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再会、そして、変わり始めるもの

 松谷は神社に着くと、鳥居の前で辺りを見回し、加世がいないことを確認して社殿の方に向かう。社殿に続く参道を周囲を見ながら歩き進める。社務所がかつてあって、前回、加世が立ちつくしていた場所で視線が止まり、足も止まる。そして、ふとあの時加世はどんな気持ちでここに立っていたのだろうと思いを巡らす。

 しばらく物思いにふけっていると、後ろから、

「リョーータッ!!」

と、飛びつかれた。松谷は一年ぶりの懐かしい感触と声に驚きよりも嬉しさが込み上げてきた。

 加世は松谷が驚いたりとか、何かしらの反応がないので、

「リョータ……だよね? もしかして、具合悪い?」

と、不安そうな声を上げる。松谷は加世の不安そうな顔に気付き、

「こんにちわ、加世ちゃん」

と、声をかける。加世は松谷の笑顔と声に安心したのか、次第に笑顔になっていき、満面の笑みを浮かべながら、

「うん! 今日も加世に会いに来てくれてありがとう」

と、楽しくて嬉しくて仕方がないというような声で言う。

「リョータは今日も村を見て回るの?」

 加世は松谷の手を支点に体をグルグルさせながら尋ねる。

「ううん。今日は加世ちゃんに会いに来たんだよ」

「本当に! そっか、そっかー。嬉しいなあ」

 加世は少し照れたような顔をしつつも目は輝かせている。

「じゃあ、リョータは今日も加世といっぱいお話とかしてくれるの?」

「うん、そうだね。まずは、とりあえず座ろうか」

 松谷は社殿に上がる石段の方を見ながら言う。

「うん。いいよ!」

 加世は松谷の手を引っ張るように石段の方まで行き、松谷が先に座るのを待って、松谷の膝の上に座り、「えへへー」と、笑い声を上げる。

「ねえ、リョータ。今日はどんな話をするの?」

 松谷は話をどう切り出していいか迷う。悩んでいると早く話をしたい加世が膝の上でそわそわし始める。松谷は前回の調査でも今と同じように松谷の膝に加世が座って話していたことを思い出す。そして、そのときの話題を引き合いに出すことにした。

「そういえばね――」

「うん。なになに?」

 話を切り出しただけで加世は待ってましたと言わんばかりに食いついて来る。その無邪気で楽しそうな反応に、これから触れることになる話題は少なからず加世を傷つけてしまうかもしれないと松谷は思ってしまい、思わずぐっと言葉を飲み込んでしまう。

 加世にはその少しの間がご不満だったようで、

「そういえば、なに? ねえ、リョータ? ねえ?」

と、膝の上で体を揺らしながら続きを催促さいそくしてくる。松谷は加世のその姿を見て、肩と気持ちに力が入り過ぎていたのかもしれないと切り替えることにした。

 そして、加世からしたら昨日も会っているということだけを意識しながら話すことにした。

「ごめん、ごめん。そういえばね、昨日、花言葉とかの話をしたよね?」

「うん。したねー。それで、それで?」

 加世は楽しそうな声を上げながら、足をバタバタさせている。

「そのとき、加世ちゃんは僕にピッタリな花言葉の花をラベンダーって言ってたけれども、そんなに加世ちゃんには僕は信じられない不審者に見えたのかな?」

 松谷はラベンダーの花言葉を思い出しながら、わざと加世の核心に触れないであろうものを選び話をする。

「えっと……確かに、最初はリョータは見慣れない人だったし、加世といっぱい話したりしてくれるから……って、そうじゃなくってさ!」

 加世は焦っているような声を上げる。さっきまでバタバタさせていた足も大人しく、背中越しでも困惑の表情が見て取れる。松谷は加世のそういう反応が面白くて、愛おしいとすら感じた。これを一年間待ち望んできたのかもしれないとさえ思った。

 松谷は気が付いたらいつの間にかクスクスと体を小さく揺らしながら笑っていて、それに気付いた加世が体をねじらせ松谷の顔を見ながら頬を膨らませていた。

「なんか、今日のリョータはイジワルだ」

「ごめん、ごめん。じゃあ、加世ちゃんは僕にどんなことを期待したり、答えて欲しいと思ったの?」

 加世はきょとんとした表情に変わる。さらに、目を泳がせ、髪の間から覗く耳は赤みを帯びていた。

「もしかして、リョータはわざわざラベンダーの花言葉を調べたの?」

「うん、そうだよ。加世ちゃんが教えてくれなかったからね」

「うう……」

 加世は松谷に何かを言いたそうな顔でジトっとした目で見つめる。しばらくすると、加世は姿勢を元に戻し、何かを考えているかのように地面に目をやりながら、ゆっくりと足をバタバタさせ始める。

