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君に会いに行く

「松谷さん! 松谷さん、起きてください」

 松谷はいつの間にか眠っていて、大城の声に起こされた。目を開け体を起こすと、頭も体も嘘みたいに軽くなっていた。

「あっ、すいません。もしかして、見つかったんですか?」

 松谷は大城に尋ねる。大城の隣にいる中河原が首を横に振る。

「あの、松谷さん。他に何か手がかりと言うかそういうのはありませんか? お手上げ状態なんです」

 松谷は加世が言っていたことを思い返す。

「あの、花を見かけませんでした?」

 大城と中河原は意図が分からず顔を見合わせる。

「花……ですか。林の中に、ところどころ咲いてはいましたけど……それが何かの手がかりなんですか?」

 大城は松谷の質問に答える。

「はい。その中で今の季節には咲いていないようなものはありませんでしたか?」

「すいません。松谷さん。僕は花には詳しくはないので分からないです」

 松谷は中河原の方に顔を向ける。

「松谷君。悪いけれど、僕も花には詳しくないから分からないよ」

 中河原の言葉に松谷は肩を落とす。

「あっ、でも、たくさんの花が綺麗に咲いていて不思議な感じのする場所はあったよ」

「ああ、ありましたね。何もない小さい原っぱのようなところですよね、先生?」

「そうそう、そこだよ。林の中であそこだけ木がなくて開けていたよね」

 中河原と大城は二人で盛り上がる。今話題にしている場所の話、他にも倒木からでかい謎のキノコがあったなど、冒険でもしてきたかのように興奮気味に語りあい、頷き合う。松谷はしばらくそんなやり取りを眺めていた。

「あ、あの……その花の咲いていた原っぱに案内してもらえますか?」

 松谷が切り出すと、中河原と大城は話を止め、

「ああ、もちろん構わないさ。松谷君の体が大丈夫なら今から行くかい?」

と、中河原が提案する。

「体はもう大丈夫なんで、お願いします」

 松谷は立ち上がり、何度か屈伸くっしんをして見せ、大丈夫なことをアピールする。中河原をその様子を見てふらついていないことを確認すると、

「本当に大丈夫なようだし、行くとしましょうか。大城君、先頭を頼むよ」

と、出発の指揮を取る。

 大城を先頭に松谷と中河原がその少し後を付いていく形で歩き出す。

 社殿の裏の林に足を踏み入れる。足元は膝元まで草で覆われており、獣道すら一見すると分からないという荒れ具合だった。こんな状態の林だと、入り口を探すのは相当疲れただろうと松谷は二人の苦労を推し量った。

 道なき道を掻き分けて進むと、開けた場所に行き当たった。そこだけぽっかりと時間と空気が止まってるかのような不思議な感じのする場所だった。林の中でその空間には木が生えておらず、原っぱのようになっていた。さらに、先程までの膝の高さほどの草もなく、代わりに足首までの高さの草と白い花が咲き乱れていた。

 松谷は息をするのを忘れているのではないかと思うほど、その光景に釘付けになった。ゆっくりと足を踏み入れ、白い花に吸い寄せられるように近づいていく。

「この花……彼岸花なんだ」

 松谷が小さく声を漏らす。そして、松谷は気付く。

「教授、大城さん。ここの辺りに入り口があります」

「松谷君、どうしてそんなことが言い切れるんだい?」

 中河原が説明を求めてくる。松谷は中河原の方に向き直る。

「加世ちゃんは、入り口の周りに季節はずれの花が咲いていると言っていました。さらに、村人はそれを怖がっているとも言っていました」

「だから?」

 中河原は続きの説明を促す。

「彼岸花は本来秋分の日前後に咲く花なんで、ここの花は二ヶ月近く開花が早いんですよ。それに彼岸花はあまりよくない迷信が日本では昔から残っていることが多いので不気味がるのはそんなに不思議なことではないんです」

