第一話 最後の任務と豪快な隊長
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一つの戦いが終わった。
ローレン王国とアパラ帝国、両国による二十年以上に渡る大きな戦争だった。戦いは終わった。そう、終わったのだ。一方が勝利した訳でも、敗北したわけでもない。強いて言うならどちらも勝利しどちらも負けたのだ。
国の疲弊を理由とした和睦。
余りにも味気ない終焉だった。
戦争は終わった。だからといって「はい終わり」と何もかも片付くというわけには当然いかず、両国共に戦後処理を多く抱えていた。その中でも最も重要で、尚且つ大変なのは両国の領土問題であった。二十年以上行われた壮大な陣取り合戦のおかげで、戦争以前の領土分配で片をつけることは無理であった。
あるところは兵士に蹂躙され見るも無惨な廃墟になり果て、またあるところは重要な拠点として栄えた。それを上手い具合に分けるのに、両国首脳は頭を悩ませたという。
そうして考え出された領土分配の案を実行するのは、勿論国の中枢に位置する者ではない。現場の者、つまり中枢から遠い末端の者である。終戦後、二ヶ月過ぎた今も両国の大半の者達は後処理に走り回っていた。
「ここが最後、か」
一人の少年が、感慨深げに呟いた。
黒髪黒目のさしたる特徴の無い少年である。強いて特徴を挙げるなら、その眠たそうな目つきだろうか。
その少年は黒を基調とした軍服を着ている。王国の軍服である。それは少年の年齢の割には着古されており、しかしそこに違和感はない。顔に特徴はないが、不思議な印象を与える者だった。
名をウィルという。見ての通り軍人である。一つの隊に属しており、現場で走り回る者のうちの一人であった。
ウィルは一つの町―街といっていいだろう―の前に立っていた。もう日が落ちて大分経つにもかかわらずその街、クーデルの建物には灯りが点いており人々の声で賑わっていた。
「『夜の街クーデル』か」
この街の名をウィルは後処理の任務中に何度も聞いた。クーデルは王国と帝国の間に位置し戦前は帝国領であったらしい。しかし、開戦間もなく王国が占領しその領土となった。戦前から色街として栄えていたが、戦争で多くの兵が駐留する機会が増えるに従って次第に大きくなっていったという。
そのクーデルから王国の兵を退かせ、ここを中立地とするのがウィルの今回の任務である。両国が頭を悩ませた案件の一つで、長い議論の末中立地とすることで落ち着いたらしい。
「まずは聞き込みっと」
一つ息を吐いて踏み出したとき背中に声を掛けられた。
「よ~すウィル」
振り向くと、そこに大柄な男がいた。年は三十前後に見える、赤髪に無精髭を生やした男である。口調の割には重く響く声であった。
「アルバン隊長!」
驚きの余りウィルの声は少し裏返った。その男はウィルの属する隊の隊長であった。久しぶりの再会に嬉しくなるが、一つ疑問があった。アルバンも後処理の任務があり、担当している地域はクーデルから離れた場所であった。
「隊長、どうしてここに?」
「お前がいつまで経っても任務を終わらせねえから、手伝いに来たんだよ」
「え、別に遅れてませんよ?ちゃんと計画通りに」
ウィルの言葉をアルバンの凄味のある声が遮る。
「他の奴らは、もう全部終わらせてるよ」
「……」
ウィルとしては、結構順調なつもりであった。しかし、他の隊員はそれ以上だったようだ。
「まあまあ、そう落ち込むなって」
アルバンは豪快に笑うと、ウィルの肩を叩いた。しかし、それで納得できるわけがない。いつもそうであった。ウィルが特別落ちこぼれている訳ではない。他の隊員が優秀すぎるだけなのだ。けれど、悔しいものは悔しい。
「んじゃ、最後の任務といくか!」
アルバンはウィルの肩に手を回し強引に引っ張り歩き出した。
肩を掴む力に顔をしかめながら言う。
「隊長、一人でできます」
「なーに二人の方が早く終わるさ」
「いやでも、元々俺一人でする予定でしたし」
「馬鹿野郎!」
アルバンはそう叫ぶとウィルをその鋭い眼光でギロリと睨んだ。
「俺達仲間だろ。協力しないでどうする」
ウィルはアルバンの眼光を正面から受け止め、静かに言った。
「隊長、クーデルに来たかっただけでしょう」
ウィルの一言に、突然慌て出すアルバン。
「はあっ!?ちょ、そ、そんなんじゃねえし!マジ、ちがうし!」
「隊長、何言ってるか分かりません」
軽蔑の目を向けるウィル。そもそも、この人から『協力』なんて言葉が出て来ること自体がおかしいのだ。ウィルの記憶で、アルバンが『協力』したのを見たことは一度も無い。他の隊員も同様でスタンドプレーばかりであった。まあ、協力する必要がなかったというのもあるが。
「そ、そうだよ!クーデルに来たくて、遊びたくてその口実に隊の最年少であるウィル隊員を使いました!」
この人、開き直りやがった……
ウィルはため息を吐きたい気持をこらえて言った。
「まあ、遅れた俺も悪いですし一緒に取り掛かりましょう」
「なんか、上から目線だな君」
「すみません」
まったく、変なところは細かいんだから。
自らの直属の上司に辟易としながら、口を開いた。
「で、先ずはどうするんです?」
「お前はどうするつもりだったんだ?」
「えっと、もうこんな時間ですし今晩はどこかに宿を借りてそれから……」
「遅い!遅すぎる!だから女にもてねえんだよ」
「最後の、関係ないですよね」
アルバンは腕を組んで言う。
「いいやあるね、ありありだね。考えても見ろ、ここは夜の街で今は夜だぞ!今乗り込まないでどうする」
「それは確かにそうですけど、いきなり乗り込むっていうのはちょっと」
「そんなこと知るか!俺は行くぞ!一番偉い男の所には一番いい女がいるに決まってる!」
そう言うと、アルバンはズカズカと歩き出した。
「それが見たいだけじゃないですか……」
呆れながら、ウィルはその後に続いた。