「ねえ、リョータは加世がどんなことを言っても信じてくれる? 加世のこと、嫌わないでいてくれる?」

 加世はセミの鳴き声で消されてしまいそうなほど、不安そうな小さな声で言う。

「そんなの当たり前だよ。僕が同じ質問をしたら加世ちゃんも同じように答えるでしょ?」

「えへへ。確かにそうだね」

 加世は顔を前に向けたまま、肩を揺らしている。見えなくても頬がだらしなく緩んでいる顔が松谷には安易に想像できた。

 加世の肩の揺れが止まり、強い風が吹きぬけ、そのことで少し間ができる。そして、また静かな声で話し始めた。

「ねえ、リョータ……加世がもう死んでるって言っても、信じてくれる?」

「うん。信じるよ」

 松谷は迷わずに即答する。そのことに加世は松谷の方に驚いたように振り向く。

「どうしたの? 加世ちゃん?」

「えっとね……そんな簡単に信じれるものかなって……」

「うん。さっきも信じるって言ったからね。加世ちゃんが嘘言わない限り、僕は困らないよ」

 松谷は加世に笑顔を向ける。加世も松谷につられて笑顔になっていく。

「それなら加世はリョータには嘘は言わないから、困らないよ」

「じゃあ、安心だね。ありがとう」

 松谷と加世は顔を見合わせしばらく笑いあう。そして、加世が真面目な顔に戻り、

「でね、話の続きなんだけれども、加世はもう死んでるんだ。地縛霊っていうやつになるのかな。加世はこの村で生まれて、この村で死んで……そして、この村をすごい恨んでいるの」

と、また静かで後半はどこか暗さや冷たささえ感じる声で呟く。

「知ってるよ」

 松谷は無意識にそう返していた。前回は松谷が状況が飲み込めず呆気に取られ言葉を失ったが、今度は加世が混乱した視線を向ける。そして、少し震える唇で搾り出すように、

「な、なんで知ってるの……? それに何を知っていると言うの?」

と、疑問を口する。困惑の中に怒りさえこもっているのではないかというほど言葉には力があった。

「それは僕が何者なのかを言わないと説明できないし、まずはその話を聞いてくれるかい?」

 加世は困ったような顔を浮かべつつ、小さく首を縦に振る。

「じゃあ、僕がこれから言うことも信じてくれるかい? きっと普通なら信じられないような話なんだけどさ」

「加世も信じるよ。だって、リョータは信じてくれたんだもの」

 加世は少し前のめりに言う。

「ありがとう。僕はね、加世ちゃん。この時代に生きている人間ではなくて、もっと未来に生きているんだ」

「未来……?」

 加世は首をかしげる。

「そう、未来。僕が生きている時間は二〇五八年なんだよ」

 松谷は一度、加世の話を聞いていた上に、一年かけて調べてきたから、加世の話を受け入れることも信じることも出来る。それは松谷がそれが事実だということを知っているからだ。

 しかし、加世からしてみれば、松谷は突然意味の分からないことを言っているのだから理解するのに時間はかかってしまうのだろう。一年前の松谷のように――。

「ねえ、リョータが未来の人だって証明できるものない? それがあったら加世はちゃんと信じれるよ」

 松谷はどうしたものかと考え始め、身分証明するもので最初に浮かんだものは学生証と保険証だった。特に学生証には発行年月日と写真があるので丁度いいと思い、加世を膝に乗せたまま松谷は少し腰を浮かせズボンの尻ポケットにある財布を抜き出し、その中から学生証を取り出した。

「これでどうかな?」

 松谷は加世の膝の上に学生証を置く。加世はまじまじと学生証を見つめた。

「たしかに、書いてある年とかは未来だね。ねえ、他にももっとない?」

 加世は楽しそうな声を上げる。松谷は学生証をしまいながら、他に分かりやすく未来的なものは何かと考え、思い当たるものに辿りつく。

「じゃあ、これはなんだと思う?」

 松谷は左手首の端末を指差しながら尋ねる。加世はうーんと楽しそうな悩みの声を上げる。

「変わった形の腕時計かなと思ってたけど、違うんでしょ?」

「そうだね。腕時計の代わりにもなるけどさ、こうやって――」

 松谷は端末を操作し、スクリーンを表示させる。

「わあ! すごい、すごい! ねえ、何これ? リョータ! これ何?」

「電話とかPCの機能を持ったものだよ。……って、こんな説明で分かるかな?」

「わかんないけど、わかる!」

 加世は目を輝かせながらスクリーンを見ている。手を伸ばしておそるおそる触れたりしたりと、興味津々な様子で、松谷はそれを微笑ましく見守っていた。

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