神隠しの正体
加世は恐ろしく淡々と語った。松谷はあまりのことに絶句する。
「わかった? リョータ?」
松谷はまだ信じることができないという気持ちだったが、加世の話が嘘だとも思えなかった。そして、神社の何もないところに立ちすくんでいた理由も理解した。
「だから、加世はね、此別村にいる生きている人が嫌いなの。加世達にあんなことしといて、平穏に生きているのが許せなかった。だから、消してやったんだ。今さっきも……今までも……」
「今までも?」
「そうだよ。今までも、人の道を外した人を、道に迷わして文字通り人の道から外してあげてきただけだよ」
「道に迷わす? いったいどういう……?」
「だからね、人の世からの道を外してあげたの。リョータもその道は通ったでしょ?」
松谷はすぐにピンと来る。そして、昨日立ち止まったのは本当に危なかったのだと小さく身震いをする。
「あそこの道はね、入り口と出口は加世みたいな曖昧な存在じゃないと繋げれないから一度入ると普通の人は出て来れないんだよ」
「それが、この村で起きてた神隠しの正体……なんだね」
加世は顔をスーッと上げ、松谷の顔を見る。
「神隠し? 何を言っているの? あれは悪いことをした人が受けた、ただの祟りや罰みたいなものだよ」
「それじゃあ、なんで村の人全員消したの? みんながみんな悪いことしたわけじゃないでしょ?」
加世は松谷をきっと睨むような視線を向ける。
「なんで? この村にいる生きた人はやっぱりみんな嫌い。加世達にしたことも忘れて、加世達のことを忘れてのうのうと生きているのが許せない。だから……だから、みんなみんな消えればいいんだ!!」
「じゃあ……僕のことも消すかい? 僕だって生きているんですよ!!」
加世はぐっと下を向き黙り込む。
「消せないよ……消したくないよ……」
加世の目からは大粒の涙が次から次へと零れ落ちる。
「本当はね、前から村の人達を道連れにしてやろうとずっと考えててね、そうしようと思ったときにリョータに出会ってね……このまま私だけが消えてもいいかなって思ってたの。だってね、リョータといるのが楽しくって、忘れてた温かい気持ちとか思い出したから……」
加世はひっくひっくと嗚咽交じりに話す。松谷はその姿を見て、加世を救ってあげたいと強く思った。
加世は黙り込んでる松谷を見て、不安のあまりまた声を上げて泣き始める。
「やっぱり、こんなことした加世のことリョータはイヤだよね? 嫌いだよね?」
「イヤでもないし、嫌いじゃないよ。僕はそれでも加世ちゃんのことが好きだし、救いたい」
「救う? 加世のことを?」
加世はまだ嗚咽交じりだが、先程よりは落ち着いてくる。
「そうだよ。加世ちゃんを救いたい。どうやって……と、聞かれると困るけど、必ず救うよ」
「本当に?」
松谷は力強く頷いてみせる。加世は少しだけ笑顔を見せる。
「ありがとう、リョータ。でも、加世はもう消えるみたい」
松谷は加世の姿が存在が薄くなっていることに気付く。
「どうして? 消えるって……」
「だって、加世がここにいる理由なくなっちゃたから……此別村への復讐もしたし、リョータに会えて、温かいのいっぱいもらったから……もう思い残すこと……なくなっちゃったみたい」
加世は笑顔で松谷に告げる。しかし、その笑顔はどこか悲しげで寂しげなものだった。松谷はそれに気付きながら、何もできない自分に腹を立てる。
「加世ちゃん。僕は約束するよ。また加世ちゃんに会って、もう一人ぼっちの寂しい思いはさせない。救ってみせるから! ここに加世ちゃんが、加世ちゃん達がいたんだと絶対に忘れない。だから――」
松谷は自分の右手首のミサンガを急いで外し、今にも消えそうな加世の左手首に巻く。
「このミサンガに僕の願いと想いを込めて、加世ちゃんに――」
「……ありがとう」
加世は左手首に巻かれたミサンガを大事そうに右手で包むように触り、そのままふっと姿を消した。松谷は消えたことが信じられず、信じたくなく、その場に立ちすくむ。そして、自分の手を見て加世とともに消えてなくなったミサンガに気付き、これが終わりではなく始まりなのだと自分に言い聞かせ、決意を改めた。
松谷はHMDをシャットダウンさせる。目の前がブラックアウトすると同時に松谷の意識も途切れた。