ハロウィンって何するの?
ハロウィン関連の話が沢山上がるだろう中で、何のインパクトもない話ですみません。
「今月ってハロウィンあるよね。」
「ん?ああ、あの、何するんだかわからない日ね。」
彼が切り出すと、彼女はたいして興味もなく返事をする。
「僕たちもやってみない?ハロウィン。」
「ええ?しなくていいわよ。日本人だもん、関係ないじゃない。」
「でも結構する人たち増えてきてるんだよ。ニュースとかでもやってるでしょ?」
どうも、彼はかなりハロウィンイベントに乗り気なようだ。仕方がない、付き合ってあげるかと彼女は前向きに考え始める。
「ハロウィンって何するの?」
「うーん、コスプレとか?あ、魔女の格好似合そうだよね!」
「私が魔女の格好?そうね、特殊メイクが得意な友達がいるし・・」
「ちょ、ちょっと待って!!どんな魔女を思い浮かべてるの!?」
「そうねえ、三角帽子に、マント、杖を持って、大きなお鍋をかき混ぜながら」
「うん、うん?」
「イーッヒッヒッヒッて笑うお婆さん」
「そこだ!そこが違う!!」
彼はさっとその辺にあったボールペンと紙でざっと絵を描く。女の子が三角帽子をかぶり、スカート丈の短いワンピースを着て、ステッキを持っている絵だ。
「こういう感じの!決してお婆さんじゃなく」
「でも、これって・・・魔法少女じゃない?」
「・・あれ?魔法少女だね。」
「私、さすがに少女のふりはできないわ。」
彼女の言葉に首をかしげながら、そうか、と言ってはみたものの釈然としない。そんな彼に魔女以外のコスプレがひらめいた。
「じゃあ、ねこみ」
「っくっしゅん。くしゅん。・・今、もしかして、私がアレルギーを持ってるアレの名前を出した?私、名前を聞いただけでも駄目なのよ。・・・知ってるでしょ。」
恨みがましい目で睨まれ、彼のひらめいた猫耳コスプレは言葉に出すこともなく消え去った。
「そうだわ。ハロウィンってかぼちゃでしょ?かぼちゃの着ぐるみとか」
「うん、コスプレは無しにしよう。そんなに浮かれなくてもいいよね、うん。」
そんな経緯がありながらも、二人はハロウィン当日を迎えた。
「トリックオアトリート。」
恥ずかし気に決まり文句を言う彼女。とても可愛いと感動しながら彼は迷うことなく選択をする。
「トリックで!」
もちろん彼が期待しているのは恋人同士の甘いイタズラ。実は、彼がハロウィンイベントをしたいと言い始めたのは友人から去年、イチャイチャしたと自慢されたからだ。自分も、となったのである。もちろん彼女はそのことは知らない。
「そう?じゃあ、トリックでいいのね。」
「うわ!冷たっっくはないけど・・水鉄砲?」
「そう。ハロウィンのイタズラって何をするのか調べたら、卵をぶつけるとかあったんだけど、食べ物は粗末にしたくないでしょ?だから、水鉄砲にしてみたの。中身はぬるめのお湯ね。水じゃ冷たいし、熱くても困るでしょ?」
真剣にハロウィンイベントをしようとした彼女は、ネットでわざわざ調べた。トリートはまあ、お菓子でいいだろう、だったらイタズラは何をするのか、という疑問が湧いたらしい。
彼は思い描いていたイタズラとはかけ離れていてがっかりしたが、あまり乗り気でなかった彼女が、自分がやりたいと言ったために真剣に取り組んでくれたのが嬉しかった。だけど、わざわざネットで調べたのなら、『甘いイタズラ』のことだって書いてあっただろうに、とちょっと残念に思う。なので、彼は思わず口に出してしまった。
「できれば甘いイタズラが良かったな~。」
「甘いイタズラがいいの?」
甘いイタズラって何?と言わなかった彼女。ということは、ちゃんと甘いイタズラも用意してくれているということだ、彼は興奮気味に答える。
「そう!それがいいんだよ!!!」
「じゃあ、口を開けて。」
目の前にクッキーを差し出す彼女。まさかの初めての彼女からのあーん。これの何がイタズラなのかはわからないが、彼は感激しながら口を開ける。
「あーん・・ぐ。うう」
「はい、烏龍茶。」
クッキーを食べて苦しんでいる彼へ平然とストロー付きの烏龍茶をすすめる。慌てて烏龍茶でクッキーを流し込んだ彼は思わず彼女に聞いた。
「何、このクッキー!?すっごいすっごい甘いんだけど!?」
「うん、ものすごく甘いでしょ?普通のクッキーだと思って食べると余計にクルよね。」
「これがイタズラ?」
「そう、恋人同士の間では『甘いイタズラ』っていうのもあるってネットに書いてあったから。」
「その甘いイタズラの内容、見なかったの?」
「うん、だってまさかトリックを選ぶとは思ってなかったから。お遊びで用意してたんだよね、使うとは思わなかった。」
できれば最後まで見てほしかった。せっかく甘いイタズラがあると喜んだのに、まさに、持ち上げて落とす、恐ろしい彼女だ。しょんぼりしてる彼に彼女は苦笑する。
「お詫びに夕ご飯を作ったから、食べていって。」
そう言ってダイニングテーブルの上に置かれている、彼の好物の数々に彼は感動する。かぼちゃは切り離せなかったらしく、かぼちゃの煮物も置いてあるけれど。
「はい、どうぞ、召し上がれ。」
最後に出てきたのはあったかいシチュー。しかも、彼が一度、CMを見て、食べたいと言っていた、ハ〇スシチューのハロウィンバージョン、ご飯にかぼちゃを混ぜてネズミの顔にかたどってある。CMを見ていた時、彼女は、
『私、ご飯に甘いの混ぜるの嫌いなのよね。栗ご飯とか。だから、かぼちゃのご飯も無理。』
そう言っていたはず。本当に彼のためだけに作ってくれたのだ。
「いっただっきまーす。」
彼は満面の笑みで食べ始める。それを嬉しそうに見る彼女。
「ねえ、やっぱりハロウィンなんてしなくて良かったんじゃないの?」
「そんなことないよ。」
初あーんは嬉しかったし、彼女が自分の我儘を聞いてくれたのが嬉しかった。ただ、心残りが一つ。
「来年は僕が『甘いイタズラ』を用意しておくね。」
ジャンルを現代恋愛にしようと思ったんですが、そんなにイチャイチャしてないので、初めてヒューマンドラマなんてジャンルを選んでみました。そんな高尚なもんじゃないんですけどね。
お読みいただきありがとうございました!