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第七話 クーデルの切り札

『魔物狩り』とは読んで字の如く『魔物を狩る』者達の名称だ。


地上には様々な種族の魔物がいる。彼らは国を作り、それらは海を隔てたものもあるが人間の国を取り囲むように位置している。

基本的に人間より個体数が少なく、あちら側から攻めてくることはないのだが小さな村が襲われるなどの小さな被害は出る。


その対策のためにいるのが『魔物狩り』である。『魔物狩り』は人間に脅威を与える魔物を倒し、その報酬で生活している。王国帝国関係なく、人間のために戦う者達であるためそれぞれの軍とは別物で独立した存在である。


個体数は少ないが、魔物は人間より単体としての戦闘力が高くそれを相手取る『魔物狩り』はそこらの軍人より強いと聞いていた。


しかし、目の前で敵を倒したセリーナの実力は噂以上だ。


「確か屋敷の地下には秘密の抜け道があったはず。クーデルはその近くにいるかもしれない」


呆然としていたウィルは慌てて我に返った。


「そうですね。退路を確保しておくのは鉄則ですから。では、下に向かいましょう」


「武器はなくて大丈夫?腰に差してたのなら部屋にあると思うけど」


「いや、もうそこにはないでしょう」


とっくに回収されてるはずだ。そうじゃなければ帰ってくることを見越して待ち伏せているか罠が張ってあるだろう。


「このまま下に向かいます。セリーナさんは武器はいいんですか?」


「大丈夫。兵士のを適当に拝借するわ」


駆け出したウィルだが、すぐに足を止めてしまう。セリーナが困惑気味に振り返った。


「どうしたの?」


「あった」


「何が?」


「俺の武器です」


廊下の先に目を向ける。するとそこには一振りの刀が立て掛けてあった。鞘も柄も黒く、暗い廊下の中で禍々しい気配を漂わせている。ウィルの武器、『黒鬼』だ。持ち上げてみるとずっしりとした重みがあった。


「重いわね。どうしてここに?」


「おそらく隊長の仕業でしょう」


屋敷から出る前に置いていったのか、もしくはウィルが襲撃されることを見越して持ってきてくれたのか、多分後者だろう。アルバンには後でお礼を言っておかなければ。


「行きましょう」


黒刀を腰に差し、ウィルは走り出した。




「あいつ、落とし物ちゃんと拾ったかな?」


アルバンは今、街の外れにいた。人々の喧騒は遠く、街中では眩しいくらいだった灯りも僅かしか届かない。だだっ広い周囲にはごつごつとした岩が転がっておりその一つにアルバンは腰掛けていた。


「あの黒髪の姉ちゃん、どんな人がタイプなんだろな?好きなタイプは童貞です。なんてことだったらウィルにも可能性が出てくるんだけどなー。いや、それじゃお付き合いは無理か」


ゲラゲラと声を上げて笑うアルバン。一頻り笑うと、大儀そうに立ち上がった。


「たくっ、少しは反応しろよ。話し相手くらいしてくれてもいいだろ?」


「……」


アルバンの周囲は静かだった。アルバンは今、数百人の兵士に囲まれている。クーデルの私兵達だ。そのどれもがアルバンの隙を窺って殺気を込めた視線を向けているが、零番隊隊長に動揺する気配はない。先程から吞気に話し掛ける始末だ。


もし、この状況を見たものがいたならば驚きで言葉を失っていただろう。


アルバンは大きくため息を吐くと、クイッと指を動かした。


「んじゃ、やるか」


戦闘が始まった。




まるで作業みたいね。


ウィルの戦いを見て、セリーナは心中で呟いた。


下の階に降りると、兵士達が殺到してきた。セリーナとウィルの二人は地の利を生かしてこれを突破せんしている。次々と向かってくる兵士達、そのほとんどを倒しているのはウィルだった。


助太刀しようという気にはならなかった。先頭を走るウィルにはかすり傷すらない。触れられてすらいないだろう。痺れ薬が効いてるはずなのに、信じられない動きだ。

落ち着いた表情で、最適解導き出すように敵の意識を刈り取っていく。改めて『人狩り』の実力を目の当たりにし、セリーナは寒気を覚えた。


また一人敵を倒し、腹を蹴ると敵は階段を転がっていった。その先で階段は終わっている。地下に着いたようだ。


灯りはあるものの地下は薄暗く幅四、五メートルほどの通路が続いている。


「行きましょう」


前を歩くウィルの背中には怯えや気負いはない。冷静で落ち着き払っている。変なところで慌てるのに、命が懸かった場面では頼もしさすら感じる。


不思議な人。


セリーナがそんなことを考えたときだった。


通路の先から、腹に響く呻き声のようなものが聞こえる。セリーナにとっては聞き慣れたものであった。

続いて聞こえたのは、これまた知った声。クーデルのものだった。


「いや~まさかこんなに早く来るとは、流石に強いですねえ『人狩り』は」


「一人じゃなかったので」


ウィルの隣に立つセリーナを見るとクーデルが大仰に肩を竦めてみせる。


「これはこれは、セリーナではありませんか。これは参った。裏切ったのですね」


動揺した様子はない。やはり想定内のようだ。


「隊長はどこですか?」


「さあ?この屋敷にはいませんから私には分かりません。生きてるかも、ね」


「そうですか」


クーデルの頬がぴくりと動く。


「余裕ですねえ」


「こういうことは慣れてますので」


「その余裕、長く保てばいいですけどねえ!」


クーデルがちらりと後ろを見る。


「ガルルルル」


そこには一体の魔物がいた。オークだ。ゆっくりとこちらに歩いてくる。

大柄なクーデルが子供に見えるほど大きく、腕は丸太のように太い。人間なんて容易にひねり潰せそうだ。その手に大きな斧が握られていた。


「では、裏切り者共々死んで貰います」


クーデルがパチンと指を鳴らす。


「っ!」


いつからそこにいたのか、何十人もの兵士達が背後に迫っていた。兵士とオークに前後を挟まれた形になる。


「ガアアア!」


耳を塞ぎたくなるほど大きな声で叫ぶと、オークが襲い掛かってきた。

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