

かの日向はゲームを片付けに行ってしまった。


ゲームをしまってしまったら急に人が変わるんだから相原のようにずっとゲーム片手にしていればいいのに。先に出された紅茶を飲みながらそんな余計なことを考える。


暇になったらしい相原は、こちらに寄って来た。

荷物を置きっぱなしのあたり、完全に席を変える気はないらしい。



「朝、いつも真緒ちゃんや細野くん、出てきてないんだよね。…やっぱり昨日のことがあったからかなぁ?」


「…そうだね。ダミーだったとしても賞金狙ってる人らにしたら欲との戦いだし、狙ってない人だって、自分の役割について迷ってるだろうし。」


「そっか…。」



その後、青島と日向がほぼ同時に戻ってきたものの、2人に会話はなかった。

その様子を見やった相原は日向の方は戻って行く。いささか驚いたような顔をしていたが、昨日のような厳しい顔をしていた。


その後出てきたのは、永瀬、神崎、浦、加瀬だ。

遅れてやや青い顔の一ノ瀬とクマを浮かべた辻村がやってきた。

橘は全員が集合していないことを認めるとさっさと部屋に戻ってしまった。



「え、何で相原サンついてくるの?」


「え。」



会話の少ない朝食後、日向が去ろうとすると相原もついていこうとしたため、そのような会話が成された。

ちょうど私も朝食を片付けようとして、キッチンに入ったため、たまたま出くわしてしまった。



「だって…日向1人で行こうとしたよね?」


「うん。」


「今日1人でいるの…心細くない?」


「いや、オレダミーだから全く。

…相原サン心細いならそこで暇そーにしてる岸サンに構ってもらいなよ。オレ暇じゃないからさー!」



え、え、と相原が戸惑っているうちに彼女は私に押し付けられる。何というとばっちりか。



「ねぇ、明日も、明後日も、ゲームやってくれるよね!」


「はぁ?…別にいいけど。どうしちゃったの?今日熱あるんじゃない?」


「ないよ!忙しいなら早く用事済ませてきなよ!」



はいはい、と言うと手をヒラリと一振りし、屋外に出て行ってしまった。



「……相原さ、何でそんなに日向に構うの?

アイツ1人でも大丈夫なタイプだと思うけど。」



それは純粋な疑問だと思った。確かにゲームの好みが合うとはいえ、毎日嫌味や冗談を言ってくる相手と居続ける。

しかも、よりにもよって日向だ。

相原は相原で、鬼頭や野呂、青島や梶山、橘とも仲が良いはず。




「……日向は、頭もいいし、嫌な奴だし、ライバルだけど、敵ではないもん。」



私は意味がわからず首をかしげる。



「刹那は、青島と仁奈がいるから気づいてないだけだよ。」



その後、相原が呟いた言葉は私には届かなかった。ただ、後々その言葉の意味に気づく日が来るとはこの当時思ってもいなかったのだが。


神崎はいつの間にか部屋に戻ってしまったが、一ノ瀬は青い顔をしつつ食堂に残っていた。

声をかけ、せめて監視の少ない中庭で過ごすことになった。


一応、部屋にいたメンバーにも声をかけたが、丁重にお断りされるか、無視であった。

男子は見やると皆単独行動をしている人が多いようだ。


1番心に不安を抱えているだろう辻村はハズレ者の人が声をかけにくいだろうからと言って、1人部屋に残るようだ。

青島は心配そうにしていたが、数日の我慢だからと笑顔を貼り付けていた。

下手な笑顔だ。


浦は動じておらず、1人図書館で読書を嗜んでいる。橘はハンモックの場所で爆睡。意外や意外、細野もその場にはいるようだった。

青島と永瀬は梶山の慰めに躍起しているらしい。

日向と加瀬は、完全に所在不明だった。




中庭でトランプとなると風が吹くために飛んでしまったり、途中から橘と細野が混ざったりと、辻村には悪いがそれなり気分転換になった。

どこか落ち着かない感覚のまま時間は過ぎ、夜がやってきた。


何となく眠れず、夜11時頃。

通知があり、スマホを覗くと浦から全体にメッセージだ。それは朝食会を無しにしようと言った旨。

理由は今朝のようなことがあってもお互い神経質になるだろうということだった。

一部の者の懇願もあり、明日は朝食会は無しとなった。


なるべく皆時間まで部屋で過ごそう、ということになった。


既読数は全員分ついているあたり、発言していない者も確認はしているのだろう。

私は眠りに落ちようとした。



その時、出入り口から控えめなノックの音がした。

こんな時間に、誰だろうと思いつつ、覗き穴から見ると、今日は一切姿を見かけなかった野呂が随分と暗い顔で佇んでいた。慌ててブレスレットをつけてドアを開ける。



「どうしたの…。」


「夜遅くにごめんなさい…。相談したいことがあって…。」


「……入れば。」



私はすぐに察した。

野呂は、「ハズレ者」であると。

こんな顔他の人に見られたらすぐにバレるだろう。彼女は引きこもって正解だ。

そのことを指摘すると彼女は泣き崩れた。


不安と苦しさと、暴かれたことによる安心感からか、へたり込んで泣いている。


なぜ私を選んだのかは分からなかったが、不器用ながらも肩を寄せ、背中をさすってやる。

妹や弟にやっていたような感覚で。




「岸さん、お姉ちゃんでしょ。」



一頻り泣くと落ち着いたのか微笑みながらそう言ってきた。



「よくわかったね。」


「ふふ…あやし方上手だもの。」



そう言いながらスマホの通知画面を起動し、こちらに向けてくる。

そこには辻村が掲げた「ハズレ者」を示す画面。



「……何で私に?」


「辻村くんが信用できなかったから。」



即答だった。

元々気弱な野呂にとっては特に人選に気をつけなければならなかったらしい。

下手に中途半端な気の許し方をすると、自分が裏切ってしまいそうになると。




「でも、何で私?」


「岸さん、ゲームは強いけど、嘘吐けなそうだから。

私には誰がハズレ者かなんて分からなかった。でも、辻村くんがいった言葉、『信じることが怖くないってことを体験するのが大事』っていうことは、真だなって思ったの。」




その目は迷いながらも、もう決意したという表情だった。

野呂には、それを依頼した相手が大幅得点により孤立してしまう可能性があるということ。

しかし、岸の周囲には彼女を信じてくれる人々がいるということも同時に理解していた。

だから、大丈夫だと。




「……分かった。」


「ありがとう…。」



ホッとした表情になり、微笑む。



「別に裏切っても絶望しないから。」

「何それプレッシャー?」



冗談っぽく切り返すと本気だよ、と笑いながら返してくるあたり本音半分冗談半分だろう。



「地味に気になったんだけど、ペアどうなったかとか知ってる?」


「いや、聞いてないな。」


「そっか…、出来てるのか不安なんだよね。」


「朝モニター連絡あるから行かないといけないことには変わりないと思うんだけど。朝食会無しになるんだよね。」


「浦くん時々よく分からないんだよね…。」



野呂も浦を疑っている様子だ。



「明日は朝食行くの?」


「うん…怪しまれそうだし…。岸さんはいつもの時間?」


「まぁ。」


「私もいつもの時間に行こうかな…。それならあの2人もいるだろうしね。」



そして、今日のみんなの様子を一通り話すと、思っていたより論争などが起こっていなかったことに安心したのか、来た時に比べて幾分か落ち着いた表情で戻っていった。


私も思ったより安定していたことに安心し、今度こそベッドへと戻った。





まさか、部屋の外でその様子を見ている人間がいるなんて、思ってもいなかった。



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