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005 スライムに転生したので 1

 死んだと思ったらスライムになっていた。


 某有名RPGに出てくるような丸っこいのじゃなくて、透明でドロッとした方。

 真ん中辺りに細胞核みたいなのがあるアメーバっぽいやつだ。

 で、どこかの森みたいなところにいる。


 人間だった頃の記憶があるのも謎だが、自分が今いる場所が元いた世界とは違うということを何故か理解しているのもよく分からない。

 誰かに聞いたような気がしないでもないが、それはそれで妙な話だ。

 とにかくここは魔物がいて魔法もある、ファンタジーな世界らしい。


 現にさっき、いかにもゴブリンですという感じの小柄で嫌らしそうな二足歩行生物を見た。

 キョロキョロと辺りを見回している割には、足元にいる俺に気付きもせずに通り過ぎていったのだ。

 現実世界にあんなモノはいないだろう。

 いや、そもそも(スライム)がいるという時点で、元の世界のはずがないか。


 しかし、今はそんなことはどうでもいい。

 スライムと言えばアレだ、可愛い女の子の服を溶かしてナンボだろう。

 そしてえっちなイタズラをするのだ。

 少なくとも俺が読んだ覚えのあるマンガでは一つの例外も無くそうだった。


 つまり、それが俺の存在理由(レーゾンデートル)

 スライムとして生を受けたからにはその使命を果たさねばならない。

 恥ずかしがる女の子にあんなことやこんなことをするのだ。

 うん、いいね!


 そう決めたところで何やら空腹感のようなものを感じた。

 粘液状の身体で空腹も何もないだろうが感じるものは感じるのだ。

 これも人間としての記憶や知識があるからなのかも知れない。

 とりあえず俺は本能の求めるところに従い、身体を薄く延ばして地面の上に広げた。


 それが自分で分かるのもどうかと思うが、スライムには「変形」やら「溶解」やら「吸収」やらの能力があるらしい。

 「情報」というのもあるようが、とりあえず今は関係無さそうだ。

 とにかく、これらの能力によって自分の身体を変形させて獲物を捕らえ、溶かして吸収することで養分を得る。

 それが生きていくための基本的な行動ということだ。

 今やっているのは、上を通りかかった獲物を捕らえようという待ち伏せ作戦である。


 ただ、身体の中にある細胞核みたいな丸いのをやられると死んでしまうようだ。

 待ち伏せはいいが、うっかり踏まれたりすると困る。

 そこで、下の落ち葉や地面をちょっと溶かして穴を作り、核のある部分ははそこへ隠しておくことにした。

 くくく、これが人間の知恵というものだ。

 よし、これで大丈夫。


 しばらくするとさっき見かけたやつらしいゴブリンが戻って来た。

 やはりキョロキョロしているところを見ると、どうやら仲間とはぐれて迷っているようだ。

 相変わらず俺には気付いていないらしいな。

 広がった俺の真ん中までノコノコと進んだところでサッと風呂敷で包むようにして捕まえる。


「ゴギャ!? ……グブブッ」


 驚いたような声を上げたので伸ばした身体を鼻と口に突っ込んでやると静かになった。

 普通のスライムがそんなことを知っているのかどうかは分からないが、俺には人間の知識がある。

 肺で呼吸する生き物は息を止めてやれば大抵死ぬのだ。

 しばらくもがいていたそれはじきに動かなくなった。


 この辺はスライムの感覚なのか、特に嫌悪感も罪悪感も無い。

 あるのはこれは喰えると感じる本能的な欲望だけだ。

 俺は人間を辞めたぞ、○ョジョ!

