もしも
もしも
「もし僕が、25歳で死んだらどう思う?」
私はここで答えに詰まる。
それから、これはきっといつもの冗談なんだろうな、と解釈して答える。
「やめてよ、死ぬなら私が35歳になってからにしてよね」
意地悪そうな顔が近づいて、私の柔らかい部分に口づける。温かみが伝わって、それから、またからかわれちゃったな、なんてぼんやりと思う。
彼の仮定のお話は続く。
「もし、今僕が何かしらの病気を持っていて、来年の2月に死んでしまったらどう思う?」
私は首を傾ける。
「なにそれ…2月の意味は?」
「特にないよ」
「そう。死ぬ前には教えてくれる?」
彼は答える。
「君には教えないと思うよ」
その答えに、少し血の気が引いたような気がした。
「それは困る」
「なんでさ」
「急にいなくなられたら、私どうしていいかわかんないから」
「…ふーん…?」
なんとなく、わかったようなわかっていないような曖昧な声を発して、でもどことなく嬉しそうな表情を浮かべて、彼は歩く。
私はその隣をついて行く。
いつ死ぬかわからない彼の隣を。
手を繋いで。
「私、200歳生きるの」
「嘘」
「ほんとう」
彼の顔を見ないまま、言う。
これはきっと私なりの意地なのだけれど。
からかわれたお返し。
「200歳も生きて何するの?」
「ひっそり暮らす」
「…楽しい?」
「楽しくない。あなたがいてくれないと楽しくない」
「そォ」
彼の表情はわからない。
握る手の温度も、力の強さも、変わらない。
「なんで…くれないの」
「え?」
「私と一緒にいてよ」
腹がたつ。イライラしている。こんなにも腹立たしいことがわからない。私は何故怒っているのか。
彼を見る。
いつもの困った顔が私を照らす。
「でも僕…死ぬから」
「うん」
「多分君を置いてっちゃうけど」
「そっか」
「愛してるから」
愛してるって、何だ。
今欲しいけど、欲しくなかった気がする。
とは、言えなかった。
私が今にも泣きそうだった。
「ねえ」
だるそうに見える彼の背中に向かって声を放つ。
私の沢山のエネルギーを使って、精一杯。
「なにさ」
「私、ずっとずっと好きだから」
「知ってるよ」
「あなたの事は、一生忘れない」
「あのさあ、僕まだ死んでないよ?」
呆れたような表情の彼に、思わず笑いがこみ上げる。引っぱたいてやりたいほどに。
「ばか」
「ばかですよ」
「あほう」
「はいはい」
「好き」
「好きだよ」
もしも、あなたに死が訪れても、そんなあなたを愛せたらいいな。
と、私は思うのだ。
200歳の寿命をかけて。