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第五話 信頼と提案

渾身の力を込めて振り下ろした短刀。しかし、肉に刺さった感触はない。閉じていた目をゆっくり開けるとウィルの姿はなく、目の前にあるのは布団から舞い上がる羽毛だけ。


今の今までウィルは確かにセリーナが押さえ付けていた。突然いなくなるなんてあり得ない。セリーナは慌てて辺りを見回した。


「うそ……」


ウィルはすぐ隣にいた。刺されそうになったことなどなかったかのような顔で静かに座っている。


「あなた、どうやってそこに」


声が震えているのが分かる。セリーナの言葉が届いていないのか、ウィルはあごに手をやり俯いている。先程から思案にふけっているようだが、一体何を考えているのだろうか。


いや、今はそんなことどうでもいい。


「ちょっと、聞きなさい」


大きな声で言うと、ウィルはようやく反応した。顔を上げてこちらを見る。


「はい?」


「どうして、私から逃れられたの」


そんなことか、とでも言いたげにウィルは言った。


「コツがあるんです。それに、セリーナさんの押さえ方も甘かったですし」


「甘かったって……」


「初めてなんですよね?人殺し。それなら仕方ないです」


「助かりました」なんて言ってウィルが苦笑する。その姿は死地を抜け出したばかりの人間とはとても思えない。『人狩り』に属する人間は噂異常に狂ってるのかもしれない。


しかし、ここで退くわけにはいかない。任務を失敗すれば故郷に何をされるか分からないのだ。


再び殺意を巡らせていくセリーナにウィルが言った。


「あの、俺の話、少し聞いてくれませんか?」


「聞かない。嘘つきの話なんて、聞くだけ無駄」


「嘘なんて、言いませんよ」


「それも嘘、さっきあなたの胸は尋常じゃないくらい拍動していたわ。嘘をついている証拠」


ウィルの胸を指さして言った。すると、今までの落ち着きはどこにいったのかウィルは突然動揺し始めた。


「え、拍動!? バクバクしてました?」


「してたわ。物凄く」


「そう、ですか」


「だからあなたはクロ、殺すわ」


短刀を構えるセリーナをウィルは手で制した。


「ちょっと待って下さい。本当に嘘つく気なんてないですって。胸のことは、仕方ないじゃないですか」


「それも嘘」


これ以上会話を続ける意味もない。 集中して一撃で仕留めなければどんな反撃に遭うか分からない。油断は禁物だ。


しかし、ウィルの次の言葉がセリーナの動きを止めた。




やっぱり、言わなきゃダメなんだろうか。できれば言いたくない。


油断なく短刀を構えるセリーナを前にして、ウィルはそんなことを考えていた。おそらくセリーナは進んでウィルを殺そうとしているわけではない。口振りからして家族か友人かを人質に捕られているのだろう。もし、自らの意志でウィルを殺そうとしているなら最初から殺気を放っているだろう。


セリーナを解放する手は考えた。難しいが、やれないことはない。しかし、聞く耳を持ってくれないのではどうしようもない。


ならば、言うしかない。


セリーナが飛び込んでくる気配を見せるより一瞬速くウィルは言った。


「初めてだったんです!セリーナさんみたいな綺麗な人と話したのは!しかもあんなにひっついて……そりゃあ興奮しますよ!」


叫び終わると、ウィルの顔は途端に熱を持ち始めた。


言った。言ってしまった。いや、これでいい。言いたいこと全部言ったんだ。これで信じて貰えないなら、もうどうしようもない。


セリーナは俯いたまま、しばらく何も言わなかった。前髪で隠れてしまってその表情は窺えない。

これは、ダメかもしれない。沈黙の長さにウィルが諦めかけたとき、セリーナの肩が震え始めた。


「ぷっ、ふふっ。うふふふ」


顔を上げたセリーナは笑っていた。


「そうね、ウブなあなたにはちょっと刺激が強すぎたわ。油断させようと思ってたけど、失敗」


よほど面白かったようで、セリーナは涙を浮かべて笑い続ける。

ウィルはその姿に見惚れていた。憑きものがとれたように笑うセリーナには、先程までの張り詰めていた緊張感はない。より自然体な彼女は、とても美しかった。


笑い続けていたセリーナだが、指で涙をぬぐうと急に真顔に戻った。


「ごめんなさい、笑いすぎたわ」


「いえ」


ウィルとしては、もう少し見ていたいところだった。


「ウィー君、話があるんだったわね」


「信じて、くれるんですか?」


セリーナがゆっくり頷く。


「信じるわ。ウィー君は、嘘がつけそうにない」


「あ、ありがとうございます」


恥ずかしかったが、言った甲斐があった。「ウィー君」と呼んでくれるのも信頼してくれている証だろう。


「お礼はいいから、話して」


相変わらずセリーナの表情は冷淡だ。しかし、その目に敵意はない。それだけで十分だ。


「俺と一緒にクーデルを倒しましょう」


ウィルの提案に少しの沈黙し、セリーナは言った。


「それは無理よ」


「どうしてです?」


「確かに、私とウィー君で闘えばこちらの戦力もあがる。でも、相手はあのやり手のクーデルよ。私たちが協力することも頭に入ってるはず」


「確かにそうです。でも、クーデルの計算に入ってない人がいます」


セリーナが目を見開く。ウィルが言おうとしていることを理解したようだ。


「もしかして……」


「そうです。『人狩り』の長、零番隊隊長のアルバンが来ることをクーデルは知らなかったはず」


なんせ、アルバンはこの街で遊びたくて来ただけだ。クーデルはアルバンの来訪を予測できたはずがない。


「そうね、三人で向かえば何とかなるわ」


セリーナの目に静かに力が入る。


「いえ、クーデルと闘うのは俺とセリーナさんだけです」


「え?」


セリーナは驚いた声を出した。

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