 ……まあスライムだけどな。


 溶かして吸収すると、少し腹が満ちたような気がする。

 同時に「二足歩行」だの「皮膚」だのという能力が手に入ったことが何故か分かった。

 それどころか、ゴブリンの身体構造やら何やらの情報が頭――どこが自分の頭なのかはよく分からないが――に流れ込んでくる。


 能力獲得に身体構造を把握って何だ。

 ああ、構造把握の方は「情報」っていう能力のおかげなのか。

 何にせよ、便利とかすごいとかいうレベルじゃない気がするんだが。

 チートだ、チート。


 いや、待てよ。

 スライムの能力は「吸収」……。

 これ、もしかして相手の能力も一緒に「吸収」してるんだろうか。

 それに相手の構造や情報を知るということは、溶解や吸収を効果的効率的に行えるようになるということじゃないか。

 そう考えるとスライムの能力としてはおかしくないような気もする。


 うーん、よく分からないが、とりあえず今考えてもどうにもならない。

 だが、役に立ちそうだということだけは確かだ。

 よりスムーズに女の子の服を溶かしてえっちなイタズラをするためには、能力は多い方がいいに決まっているし、いろんなものの構造が分かるなら応用も利くだろう。

 もらえるものは有難くもらっておくことにしよう。


 とは言え、こんなゴブリンがいるような森に可愛い女の子が来るんだろうか。

 いやいや、チャンスはいつ訪れるか分からない。

 来たるべき日のために腹を満たして能力も情報も増やす。

 うん、当面この方針で行こう。


 ◇


 あれから何日か経った。

 普通に日が昇って沈むので間違ってはいないだろう。

 その間、植物を始め、有機物、無機物と、好き嫌いせずに目に付いたものを片っ端から吸収していった結果、結構な種類の能力や情報が手に入った。

 ついでに分かったことは、手に入れた能力は任意に使い分けられるということ。


 もっともこれは考えてみれば当たり前だ。

 石ころを吸収して得た「ガラス質」やら「鉄」やらが常に発動していたら、スライムとしては不都合極まりない。

 スライムは透明でドロッとしていてこそスライムなのだ。

 でないと捕まえた女の子に(まと)わりついて服を溶かせないじゃないか。


 そもそも、元から持っていた「溶解」や「吸収」だって意識せずに使い分けていたのだ。

 そうでないと自分がいるその場の地面をどんどん溶かして沈んでいってしまう。

 ここの構造が地球と同じなのかどうかまでは知らないが、地下深く沈んだ挙句マグマにぶち当たって焼け死ぬのは御免だ。

 まだ一人の女の子の服も溶かしていないというのに、それでは本末転倒もいいところだろう。


 さて、せっかく獲得した能力だ。

 吸収の合間にもっとうまく使えるよう、いろいろ練習してみることにする。

 そうしてさらに何日か経つ頃には、身体の一部だけをガラスや金属のようにしたり、足を生やして歩いたりできるようになった。

 二足歩行するスライムとか我ながらシュールだな。

 しかも胴体は透明でドロッとしたスライムのままだし。


 だが、この二足歩行はとても優れた能力だった。

 ズルズルと這い進むだけだったこれまでと比べて、移動速度が格段に上がったのだ。

 最初にゴブリンを吸収できたのがラッキーだったのだろう。

 これなら今までは無理だった獲物も捕まえられる。

 早速、こないだは逃げられたヘビを発見した。


 そっと忍び足で近付いて、先端を(もり)のように尖らせた身体の一部をシュッと伸ばして撃ち込む。

 ちゃんと返しも作ってあるから刺さってしまえばこちらのものだ。

 暴れたってもうダメだよヘビ君、(あきら)(たま)え。

 そのままズルズルと引き寄せて包み込む。

 吸収すると「出血毒」やら「蛇鱗」やらの能力が手に入った。


 こうしてまた獲物を捕まえては吸収、というのを繰り返しているうちに素晴らしい能力を手に入れた。

 のんびりと地面を(つい)ばんでいたハトみたいな鳥を捕まえて得た「飛行」である。


 ただし、これは二足歩行ほど簡単にはいかなかった。

 歩くのは人間だった時の感覚を思い出せばよかったんだが、さすがに自前の翼で空を飛んだ経験などない。

 「飛行」と一緒に手に入った「羽毛」を生やしてみたり、身体の形を鳥に近づけてみたりと試行錯誤する。

 木に這い登っては枝の上で鳥の形に変形して、飛び降りながら羽ばたく練習を繰り返し、ようやく少しは飛べるようになった。


 せいぜいヘロヘロといったところだが飛行は飛行である。

 なるべく高い枝から飛び立った俺は、うおりゃーっと精一杯羽ばたいて高度を上げていく。

 生い茂る枝の間を抜け、木の高さを越えると一気に視界が開けた。

 見下ろせば辺りは木、木、木で、正に森である。

 俺が生まれた森はかなりでかかったらしい。


 周りを見渡してみると、一方は両側に高い山が切り立った谷のような形で、その奥へと深い森が続いていた。

 反対側に目を――いや、そんなものは無いんだが見えているからいいのだ――向けると、森が途切れた先には草原らしきものが広がっている。

 そこに道らしき筋が通り、そのさらに先に建物か壁のようなものがあるのが小さく見えた。

 今のところ森の中で人を見掛けたことが無かったので近くにはいないのかと思っていたが、案外そうでもないみたいだな。


 くくく。

 きっとあそこに、俺が服を溶かしてえっちなイタズラをするべき女の子がいるのだ。


 パタパタと羽ばたきながらほくそ笑んでいると、突然ガツンと衝撃が来て俺の胴体に何か尖ったものが何本も突き立った。

お待たせしまして申し訳ありません。


誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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