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「いや、だってな。」
とおじさんは続ける。
「【神のお墨付き】っていうのは普通その道を極めて初めて貰えるものなんだ。」
「......?」
「あー、例えばだな、【採掘】。何年も何年も坑道を歩き回って採掘を続けて見るだけである程度奥に鉱石があるかどうかわかるようになって初めて【神のお墨付き】が貰えるんだ。」
だから、【神のお墨付き】があるのに使い方がわからないっていうのは普通はおかしいんだ。とおじさんは言う。
「ただ、お前らは神に愛されてるが故にお前らの経験を神に伝えることで【神の贈り物】として【神のお墨付き】が貰える。」
「へー...。」
これはー、スキルポイントでのスキル取得のことでしょ。
そんな設定があったんだ。
公式サイトに乗っけておけばいいのに。
スペースが足りないのか伏せておきたい情報なのか。
あれ?てことはー...。
「じゃあ、私たちでも延々と同じことを繰り返してれば【神のお墨付き】ってタダで貰えるの?」
「まぁ、そういうことになるな。」
もっとも、とおじさんが続ける。
「しょっちゅう【神の世界】に呼ばれるお前らにそんな時間があるかは知らないがな。」
うーんと、ログアウトのことかな?
まぁ、確かにスキルポイント節約のためだけにそんな風に同じことずっとしてる時間は私たちにはないよね。
いや、人にもよるかもだけど。
少なくとも私にはない!
「まぁ、そういう訳でだ。【神に愛されし者】がしょっちゅういなくなっては戻ってくるのも、各地を転々としがちなのは知ってる。だから門下生になるにしても、できる時に転移陣を使ってこの街に戻ってきて俺の手伝いやらをしてくれればいい。」
「転移陣....?」
なんか便利そうな単語が。
これは結構重要なんじゃないのかな?
「ん?知らないのか?」
と不思議そうにおじさんが返してくる。
「冒険者支援ギルドにある魔法陣のことだ。立ち寄ったことのある街の魔法陣同士をつないで転移ができる。」
「なにそれ!?」
全く知らなかった。
知ってればさっきわざわざワンマチとここを往復なんてしなかったのに。
「タダで使えるし便利だから使うといいぞ。」
もっともあまり街から出ない俺みたいな奴には縁が薄いがな、と苦笑いしながら言うおじさん。
むぅー、悔しい。
「それで、どうするんだ?」
「じゃあ、お願いします。」
話を聞いた感じじゃRPGとかによくあるクエストをクリアすれば物を教われる的なパターンだろうし、得られるものは大きそうだから断る理由もないでしょ。
「おぅ、じゃあちょっとこっち来い。」
くいくいっと手招きされる。
おじさんの方に近づくとぽんっと頭に手を置かれた。
何をする!?
とはいえ振り払うのも良くない気がするから我慢。
しかし、改めて思うけどおじさんは背が高い。
私もJKにしてはそれなりの身長だと思うんだけど、おじさんは180ぐらいは普通にありそう。
お兄さんっていうほど若い見た目じゃないけど。
でもおっさん、って感じでもないんだよね。
やっぱりおじさんって感じ?
全く血縁はないけども。
「...そういや、お前の名前なんだっけ。」
私の頭に手を乗せたまま黙っていたおじさん。
いや、早く聞いてよっ!
精神集中とかで時間かかってるんだと思ってたんだけど!
「ユタルです。」
「そうか...よし。」
ふっ、と短く息を吐いた直後、おじさんが堂々とした声で叫ぶ。
「『覇央紫氣流師範・征英龍の名を持ってここに、新たなる道を求める者ユタルを門下に迎えん!定めし名は...幼角なり!』」
「うぉぅ!?」
なんか一瞬おじさんの体が紫っぽくうっすらと光ったら、私の体が一瞬その紫の光に包まれ、すぐに宙に散った。
『称号【覇央紫氣流の門下生・幼角】を手に入れました。』
うぉっ、そして唐突なシステムメッセージ。
びっくりびっくり。
「よし、これで今日からお前はうちの門下生だ。俺のことは師匠と呼ぶように。」
「はいっ、師匠!」
師匠...いい響きだね。ロマンに溢れてる。
「じゃあ、とりあえずは雑用だな。今から時間はあるか?」
「えーっと...、1、いや3時間ほど後なら...。」
今からだと連続ログインがちょっと危ない。
明日はどうせ終業式だけだから徹夜に特に問題はないけど、1回ログアウトして1時間休憩を取らないと。
こっちでは3倍速だから3時間だけど。
「わかった、じゃあ3時間後だな。」
「はいっ。」
そそくさと師匠の前から立ち去って、一礼して門から出る。
そのままちょっと折れて門の脇で、いや、まだこの街にろくに人が来てないとはいえ道端でログアウトはまずいか。
よし、あそこの街路樹の上で...。
木登り完了。ログアウトっと。




