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子猫0001

多重世界、パラレルワールドや異世界っと言う言葉を聞いたことはあるだろうか?

此処ではない、今ではない、そんな別の世界が存在するという…


そんな世界の1つには科学では説明できない不思議な世界も存在する。

その世界には神や悪魔が実在し、神や悪魔の力を模した技が用いられているのだとか。


そんな世界へと天より雫が垂れるように力が地へと(もたら)され、地へと吸い込まれて行った。

それは天界より現界へと齎された試練の場を与える光である。


ダンジョン。


魔界より齎された場合は人々を害する悪意の施設となるそれは、天界より齎された場合は人々を鍛える試練の場と化すのだと言う。

そんな天界より齎された試練の場たるダンジョンが、また1つ現界へと生まれようとしていた。


天より齎された輝きは吸い込まれた地下にて弾けダンジョンの基幹たるダンジョン・コア・ルームなる部屋へと変わる。

そこはレンガのようにブロック状に削り出された石材が組まれ造られた床に壁、天井に囲まれた8畳ほどの部屋である。

中央には球状の物体が浮き、虹色の淡い輝きを放っていた。


部屋の隅には木製のベッドが据えられおり、敷布団の上へは掛け布団が掛けられ、大きめの枕が据えられている。

ベッドの反対側へは木製の机と椅子がセットにて設置されており、机の上には燭台と羊皮紙が置かれていた。


そんなコアルームに据えられたベッドの枕の位置にて何かが輝いた後、中央の球体たるダンジョンコア近くが輝き始める。

その輝きが終息した後、そこには1柱の天使の姿が浮かんでいるのだった。


「ふぅ、アルスラーナ様も行き成りダンジョンのナビゲータを遣れって強制するなんて酷いや!

 まぁ天界人を増やすためにもダンジョンの試練は必要だから仕方ないって話だしねぇ。


 っと、マスターを放ってちゃダメだね、僕。

 マスター済みませんでしたね、僕は此処のダンジョン担当を申し付かったダンジョン・ナビゲータのタルノと申します」


現れた早々に愚痴を呟いて自分の世界へと入っていた天使が気を取り直して挨拶を告げるのだが…


「あ、あれ?マスター?何処に…変だなぁ、居ない筈はないし隠れてるのかな?

 結構シャイな人がダンジョンマスターに選ばれたんだねぇ」

そんな事を呟きつつ、天使タルノが辺りを見渡している。


彼の身姿なのだが、一言で告げるとキューピットのような赤子に翼を持つタイプの天使である。

ウェーブの掛かったプラチナブロンドの髪を持ちサファイアブルーの瞳を持つ幼く愛らしい容姿をした美幼児だ。

絹の様な一枚布を纏い露出を一応は押さえてはいるが、その筋の方々にとっては御褒美としかならぬであろう。

隔離空間であることが幸いと言えるか。


そんな愛くるしい天使タルノがキョトキョトと辺りを不思議そうに小首を傾げながら見渡している姿は癒されると言えよう。

だが彼が幾ら見渡そうと、対象たる者であるマスターに相当する姿は見当たらなかった。


狭い部屋にて隠れる場所も限られているのだが、四足ベッド下を覗いても姿はないし机の下も無論確認した。

ベッドの掛け布を捲り確認したが姿はない。

厚さの限られる敷布へと紛れるなど不可能だと言えよう。


「えっ!本当にマスターが居ないのぉっ!そんなぁ~」っとショックを受けるタルノがオロオロと狼狽えていると、ベッドの枕元にて何やら動く気配が!

それに気付いたタルノが驚きつつ枕元を見詰めていると、枕の下からチョコンと子猫の頭が現れたではないかっ!


「あれ?猫の獣人?おかしいなぁ~この度は別世界の日本と言う国から召喚したマスターだと聞いたのだのだけれども???」

首を傾げるタルノ。


この別世界へと存在する日本と言う国ではサブカルチャーと言う物が盛んであり、途轍もない想像力を働かせる者が住まうという。

そんな彼等の想像力を当てにした召喚が頻繁に行われており、この度も日本よりの召喚者をマスターとしたらしいのだが…


「可笑しいなぁ、厨二病と言う病に侵され易い中二という者を召喚するって聞いてたんだけど…中二って言う獣人だったのかな?

 でも日本には獣人は暮してないって話だったんだけどなぁ…」

そんな風にブツブツと告げているタルノは、気を取り直して猫の獣人と思われる者へと話し掛けることとしたようだ。


「あの~始めましてマスター、僕はマスターを補佐するために天界より遣わされた天使のタルノと言います。

 ダンジョン・ナビゲータとしてシッカリサポートいたしますから、よろしくお願いしますね。

 って、聞いてます?マスター?」


タルノが話し掛けても反応がヤケに薄い猫獣人に対し訝しく思いつつベッドへと近付き枕を剥ぐってみると…白い子猫様が居られましたとさ。


余りの事態に固まるタルノ、マスターは猫獣人どころか猫、それも子猫だったのだから当たり前である。

いや、枕の下へと収まるほどに小さな者と言うことで違和感は感じてはいたようだが、半ば現実逃避気味に理解を拒否していたタルノ。

だが現実は容赦しないようで…


「な、ななななっ、なんで、猫?

 いや、選ばれたのだから優秀な方に違いないよね?だよね?

 だから聞いて下さいよ、マスター。僕が一生懸命ナビゲートしてさしあげますから…って、無理?」


当たり前である。


「そう…だ、よ、ねぇ…ってぇっ!子猫にダンジョンマスターができるかぁぁぁっ!」っと、キレるタルノだった。


これだから最近の若い者は、ふぅ。

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