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回想 受け継がれる遺志

 そして、さらに年月が経ち、都美は地元の大学で史学を学び、卒業後、地元の郷土資料館に就職した。

 大量の雑務をこなしながら、休みの日には自分の研究や調査に繋がるものを探した。仕事上の肩書きは都美が調査するにあたり、有利に働いた。

 これまでの調査で村で起こった火事の後、少なくとも十人近くが原因不明の行方不明になっていた。行方不明になった人物をリストアップし、俊秀に尋ねると、そのほぼ全員が社務所の火事に関わった人物であったことが分かった。

 さらに、俊秀から聞いていた過激派思想のリーダー格だった村長の息子の行方も追ったが、自分の周りから失踪者が多発したことで、次第に精神的に追い込まれていき、「祟りだ」、「呪いだ」と喚いたり、「あのガキが見える」など、見えないものが見えるとうそぶいていたそうだ。その後、措置入院と退院を繰り返し、最終的に安定剤と睡眠薬の過剰摂取で亡くなっていた。


 都美は事件の概要とその後の悲惨な顛末が調査から少しずつ明らかになってきて、もし加世が死んでも村と村人に復讐しようとしているのなら、こんなにも悲しいことはないと感じ、資料を読み返すたびに涙をこらえていた。


 都美は仕事と調査に没頭し過ぎていたため、普通の女性らしい幸せを掴むのは遅かった。調査が落ち着いてきた三十六歳のとき職場の同僚と結婚し、翌年には男の子を出産した。自分の両親や加世、加世の両親のように万人に優しく強い存在になって欲しいと優人ゆうとと名付けた。

 都美は自分に子供ができて、さらにその子が生まれつき体が弱かったこともあり、この子を守るためには何でもしようと決め、仕事を辞めることにした。そのとき、都美は自分の両親がまだ幼い自分を連れて引越しを決めたときの気持ちが分かったような気がした。


 その後、此別村の調査は子育てに追われたりしたためすることもなくなったが、今まで蓄積してきた資料は大事に保管し、たまに取り出しては読んで記憶がせないように心がけた。


 そして、二〇一三年七月二十七日。此別村の集団失踪事件が起こった。


 誰しもが謎の失踪と考えている中、ただ一人都美は起こるべくして起きたのだと心を痛めた。そのとき優人は地元から離れた大学の院に通っていた。優人は誰に似たのか、民俗学に興味を持っていた。その後、博士号をとり、そのまま大学で研究をしながら教鞭きょうべんをとるようになった。


 此別村の失踪事件から二十年程経つと、歳から来るものか体のあちこちをわずらってしまい、入退院を繰り返す日々になった。都美は夫に先立たれており、息子の優人の元に身を寄せてもよかったし、そうするように言われていたが固辞し続けた。最期の瞬間に優人は立ち会うことは出来なかったが、病院で眠るように息を引き取った。



 優人、つまりは川野辺優人は母、都美の葬式などを終え、遺品整理しているときに都美の日記と調査や研究の資料を見つけた。川野辺は此別村の失踪事件の後、気をんでいた都美から出身が此別村であること、そこで大事な人がいたことを聞かされてはいたが、詳細は聞けずじまいだった。

 そして、日記などを全て読んで、川野辺は母の研究を引き継ぐことに決め、石神加世という存在を追った。しかし、今さら新たな情報が出てくるわけもなかった。さらには大学の講義や生来の体の弱さで寝込むことも多く、実地調査をしたくともできないという歯痒はがゆいことが続いた。

 川野辺は都美とは違う方法で石神加世に迫ろうと考えた。

 それが神隠しだった。

 社務所の火事以来、火事に関わった村人が行方不明になり、さらには主犯格を追い詰めた事柄が無関係とは思えなかった。現実的にはありえない、非常識なことかもしれないがそうとしか思えなかったのだ。

 そして、最後のピースであり鍵となりえる失踪事件の解明をしようと考えたのだった。

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