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出会い

 雑貨屋に戻ってくると、ライトバンはもういなくなっており、代わりに店の軒先のきさきにあるベンチに小さな女の子が座っているのが見えた。松谷は女の子がどうするのか観察することに決めた。

 しかし、女の子は足を浮かせてブラブラさせながら、何もない宙を見つめるばかりで動く気配がなかった。

「なんだ……あの子はただボーっとしているだけか」

と、松谷は声に出しながらため息をつく。ため息をつきながら落とした視線を戻すと、女の子と視線が合った気がした。咄嗟に外した視線を戻すと、ジロジロ見られている気さえするほどはっきりとこちらを見ているように感じた。松谷はふと後ろに何かあるのではないかと振り返るも、長閑のどかな風景が広がるばかりだった。

 そして再度視線を戻すと、女の子は相変わらずだった。

「なんだか僕が見えているみたいで気持ち悪いな……」

 先に耐え切れなくなった松谷はとりあえずその場から移動することにした。松谷が移動し始めると後を追うかのように女の子もついて来た。松谷は偶然の一致もありえるかもしれないと立ち止まると後ろの女の子も立ち止まった。少し早足で歩くと女の子は小走りで追いかけてきた。

「なんだ、あの子? 絶対僕のこと見えてるよな?」

 松谷はまたゆっくり歩き出す。女の子もそれに合わせてゆっくりついて来た。松谷は神社の入り口で止まり、女の子を確認する。松谷に合わせて立ち止まっているのを確認すると、急に走り出し神社の中に入った。社殿までたどり着くと建物沿いに社殿の裏に周り、身をひそませる。

 少しすると、小さな足音が近づいてきて社殿の角を女の子が曲がってきた。身を潜ませていた松谷に気付いた女の子は驚きのあまり急停止するも、砂地に足を滑らせ尻餅しりもちをついた。

「いたっ……」

 女の子は小さな呻き声を上げる。松谷は多少罪悪感を感じ、

「おじょうちゃん、大丈夫かい?」

と、右手を差し出しながら尋ねる。その差し出された手を掴み立ち上がった女の子は服についた砂埃すなぼこりを払う。松谷はVRなのに触れられたことに違和感を感じつつも、ちゃんと体温を感じたことからVRではない実在の女の子かもしれないと考えた。

 しかし、今HMDを外すと調査に戻るにはベースに一度帰らないといけないかもしれないので面倒だと感じた。もし実在の子なら後でベースに連れて戻ればいいかなと楽観的に松谷は考えた。

「お嬢ちゃんは僕のこと見えているよね?」

 松谷の質問に女の子は首を縦に振る。

「お嬢ちゃんは一人でここで何をしていたのかな?」

加世かよ……お嬢ちゃんじゃなくて、加世」

 女の子はぶすとっした表情で言う。松谷は少し困りつつ、

「あー……加世ちゃんね。加世ちゃんは今は何をしているのかな?」

と、名前に呼びかえて、同じ質問を繰り返した。加世は名前を呼んでもらったことが嬉しかったのか、ぱあっと笑顔になる。

「加世ね、お兄さん見てたんだ。お兄さん、加世のこと見てたでしょ?」

 加世は松谷の手を掴んで飛び跳ねながら答える。松谷はどこか話がかみ合っていない気がしたが、相手が子供だから仕方がないと思った。

「うん。見てたよ。それより、学校で同い年くらいの子達が遊んでるみたいだし、よかったら行ってみたらどうだい?」

 加世は先程の笑顔が嘘のように、すーっと暗く冷たい表情に変わる。

「加世、あの子達嫌い。だって、あの子達は加世と話さないもん」

 松谷は加世に聞いてはいけないことを聞いてしまったかなと後悔する。

「変なこと言ってごめんね、加世ちゃん……」

 松谷は何かしらフォローをしようと考えるが、この短いやり取りでは加世のことが何も分からないのでどうフォローすればいいか分からず困り果てる。しかし、何も言わないというわけにはいかないので松谷はしゃがみ加世と目線の高さを合わせて、

「で、加世ちゃん。これから少しだけ時間あるかな?」

と、できるだけ柔らかい口調で切り出す。

「あるけど、なんで? お兄さん、危ない人?」

「違う、違う。僕はこの村のこと詳しくないから、よかったら加世ちゃんが案内してくれないかな?」

 加世は松谷の顔をしばらくジロジロ見つめる。しばらくすると、また笑顔に戻り、

「うん、いいよ。加世が案内してあげる!」

と、小さな胸を自慢げに叩く。

「ありがとう、加世ちゃん。僕の名前は松谷。松谷良太りょうたって言うんだ。よろしくね」

「うん! えっと…まつ゛っ゛……」

 加世は痛そうな表情を浮かべ舌を出す。

「呼びにくいなら良太でいいよ」

「わかっは。リョーハ」

 松谷は思わず吹き出してしまう。加世は最初頬をふくらましていたが、すぐにつられて一緒になって笑い出す。

 松谷と加世は笑いの波が収まってくる。すると、加世が参道の方に向かって走り出した。手水舎ちょうずや手水鉢ちょうずばちに流れ込んでいるき水に向かって舌を出し、直接触れることはせずしばらくその冷気で舌を冷やす。加世は舌を少し出したり、口の中で動かしたりして感覚を確かめ、

「これへ、ちょっほは大丈夫かな」

と、舌を噛まないようにゆっくり喋る。

 そして、社殿の方から歩いてくる松谷に向かって笑顔で手を振る。そして、近づいた松谷に飛びつくように抱きつき、腕にからみ付く。

「リョータはどこか見たいところあるの?」

 加世は松谷の手を引きながら尋ねる。

「うーん……とりあえず、人がいっぱいいそうなところに連れて行ってもらえるかな?」

「この村に人がいっぱいいるところなんてないよ?」

 加世が真顔で答えるので松谷は困る。

「じゃあ、いっぱいじゃなくても人がいるところ案内してくれるかな?」

「うん、わかった!」

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