 中河原は頷きながら松谷の話を聞く。大城は、「へえー」と、声に出して感心していた。

「じゃあ、大城君。君はここの地面を中心に怪しいところがないか探すんだ」

「は、はい。わかりました」

 中河原は大城に指示を出し、大城はゆっくりと地面を見ながら、時折強く地面を踏みつけたりしながら歩き回る。

 松谷も大城とは違う場所を探しに行こうとするも、中河原に呼び止められる。

「松谷君、君はまだあまり無理をしては駄目だ。今は大城君に任せるんだ」

「でも、教授……」

 松谷は不満に満ちた声を上げる。

「とりあえず、休憩がてら大城君が入り口を見つけるまでの時間、僕に彼岸花の迷信について教えてくれないかい?」

 中河原は好奇の目で松谷を見つめてくる。松谷はそれに気付いて中河原の目的を察する。

「その話はこの調査が終わった後か大学でゆっくり話しますから……今は僕も探しに行きます」

「松谷君、あんまりじゃないか。僕は今聞きたいんだ」

 松谷は中河原の言葉を聞き流し、原っぱの中心に向かった。

 そこから三百六十度ゆっくり見回す。彼岸花はまばらだがほぼ一面に咲き並んでると言ってもいいほどだった。そんな中、中心よりやや神社側に彼岸花が咲いていない場所があることに気付き、引っ掛かりを覚え、そこに向かった。

 そして、その場所で草の影と地面に埋もれて見えにくくなっているがくさりのようなものがあることに気付いた。

「教授! 大城さん! ちょっと来てください」

 松谷の声に中河原と大城は駆け寄ってくる。そして、松谷の指差す先を見て、各々やるべきことを理解する。中河原は鞄の中から軍手を取り出し、大城に渡す。大城は軍手を受け取りはめると、鎖に沿って地面を掘り、隠れた鎖部分を掘り出していく。松谷と中河原はそれを見ながら、鎖の伸びている両端に先回りし、鎖の先端部分を探す。

「二人とも、こっちが入り口だ!」

 中河原が声を上げる。大城は中河原の方に向かって掘り起こしていたのでその手を加速させ、ある程度まで来ると鎖自体を強く引っ張りあげる。すると、地面が大城が引くのに合わせて浮き始める。松谷と中河原はそれを頼りに足で周りを軽く掘っていく。そして、ついには二メートル四方ほどの地面がひっくり返り、地下へ通じる入り口が現れた。鎖に繋がれていたのは古びて表面だけがサビだらけになっていた分厚い鉄のふたのような扉で、時間の流れで地面と一体化し、埋もれてしまっていたのだろう。

「これはなんとも男の冒険心をくすぐられるというか……」

 中河原が小声で呟く。

「秘密基地とか、そういうロマンを感じますよね」

 大城が軍手についた土を両手を叩くようにして落としながら言う。松谷だけは声もだせず、手に汗を握り、生唾を飲みこんでいた。

 中河原はそんな松谷の背中を軽く押し、ハッと顔を向けた松谷に鞄から取り出した小型のライトを渡す。松谷はそれを受け取り、ライトの灯りをたよりに中に入っていった。その後ろを、同じくライトを持った大城、中河原の順で続き、奥に進む。しばらくは、急な階段が続き、その後、平坦な道が少し伸び、終点を迎える。松谷はライトで周囲を照らし、目の前の壁が大きな石の扉になっているのだと気付くが、取っ手やドアノブのようなものが付いているわけではなく、開け方が分からず首を捻る。

 後ろから、ライトで照らしながらそれを見ていた中河原が、

「松谷君、それは横にずらして開ける扉みたいだね。端っこの方に小さな穴があるだろう? そこに金属の棒のようなものを刺して、それを取っ手代わりにして使って開けるものなんじゃないかな?」

と、声を掛ける。

「金属の棒って言われても……」

 松谷はライトを使って周囲を照らし、それらしいものを探し始める。すると、壁の一部に小さな木の小窓のようなものがあり、それを開けると小物入れのようになっていて、中からロウソク、マッチ、差込用の突起とっきのついた鉄の取っ手が見つかった。

 松谷は取っ手を石の扉のくぼみに差込み、横にずらそうとするもびくともしなかった。

「大城君、君も手を貸してあげなさい」

と、中河原が声を掛ける。大城も加わり、扉をゆっくりずらし始める。二十センチメートルほどずらしてもそこには壁があった。さらにずらしていくとだんだん目の前に空間が広がっていき、奥の部屋が見えてきた。人が入れるほどの隙間を十分に確保すると、部屋の中に入り、改めてライトで部屋の中を照らす。

 正面の壁に埋め込まれるように小さな祭壇があるだけで、他は何もない空間だった。

 中河原が入ってきた扉を見て、

「中からは開けれない造りになっているけど、ここは何のために作られた部屋なんだ?」

と、疑問を隣で立ちすくむ大城に投げかけていた。大城はなんと答えていいか分からず、黙り込んでしまうが、そんなことはお構い無しに中河原は扉を観察して、ぼそぼそと独り言のように分析や感想を口に出していた。大城はそれに相槌を付いているばかりだった。

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