一日目の調査終了
松谷は村の外にあるベース付近まで戻ってきた。VR内だと、どこにベースがあるか分からず、少しフラフラする。
「教授! 中河原教授! どこですか?」
松谷は近くにいるはずの中河原の名前を大声で呼ぶ。
「なんだい、松谷君。突然大きな声なんか出して」
すぐ近くから中河原の声が聞こえて驚きつつも、安心する。
「これつけたままだと、どこにベースがあるか分からなくて……すいません。気軽に外すなと言われてたので、どうしたらいいか……」
「ああ、そのままシャットダウンさせて外してもらえれば問題ないよ」
松谷は言われた通りにシャットダウンさせ、目の前の映像がフッとブラックアウトしたのを確認してHMDを外す。外した瞬間、妙に頭が重く疲労感を感じた。中河原は松谷からHMDを受け取ると、すぐにケーブルでPCと繋ぐ。
「じゃあ、HMDに記録された映像データをPCの方に移すとしますか。ところで、VR内のこの村はどうだったかい?」
「ええ、とても平和なものでした。これから数日中に集団失踪が起こるなんて信じられないですね」
松谷は村で見た村人のことや、村の様子を話す。しかし、加世のことはどう話していいか分からず触れないように説明をした。中河原は聞いたはいいがあまり興味がないらしく話し半分で聞き流しているようだった。
「あっ、教授。聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんだい?」
松谷が改めて切り出したことで、中河原は松谷の方に顔を向ける。
「VR内で会話して触れることができる人物って、どういう存在でしょうか?」
「VR内で? それは基本的にはありえないな。VRはあくまで仮想空間だ。簡単に言うなら壁や床、天井などに投影機を使って全方位に映像が映し出された部屋の中にいるような感じなんだ。だから、映像に直接触ったりだとかして、干渉することなんてできないんだ」
「ですよね……」
「だから、もし触れることも会話することも可能だというなら、それは実体のある人間のはずだよ。例えば、今日、僕も松谷君と一緒にVR内で調査することができていればそれは可能だったかもしれない。今回の調査に当たって、HMDを装着した人同士は感知できるようにシステムを組んであったからね」
松谷はなんとか話が理解できているというレベルで頭の中はショート寸前だった。
「じゃあ、教授。僕と教授以外で今日そのHMDを装着した人はいますか?」
「いないよ。このHMDは特別製で今回の調査用に二つしか作ってないんだ。そして、一つは君がさっきまでつけていたし、もう一つはずっと僕がいじってたからね」
松谷は加世がどういう存在なのかますます分からなくなった。あれこれ思案するも考えがまとまらず処理できる容量オーバーを迎え、頭を掻きむしる。
「変なことを言ってないで、君は調査のレポートでもまとめたらどうだい?」
中河原に言われ、しぶしぶレポートの作成を始める。加世のことはメインのレポートには書かず、自分用のメモに書いて、別に保存することにした。
あらかたまとめ終わり、寝袋に入りながらもう一度加世のことを思い返す。もしかしたら、失踪者名簿に名前があるかもしれないと思い、端末で川野辺から渡されていた資料から失踪者名簿を開く。
しかし、公開されている失踪者名簿を見ても、十歳前後の女の子で『カヨ』という名前の村人は此別村にはいなかった。