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村に起こる異変

 松谷が次に目が覚めたのは、中河原の慌てた声に起こされた時だった。

「松谷君! 松谷君! 起きてくれ!」

「どうされたんですか? 教授?」

 松谷はまだ痛む頭を押えながら、ゆっくりと体を起こす。

「村の様子がおかしいんだ! どこを見ても村人がいないんだ……」

 松谷は急いで体を起こす。電流のように頭に痛みが走るがそれどころではなかった。

「それは本当ですか?」

「ああ、昼過ぎくらいからかな……人の気配が全くないから、雑貨屋をHMDを付けて覗いたんだが、誰もいなかった。役場も同じだった。でも、電気もエアコンも扇風機もついたままなんだ」

「教授! 今なんて言いました?」

「だから、雑貨屋にも役場にも人がいなかったと言ったんだ」

「そこじゃなくてっ!」

 松谷は声を荒げる。しかし、中河原は松谷の反応の意図が分からずまゆを寄せる。

「すいません、教授……今、何時でしょうか?」

 中河原は腕時計で時間を確認する。

「今は昼の一時四十五分だよ。それがどうかしたかい?」

 松谷は顔色を変えて飛び起きる。

「行かなきゃ……」

「どこへ行こうって言うんだい?」

「教授! 今すぐ村に行きたいんですけど、HMDの調整とか大丈夫ですか?」

「えっ? まあ……しかし、今は無理せずに横になっていなさい!」

「そんなこと言ってられませんよ!」

 松谷は止める中河原を振りほどきHMDを装着し、起動させる。起動の立ち上げ中も中河原はやめるよう説得を試みるが、松谷はそれを無視する。そして、視界が明るくなると村に向かって走り出した。


 松谷は村に入り、神社に向かった。途中、見える範囲で民家や雑貨屋の中を覗くも、今しがた全てをそのままで席を外しているか、ちょっとそこまで出かけたのではないかと錯覚するほど、ありありと生活臭だけを残して村人だけがいなくなっていた。

 神社に着き、鳥居をくぐり参道を抜け社殿までたどり着く。松谷は加世を探して、辺りを見回す。すると、参道から少し離れた何もないところに一人立ちすくむ加世を見つけた。

 松谷は加世の方にゆっくりと近づいていく。

「加世……ちゃん?」

 加世はビクッと体を強張こわばらせる。そして、ゆっくりと松谷の方に向き直る。その目には涙が溢れており、目元が赤くなっているところを見るとしばらく泣き続けていたのだろうと安易に想像できた。

「リョータ? なんでいるの?」

 松谷は「約束したから」と、答えたかったが、動けなかったとはいえ遅刻したことへの言い訳含め、何も言うことができず黙り込む。

「ねえ、リョータ……リョータは加世のこと見えて、声も聞こえてるんだよね?」

 加世は松谷にすがるように松谷のシャツを強く握り、震える声を絞り出すように言う。

「ちゃんと加世ちゃんのこと見えてるし、声も聞こえているよ」

「本当に? 嘘じゃないよね」

 松谷は頷き、自分の服を握り締める加世の手をそっと握る。加世はホッとしたのかまた涙がすーっとこぼれ落ちる。

「約束、守れなくてごめんね。加世ちゃん」

 加世は小さく頷く。

「ところで加世ちゃん。こんな神社の何もないところで何してたの?」

 加世はまたビクッとする。松谷は何か事情があるのはその反応ですぐに理解した。

「もしかして、僕が遅刻したからずっと待ってたりしてたのかな?」

 加世は小さく首を横に振った。

「それじゃあ、ここに来るまでに村の様子が少し変だったんだけれども、加世ちゃんは何か知ってる?」

 加世はその質問には答えなかった。辺りにはうるさいくらいのセミの鳴き声だけが響き渡っていた。

 しばらくすると、強い風が吹き抜け、セミの鳴き声が不気味なほどピタっと止まる。そして、加世は静かな声で話し出した。


「此別村の人はね、加世がみんな消したんだよ」


 松谷は加世が言ったことを、すぐには理解することができなかった。

「どういう……いや、なんでそんなことを?」

 加世はさっきまでの涙を流していた顔とは違い、冷たい表情を浮かべる。

「なんで? なんでって……それは此別村の人達が加世や加世のお母さんやお父さんに何したと思ってるの? 加世は絶対に許さないし、許せない」

 松谷は加世からはっきりとした敵意や怨念おんねんというべきものを感じる。感じてしまったがために何も言えなくなる。

「ねえ、リョータは生きてるの? 死んでるの?」

 加世は突然突拍子もない質問をぶつけてくる。

「もちろん、僕は生きているよ」

「信じられないよ!」

「信じられないって、なんで? ほらこうして……」

 松谷は手を広げたり動いてみせる。加世はそれを表情を変えないまま見つめる。


「じゃあさ、どうしてリョータにはもう死んでる加世のことが見えるの?」


「えっ……どういう?」

 松谷は意味が分からなくなり混乱する。

「じゃあ、そのへんのことから話してあげるよ」

 加世はゆっくりと淡々と話し始めた。

「あれはね、今から五十年くらい前のことなんだけれど――」

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