001 姫騎士ちゃん 1
「くっ、殺せ!」
姫騎士ちゃんが叫ぶ。
最早勝敗は決した。
オリハルコン製だという細剣は俺に弾き飛ばされて床に転がっているし、ミスリルの輝きを放つ板金鎧に守られたその身体には長く伸びた俺自身がウネウネと纏わり付いている。
姫騎士ちゃんが自由に動かせるところなど、もうほとんど残っていない。
「こ、殺せ!」
唯一動かせる首を振りたてて、姫騎士ちゃんがまた叫んだ。
殺すわけがないじゃないか。
お楽しみはこれからだというのに。
その叫びに返事をするように、俺は巻きつけた身体をプルプルと震わせる。
「ひっ!」
これから何が起きるのか察したのだろう。
姫騎士ちゃんはビクリとして短く悲鳴を上げた。
それは俺のやる気を弥が上にも盛り上げてくれる。
さあ、えっちなイタズラを始めよう。
そのためにこそ、俺はここにいるのだから。
◇
まずは姫騎士ちゃんの首から下に巻きついて自由を奪っている俺の粘液状の身体を、さらに顔の方へと伸ばしていく。
イヤイヤをするように首を振ってそれを阻もうとする姫騎士ちゃん。
だが、そんなもの抵抗の内にも入らない。
触手のように細く伸ばした身体の先であごのラインをツツッとなぞってあげる。
「んあぁっ!」
いい声で啼いた姫騎士ちゃんは、それから逃れるように首を反らせた。
鳥の翼の意匠が施された華麗な兜がはばたくように揺れ、白くほっそりした喉元が露になる。
まるで外してくれと言わんばかりに兜の留め金が差し出されたので、そこへ触手を伸ばした。
「あ、やっ!」
今さらあわててあごを引いたって手遅れだ。
パチリと留め金がはずれると、あごを引いた勢いで頭から兜がずり落ちて、隠されていた見事な金髪がパサリと広がった。
現れた顔は美しく整っていて、勝気そうな碧眼と相まって正に姫騎士という風情だ。
その瞳にわずかに浮かんだ涙にまたそそられる。
おっと。
俺は身体の一部をさっと伸ばして、落ちていく兜を受け止めた。
折角きれいな兜なのに、石の床に落としたら傷が付いてしまうじゃないか。
受け止めたそれを、すぐ脇にある四角い石の台の上にそっと載せる。
コトリという音にそちらに目を向けた姫騎士ちゃんは、置かれた兜を見て悔しそうに唇を噛む。
唇の端に一筋だけ掛かった後れ毛がその表情に妖しい色を添える。
うん、いいね!
でもまだ、始まったばかり。
兜を置いた俺は、半ば俺に包み込まれた姫騎士ちゃんの身体に意識を戻す。
機動性を重視しているのか、それとも姫騎士ちゃんの筋力を考慮した結果なのか、彼女の板金鎧はいわゆる部分鎧だ。
二の腕や太股部分は板金に覆われておらず、そこは肩や腰のパーツでフォローする形になっている。
とは言っても、もちろん素肌を曝しているわけではなく、そこも鎧下の分厚い布地に包まれていた。
俺は透明な身体をぶるりと震わせて、姫騎士ちゃんごと身体の向きを少し変えた。
姫騎士ちゃんがまた「ひっ」とか声を上げるが、まだ特に何かしたわけではない。
平らでピカピカになっている壁の方に向き直っただけだ。
この壁は磨き上げられた鏡みたいに何でもよく映るから、これで姫騎士ちゃんにも自分がどうなっていくかよく見えるだろう。
もちろん俺もよく見えるようになるから一挙両得だ。
鑑賞する体勢を整えたところで、俺は姫騎士ちゃんの部分鎧のパーツを一つずつ外し始めた。
肩当て、籠手、脛当て、腰当て、胸当て。
パチリ、パチリ、と留め金がはずれる音がする度に、姫騎士ちゃんが「ひぃ」とか「やぁ」とか「殺せ」とか声を上げて雰囲気を盛り上げてくれる。
姫騎士ちゃんは何とか抵抗しようと力を込めて暴れているつもりだろうが、粘っこい俺の身体の中ではろくすっぽ動いていない。
逆にパーツを外すために時々俺がポーズを変えさせるので、本人の意思とは無関係に万歳させられたり脚を伸ばされたりしている。
外したパーツはさっき置いた兜の隣に、きちんと揃えて並べていく。
もちろん、転がっていた細剣もちゃんと拾って汚れを落とし、鞘に仕舞って一緒に並べた。
置かれた物が増えていく度に、それを見た姫騎士ちゃんの表情が悔しさから別のものへと少しずつ変わっていく様子が見ていて心地良い。
最後に金属板の補強が入った革ブーツを、爪の形がきれいな足からズルリと引き抜いてそこへ置く。
台の上は手前の角に少しだけ余白を残して姫騎士ちゃんが身に着けていた物で埋まった。
武器や防具が整然と並んでいる様は、商品見本かあるいは何かの標本のようだ。
一方、鎧を剥ぎ取られた上に足元は裸足という格好になった姫騎士ちゃんも、俺に巻き付かれて立ち姿のまま中空に縫い止められているのでどこか標本っぽい。
少し野暮ったい鎧下姿が何となく昆虫のサナギを思わせる。
さあ、今からが本番だ。
サナギの皮を剥いて蝶にしてあげねば。
「くっ、こ、殺せぇ!」
よく見えるように両腕を身体の後ろに回させると、姫騎士ちゃんが泣きそうな声で叫んだ。
だから殺さないというのに。
まあ、「死ぬ死ぬ、死んじゃうぅぅう!」とか言い出したら、その時にはちゃんととどめを刺してあげるから。
さて、今までのヒンヤリした身体のままでは姫騎士ちゃんが風邪を引いてしまうかも知れない。
巻きつくために大蛇のように伸びていた身体を一塊の粘液に戻して、どぷりと姫騎士ちゃんを丸ごと包み込む。
顔以外の全身をくまなく覆い尽くしたところで、俺は身体の温度を上げ始めた。
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